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女子サッカー発展の起爆剤は“女性らしさ”? 男女の違いを無視した「平等」による弊害

text by 鈴木肇 photo by Getty Images

状況改善のために必要な、「タブーなき」議論

 ボールについても他スポーツを例に挙げると、ハンドボールの場合、一般男子は3号球、女子は2号球を使用し、バスケットボールでは一般男子は7号球が、女子は6号球が採用されている。バレーボールに関してはボールの大きさは男女同じだが、ネットの高さは一 般男子が2.43メートルであるのに対し、女子は2.24メートルだ。男性と女性の運動能力の差を考慮したルール適用であることは言うまでもないだろう。

 一般的に、女子サッカーのトップレベルの試合におけるボールの移動時間は男子のそれと比較して約10~15%長いと言われている。プレーのスピード性を上げることによってより娯楽性のある試合を披露できるかもしれないという動きがあったのがスウェーデン。

 2010年夏、同国サッカー協会のラーシュ・オーケ・ラグレッル会長(当時)が女子サッカーの地位と人気を上げるためにボールのサイズを変更するという提案をし、著名ジャーナリスト/作家のヤン・ギュイー氏もボールとピッチを小さくすべきだと主張したことがあった。最終的にこの案は実現しなかったのだが、女性の条件に合ったルール適用を試す価値はあるのではないか。

 以上2点を挙げた。異論や反論はもちろんあるだろう。スポーツに“女性らしさ”を持ち出すのは不適切かもしれないし、ルール変更は現実的ではないかもしれない。大事なのは、決して良いとはいえない女子サッカーの環境を改善させるにはどうすればいいのか、ということをつねに意識して議論していくことではないか。

 2012年秋、スウェーデンのリンハムン・ブンケフロー2007というクラブチームが、男女トップチームに所属する選手の給与を同一にするという決定を下し、賛否両論を巻き起こしたことがあった。

 その後筆者はクラブの担当者に会って取材をしたのだが、あわせて、この件で専門家の意見も聞こうと思い、スウェーデン最大のサッカー誌『Offside』のヨハン・オレニウス編集長にもインタビューをした。

 オレニウス氏は「チケット収入やスポンサー収益という点で男子選手のほうがクラブに利益をもたらしている。市場価値を考えればクラブの決定は不公平だ」としながらも、「(女子サッカー選手の待遇という)重要なテーマについて議論を巻き起こしたことはよかった」と話した。

 女子サッカーを文化にするには具体的に何をすべきか。われわれは真剣に考えていかなければならない。

(文:鈴木肇)

【了】

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