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Jリーグ 8年前

中村憲剛が見る川崎Fの新たな境地。厚みの増した選手層。悲願のタイトル獲得へ

text by 藤江直人

「それ(優勝)はまだ早い、まだ早い」

川崎Fの風間八宏監督
川崎Fの風間八宏監督【写真:Getty Images】

 照れ笑いしながら謙遜する頼れる司令塔へ、風間監督が目を細めながら好調の秘訣を明かす。

「ベテラン選手のほとんどは自分の経験をなぞる形で、体の同じ個所しか動かさないことが多い。人間の体のなかで動かしていない箇所なんて、それこそ山ほどあるわけですよ。

 そうなると必然的にどんどん衰えていくんだけど、彼はいろいろなものを自分の考えで変えてきている。新しいものに取り組む姿勢は今年に始まったことではないし、だからこそもっとやれると思う」

 通算得点を159に伸ばし、歴代ランキングでトップに躍り出た大久保を中心に、狂喜乱舞の輪ができあがっていたサガン戦でのひとコマ。中村はチームメイトたちに「ごめん、ゆりかご、ゆりかご」とささやいている。

 3月29日に第3子となる次女が生まれながら、直後のアントラーズ戦で引き分けたことでお預けになっていた「ゆりかごダンス」を、熱狂するホームのサポーターの眼前でようやく披露できた。

「よかったよ。多分、みんな忘れていたから、オレがしつこく言ったんだけどね」

 ピッチとプライベートの両面で充実感を覚える日々。そのなかで手にしたサガン戦のあまりにも劇的すぎる勝利は、優勝するチームの流れを加速させるといってもいいのではないか。

「それはまだ早い、まだ早い」

 メディアから飛んだ「優勝」の二文字を時期尚早と退けた中村は、直後にこんな言葉を紡いでいる。

「ただ、勝つことは悪いことじゃない。こういう試合を引き分けで終わるのと、勝ち点3を取って終わるのとでは全然違いますから。まだまだ改良の余地があるし、ずっと課題、課題と言い続けてもいるんだけど、もうひとつ上(のレベル)に行けるんじゃないかという感じもする」

 16日のFC東京との「多摩川クラシコ」を皮切りに、レッズ、ガンバ大阪と強敵との3連戦を迎える。ファーストステージの胸突き八丁を乗り越えれば、残る上位チームとの対戦はマリノスだけとなる。

 手に届きそうで無縁だったタイトルを追い求めて12シーズン目。中村の弾む口調と精かんな表情が、フロンターレのなかで日に日に膨らむ可能性を物語っている。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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