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知られざる韓国軍隊チームの内実。元Jリーガーが語る“入隊したからこそ分かったこと”

text by キム・ドンヒョン photo by Kim Donghyun

“精神と時の部屋”で軍人の心構えを身につけたペ・スンジン

 仁川で1年間のプレーを終えた彼はKリーグクラシック(1部)の尚州尚武ではなく、この安山FCを入隊先とした。2014年12月のことだった。

「当時安山FCにはU-20代表で指揮を執っていたチョ・ドンヒョン監督がいた。私を知る監督ということもあり、それが決め手となった」と語る。加入直後からレギュラーとして32試合に出場、チョ・ドンヒョン監督からイ・フンシル監督に変わった今季は足首のケガに苦しみながらも中盤にコンバートするマルチさも発揮している。

 今季は得点でも力を発し、2ゴールを記録するなど活躍する。堅実なプレーでチームも1位。除隊後は早速1部で低迷している元の所属、仁川ユナイテッドに復帰する。

 一般的に除隊間近の軍人というものは、それこそ心が膨らむわけだ。2年間ほぼ断絶されていた一般社会に戻るからだ。2年は相当な時間だ。韓国では 時間が遅く流れるということで軍隊を人気漫画『ドラゴンボール』に登場する「精神と時の部屋」に例える人もいる。それほどの苦痛の時間である。しかしペ・スンジンは一般社会との断絶を口にしがらも、除隊を目前にした軍人とはとても思えない発言を切り出した。

「社会との違い? もちろん感じる。部隊の中ではほかの軍隊と変わらないのではないか。一般部隊と違って僕らは日課としてトレーニングをするだけ。横の建物には軍楽隊や一般警察部隊と共同生活をしている。だから“軍人”としての意識はしっかりと持っている。規律を守るとか、心構えとかに乱れがないように普段から心がけている」

 まるで軍人のような誠実な発言だと驚くと彼は「軍人だから当たり前」と答えた。愚問に賢答だ。彼は自分だけではなく、ここの選手たち全員がそういう意識を持っていると話した。軍人ながらもプロとしての自覚を持つ。

 この安山には日本ファンにお馴染みの選手がペ・スンジン以外にも数人在籍している。清水や徳島を渡り歩いたFWキム・ドンソプ、熊本、讃岐、札幌などでレギュラーだった屈強なセンターバック、チョ・ソンジンだ。彼らも黙々とトレーニングに励んでいる。

 ペ・スンジンは入隊で何を得たのか。真っ先に出たのは「サッカーに対する切実さ」だった。

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