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“チェアマン”の産みの親。「ダイヤモンドサッカー」解説者が抱いていた言葉へのこだわり【岡野俊一郎さん追悼コラム】

text by 藤江直人 photo by Editorial staff, Getty Images

解説者は専門家。もっと言葉を勉強しないといけない

 もっとも、日本語に直訳すれば「舵」や「車のハンドル」、あるいは「操縦桿」となるポルトガル語はあくまでも役割を表す。中盤の深い位置で攻守両面にわたって、チームが進むべき道を示す存在を「ボランチ」と呼ぶのであって、決してポジションではないと岡野さんは異議を唱えていた。

「FIFA(国際サッカー連盟)の公式記録を見れば、すぐにわかることですよ。ゴールキーパー、ディフェンダー、ミッドフィールダー、そしてフォワード。どこにもボランチなんて言葉は見当たらない。

 日本は外国の新しい言葉を喜んで使う傾向があるけど、これはとんでもない話でね。役割としてボランチを使うのはいいけど、ポジションとして使っちゃあダメだよ。その意味で言えば、サッカーの解説者はその道の専門家なのだから、もっともっと言葉というものを勉強しないといけない。

 たとえばゴールマウス。ひと昔前はゴールエリアのことをそう呼んでいたけど、それが時間の経過とともに変化してきて、いまではゴール前の危険な地域をゴールマウスと呼ぶようになった。日本にゴールマウスという言葉が伝わってすぐに、僕は旧知のイギリス人ジャーナリストに『どういう意味なんだ』とファックスして訪ねたものだよ。

 そうしたら、こういう答えが返ってきた。だからこそ『シュートがゴールマウスを外れました』なんて、こんな馬鹿げたシュートは存在しない。これが『ゴールマウスにいいクロスが入ってきました』ならいいんだけどね」

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