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“チェアマン”の産みの親。「ダイヤモンドサッカー」解説者が抱いていた言葉へのこだわり【岡野俊一郎さん追悼コラム】

text by 藤江直人 photo by Editorial staff, Getty Images

「センテンスは短く、しゃべりはチャーミングに」

日本サッカー界の父と言われるデットマール・クラマー氏。岡野さんはクラマー氏から解説についてアドバイスを受けていた
日本サッカー界の父と言われるデットマール・クラマー氏。岡野さんはクラマー氏から解説についてアドバイスを受けていた【写真:Getty Images】

 1968年から東京12チャンネル(現テレビ東京)で約20年間も放送された『三菱ダイヤモンドサッカー』における名解説を通して、岡野さんはサッカーの普及に尽力した。

 ソフトな口調で、それでいて的を射た、ウィットに富んだ解説の原点をたどっていくと、日本サッカー界の父と呼ばれたデットマール・クラマーに行き着く。時代は1960年秋。日本代表とユーゴスラビア代表の国際親善試合が国立競技場で行われようとしていた。

「その試合がNHKで中継されて、僕が初めて解説を務めることになったときに、すでに日本代表のコーチとして来日していたクラマーが『ひと言だけアドバイスしておくよ。センテンスは短く、しゃべりはチャーミングに』と言ったんだ。

 クラマーは西ドイツですでに解説の仕事をしていたからね。それでも、チャーミングという言葉は、いまもって解説における至言だと僕は思っているよ。あれから半世紀以上がすぎてしまったけど、やはりクラマーの言う通りだよね。

 日本代表の国際試合になると、民放のテレビ局はゲストを呼びますよね。どうしても芸能人が多くなるんだけど、あるテレビ局の関係者に聞いたら、テレビ局へ寄せられる苦情のほとんどが『芸能人を呼ぶな』というものらしいんだよね。

 何て言うのかな。やはりサッカーというスポーツ放送を、しっかりと届ければいいんですよ。それを視聴率を取ろうとか、ある意味で欲張るから芸能人をゲストに呼ぶとか、独特の声を上げたりする。スポーツはやはりスポーツなんですよね。

 ゲストが多すぎるし、解説者にしても自分がどのような経緯で解説しているのか、ということをもう一度考えないと。監督経験者なのか、代表経験者なのか。そのうえで自分の経験から見た解説を伝えないと。あまりはっきり言うと、身もふたもなくなっちゃうけどね」

 今月下旬からは、1ステージ制に回帰したJ1を含めた2017シーズンのJリーグが開幕する。10年間の大型放映権契約を結んだDAZN(ダ・ゾーン)がJ3までを含めた全試合を配信するため、試合の数だけ必然的に解説者も増える。来月下旬からはワールドカップ・アジア最終予選も再開される。

 新しい時代へと進んでいく日本サッカー界に明るい未来が訪れると信じながら、2014年秋にすでに鬼籍へ入っているクラマーとともに、岡野さんは雲のうえで解説に耳を傾けていくだろう。(文中一部敬称略)

(取材・文:藤江直人)

【了】

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