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“チェアマン”の産みの親。「ダイヤモンドサッカー」解説者が抱いていた言葉へのこだわり【岡野俊一郎さん追悼コラム】

text by 藤江直人 photo by Editorial staff, Getty Images

「失礼なようだけど、プロ野球の皆さんは英語をご存じないのか」

初代Jリーグチェアマンを務めた川淵三郎氏(右)と現在Jリーグチェアマンを務める村井満氏(左)
初代Jリーグチェアマンを務めた川淵三郎氏(右)と現在Jリーグチェアマンを務める村井満氏(左)【写真:Getty Images】

 言葉の正しい使い方に対して人一倍、強いこだわりをもっていた岡野さんは、川淵とのやり取りの席でプロ野球界に対して長年抱いてきた疑問もぶつけている。

「失礼なようだけど、プロ野球の皆さんは英語をご存じないのか、シーズンの前とシーズンの後、つまり公式戦ではない試合をすべてオープン戦と呼んでいる。これは間違いなんですよ。

 オープン戦というのは組織がまったく違うところを、すべてオープンに出られるという意味で使われる。テニスやゴルフのジャパンオープンなどをみても、その通りになっているよね」

 間もなく産声をあげるJリーグにおいては、絶対にオープン戦という呼称は使わないように――。このように釘をさした岡野さんに対して、川淵は再び代案をたずねてきた。

「シーズンが始まる前はプレシーズンマッチ、シーズンが終わった後はポストシーズンマッチ。川淵君も納得してくれたみたいだけど、ちょっとしたらまた連絡があってね。

 プレシーズンマッチとすると、文字数が限られている新聞社の方々から『ちょっと長い』と言われたみたいで。なので『プレマッチ』でいきますと。みんなが理解できればいいよ、と言いましたけどね」

 取材を通してこうした秘話を聞いたのが2014年の夏。おりしもJリーグが翌年から2ステージ制を復活させることが決まっていて、年間チャンピオンを決める大会の名称が一部のメディアで「ポストシーズンマッチ」と報じられていた時期だった。

 言葉の正しい使い方の観点で言えば、ポストシーズンマッチ、イコール、公式戦ではないことになる。年間チャンピオンを決める、もっとも華やかなスポットライトがあたる舞台が間違えて呼ばれるようではかなわない。岡野さんはすぐにJリーグに確認の電話を入れている。

「そうしたら『Jリーグとしては、そんなことは決めていません』と。どうやら、メディアの方々が勝手に使っていたようなんだよね。シーズンが終わった後に、その年のチャンピオンを決める公式戦が行われるはずがない。名称をきちんと考えないと。こういうことをやっているようでは、話にならないんだよね」

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