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Jリーグ 7年前

中村憲剛に見た、川崎Fの象徴としての姿。スタジアムの空気変えられるバンディエラ【カメラマンの視点】

シリーズ:カメラマンの視点 text by 松岡健三郎 photo by Kenzaburo Matsuoka

交代前にバンディエラが残したメッセージ

 ここでゲームをコントロールしていたのが憲剛だった。ボールタッチこそ少なかったが、攻め急ぐ必要がなくなった30分以降はポジションを下げて、大島、エドゥアルド・ネットと共に3ボランチのような動きを見せ、試合の流れを読んだ。さすが川崎の「バンディエラ」だ。

 イタリア語ではbandieraと表記し、旗や旗手を意味する。サッカーでは主に長年同一チームでプレーする中心的人物(いわゆるミスター○○)に使われることが多い。

 今季から川崎のキャプテンは小林に託された。この試合も後半にPKを決めて、2試合連続2ゴールと阿部とともに調子を上げており、川崎の好調の要因の一つ。しかし、キャプテンとしてとなると、自然と憲剛と比べてしまう。

 長年キャプテンをしていた選手と比べるのは酷だが、まだキャプテンらしさは憲剛にある。試合をコントロールして、チームを引っ張る。ベテランだからこそもあるが、やはり川崎の象徴と言える。

 その瞬間がこれだ。

中村憲剛
CKを前にメインスタンドに向かって、サポーターを煽る中村憲剛【写真:松岡健三郎】

 後半に入って、73分浦和にCKから槙野智章に決められ1点差。スタジアムが嫌な空気につつまれた。浦和が目覚めてしまったか!?

 後半、2点差ということもあり、川崎の重心は前半より後ろにあった。そこで、浦和に点を取られた。ここで川崎ベンチが動く。憲剛に代わって、家長昭博を用意した。

 交代のタイミングでのCK。セットプレー直前の交代は避けるチームが多く、ここでもセットプレー後の交代を選択した。

 スタジアムの空気を察したのか、憲剛はCKを蹴りに行くときに、メインスタンドに向かって、両手を振りあげた。静まった空気を呼び起こし、CKで反撃するぞとチームにも、スタジアム全体にも示した。このまま守り切るのではなく。

 CKはショートコーナーを選択し、得点に結びつかず。76分に家長と交代となった。

 その後の2点に直接的にプレーで関わったわけではないが、サポーターを煽り、まだ攻めて勝つぞと示した憲剛の合図。82分に小林がPKを決め、さらに、84分には交代出場の長谷川竜也がダメ押しの追加点。

 交代前に残したバンディエラのメッセージが、浦和の反撃ムードをかき消した。

 浦和とは再びACL準々決勝で戦う。8月23日(等々力)、9月13日(埼玉)へ大きな影響を与えた2点となるに違いない。

(写真・文:松岡健三郎)

【了】

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