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アジア 7年前

神様、仏様、ケーヒル様。豪州、偉大な“守り神”の神通力でロシアW杯へ一歩前進

text by 植松久隆 photo by Getty Images

まさかの失点。怪我の功名で反転攻勢に

 しかし、短時間で決定的な仕事を成し遂げる類稀なる決定力、そして神々しいまでのカリスマ性が代表チームに不可欠なものであることもわかっていたからこそ、彼の脅威を最大限に生かすスーパーサブ起用を続けていくべきだと唱え続けていた。そして、それが単眼的な見方であったことが、W杯への希望をつなぐ大事な試合でのケーヒル自身の意地によって証明された。

 後がない大一番の誰もが浮足立つ緊張感の中でこそ、様々な修羅場をくぐってきたケーヒルの経験と得点への嗅覚こそが最大の強みとして発揮され得たのだろう。もはや、それは“神通力”とも呼ぶべきレベルだ。

 さて、試合を簡単に振り返ろう。「不明を恥じる」というわけではないだろうが、ポスタコグルー監督もただの頑迷さだけではない柔軟性を見せた。得点が欲しいという意味でわかりやすくシステムをいじって、選手が長めのボールを蹴るシーンが何度も見られた。この日のシステムは、3-1-5-1とでも言おうか、攻撃的MFを3枚フラットに並べ、後ろにマーク・ミリガンの1ボランチという布陣。

 ケーヒルが前日会見での監督の示唆の通りに先発したのは驚かなかったが、最大のサプライズは当の本人も試合後に「言われたときには、少し怒りのような感情があった」と吐露したように、司令塔として今や欠かせないはずのアーロン・ムーイのベンチスタートだった。パスの受け手になれて、自らも切り込んでチャンスメイクをできる人選で、ムーイよりもジェームズ・トロイジやトム・ロギッチに強みを感じたのが理由だろうか。8月の日豪戦のような体調不良ではなく、戦術的な意味での先発見送りの意図がどこにあったかは、ポスタコグルー監督のみぞ知るところだ。

 いずれにしても、まさかのムーイ不在で始まった試合は、立ち上がりから意外な展開を見せた。前半6分、中盤のど真ん中でのミリガンの不用意なパスをカットされると、素早い縦への展開から最後はエースFWオマール・アルソーマに冷静に決められ、シリアに先制を許してしまう。

 まさかの早い段階での失点を受けて、多くの人々の「ムーイを早く出せ」との思いが通じての天の配剤か、前半10分過ぎに左サイドハーフで先発していたブラッド・スミスが特に接触のないところで左足の付け根を負傷してしまい、交代を余儀なくされる。そこで呼ばれたのが、ムーイだった。3枚の攻撃的MFの一翼を担っていたロビー・クルーズがスミスの代わりに左サイドへ移り、ムーイが本来であれば試合開始から収まっているべきポジションに収まった。これで、サッカルーズの反転攻勢の準備が整った。

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