なぜ、誰も何もしなかったのか?
2010年南アフリカワールドカップ、このカタール戦とよく似た状況になった試合があった。グループリーグ最後のデンマーク戦だ。デンマークのパスワーク、当時はまだそういう言葉はなかったが、ポジショナル・プレーによって日本はボールの奪いどころをなくして制御不能になりかけていた。
そのとき、遠藤保仁がベンチに向かって「このやり方ではダメ」という意味のことを言い、守備時の噛み合わせを変更している。後で見返してみると遠藤の修正案が必ずしも正解ともいえないのだが、とにもかくにも方針が定まったことで、それ以降は落ち着きを取り戻すことができた。明らかに状況が悪い、それを感知し、さらに修正案を出せる選手がいたのは大きかった。
2018年ロシアワールドカップ、ベルギーに2-0でリードしたとき、長谷部誠は西野朗監督に「どうするんですか?」と聞いた。残り時間はたっぷりある。攻めるのか守るのか。西野監督の答えは「このままでいい」だった。
後にテレビ番組に出演した西野前監督は「何とも中途半端なことを言ってしまった」と後悔していたが、長谷部はチームの意思統一をする必要性を感じていたわけだ。こちらは状況が良すぎたために迷いが出たケースだった。
カタール戦前半、明らかに状況は悪かった。噛み合わせに原因があることもわかっていたはずだ。ところが、誰も何もしなかった。「どうすんだ、これ」とベンチにSOSを出した選手もいたようには見えず、森保一監督が何か修正案を授けた形跡もない。
対策としては前から1枚下げて噛み合わせてしまうのが簡単だが、それには原口元気か南野拓実のポジションを変えなければならない。その判断をピッチ上の選手で行うのは難しかったと思う。選手たちで何かできるとすれば、ディフェンスラインをペナルティーエリアまで下げての総退却ぐらいだろう。
立ち位置を変えないならスペースを潰して嵐が過ぎ去るのを待つしかない。ベンチが動かなかったのは謎だ。動く前に2点目が入ってしまったのかもしれない。