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あるサッカー選手が“死”に直面した3ヶ月。幸せの絶頂から奈落の底へ…国際世論をも動かした大事件とは

text by 植松久隆 photo by Getty Images

3ヶ月ぶりに釈放で「オーストラリアは僕の国」

ハキーム・アル・アライビ
解放に向けた活動を主導したクレイグ・フォスター氏(左)と会見し笑顔を見せたハキーム・アル・アライビ(右)【写真:Getty Images】

 高い知名度を持つ元豪州代表選手で、人気フットボールコメンテーターのクレイグ・フォスターを中心に据えたキャンペーンは、国内のサッカー界の総元締めである豪州サッカー連盟(FFA)だけではなく、AFCやFIFAといった上位団体をも動かした。

 さらにはフットボール界で実際に「ボイコット」の動きも出た。FFAは今月6日、予定されていた豪州U-23代表のタイ遠征の中止を発表。A代表と兼任するグラハム・アーノルド監督は、その決定の理由を「豪州の各代表チームは、ハキーム・アル・アライビの解放に向けて団結しており、引き続きコミュニティに対して彼の解放に向けての働きかけを続けていく」と、遠征中止が豪州とタイの間に横たわる今回の問題の存在によるものであることを明確に示した。

 女子代表マチルダスの監督の電撃解任や、二転三転したAリーグの拡張問題などで大いに批判を集め、求心力を下げていたFFAと、その批判勢力もアル・アライビ解放の件に向けて一致団結して動いた。

 文字通り「オール豪州」の対応で、国内だけに留まらず国際世論を味方につけられたことが、タイ政府の軟化、そしてバーレーン政府の引き渡し要求の取り下げという結果を導き出し、「釈放」へと事態を大きく動かしたのだった。

 そして12日朝、約3ヶ月ぶりにメルボルンの地に降り立ったアル・アライビは、解放運動の先頭に立ち続けたフォスターらに寄り添われながら、「オーストラリアは僕の国だ。まだ市民権はないけれど、僕の国はここさ。オーストラリアが好きだから、この国で死にたい。ありがとうオーストラリア」と、自らを救ってくれた国とその人々への深い感謝の意を述べた。そんな彼を横にしてフォスターも「オーストラリアを誇りに思う」と運動の大きな支えとなった豪州国内の様々な人々を称えた。

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