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日本代表 5年前

日本代表のコパ・アメリカ参加は死活問題だ。アジアにない教訓、「二面性」を強化する唯一の機会【西部の目】

20年ぶりにコパ・アメリカ(南米選手権)に招待国として参加した日本代表。1敗2分のグループCで3位となり、グループステージ敗退となったが、若手主体で臨んだチームにとっては実りがあるものとなっただろう。この大会への日本の参加は、今後の代表チームの強化策においては死活問題となりうる。その理由とは?(文・西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

招待国が必要な南米の事情

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日本代表にとって強豪国と対戦できる機会は多くない【写真:Getty Images】

 コパ・アメリカに日本が参戦したのは1999年以来だった。2011年にも招致されていたが、震災の影響で辞退。15年も出場のチャンスはあったがアジアカップとシーズンが重なっていたため「選手を招集できない」という理由で断っていた。

 ブラジル開催の今大会、地元メディアからはアジアからの参戦を疑問視する声が出ていた。ただ、コパ・アメリカは他の大陸選手権にない事情がある。CONMEBOL加盟国が10カ国しかなので、ある程度の大会規模を維持するには他連盟から招待するしかないのだ。

 メキシコは1993年以来の常連だった。しかし、メキシコの加盟しているCONCACAFにはゴールドカップがある。2011年のコパ・アメリカにもメキシコは参加しているが、そのときの代表はU-20だった。U-23に不祥事があって1つ下のカテゴリーでの参戦になってしまったのだが、この前例があるから「(日本はU-23主体なので)大会を軽視している」という批判はやや苦しいものがある。

 それよりも、少なくとも北中米の「アメリカ」から招待すべきで、アジアではないだろうという主張は筋がとおっている。ただ、U-20を送り込まれるぐらいならアジアのほうがましということはあるかもしれない。いずれにしても、どの国を招待すべきかに議論はあるにしても、他大陸からの参加を容認してきたわけだ。

 今回、日本は勝てなかったが2つのドローで勝ち点2をとれた。とくに大会最多優勝国のウルグアイと引き分けられたので、「レベルが低すぎる」という批判はあたらない。U-23主体といってもオーバーエイジ5人が含まれていて、「大会軽視」という批判もぎりぎりでかわせる。

 そもそも日本側に大会を軽視する意図などない。単純にアジアカップと同年のために招集に強制力がなく、A代表のベストメンバーを組めなかっただけだ。

 日本サイドからすると、コパ・アメリカに参加する意義は十分にあった。というより、今後の代表強化にとってコパ・アメリカへの継続的な参加は死活問題でさえあると考える。なぜ、コパ・アメリカが日本に必要なのか? 順を追って説明していきたい。

日本代表強化のロードマップ

 遠大なところから話を始めたい。日本が将来ワールドカップで優勝するためにどうすればいいか、である。

 ワールドカップは、いってしまえば強豪7カ国のための大会だ。優勝国であるブラジル、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、ウルグアイに準優勝3回のオランダを加えた7カ国だ。ロシア大会で準優勝のクロアチア、ベスト4のベルギー、イングランドあたりまでを加えても優勝候補は10カ国ぐらいだろう。日本が優勝するには、これら7~10カ国を次々に倒していかなければならないわけだ。

 FIFAランキングなら、トップ10に入っているぐらいでないと優勝を狙うのは現実的とはいえない。実際にランキングトップ10に入るには、ワールドカップでベスト4ぐらいにならないとアジアの国がそこまでランクを上げるのは難しいのだが、ランキングを上げることが目標ではない。それに相当する実力があればいい。

 トップ10相当の力を持つには、ヨーロッパのトップクラスでプレーしている選手で編成されていて、なおかつ数人はレアル・マドリー、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンなどのトップ・オブ・トップで活躍しているぐらいでないと難しい。過去の優勝国の例をひけば、監督も日本人であることが望ましい。つまり、スター軍団を束ねる監督が必要で、監督もヨーロッパ等で実績を持つスター監督というのが優勝する日本のイメージになる。

 あまりに遠大すぎるだろうか? ただ、その前段階にはすでに差し掛かろうとしている。

 FIFAランキングならトップ20が前段階になる。ワールドカップ優勝は無理だが、ベスト8なら不可能ではないというレベル。現在のFIFAランキングで日本は28位につけている。2015年の50位では見込みがないが、20位以内にはあと少しなのだ。

 もちろんランキング自体は目的ではない。その実力があるかどうかだが、ベスト8を狙える手前の段階には、あと少しで到達できるというところまでは来ていると考えられる。

 だが、トップ20の常連に入るには大きな壁も存在している。そこを突破するカギになるのがコパ・パアメリカなのだ。

ベスト8に必要な二面性

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日本代表の強化のためには、コパ・アメリカ参加は死活問題になる【写真:Getty Images】

 トップ20に入るには、あるいはトップ20からトップ10を狙うには、それぞれにハードルがある。一足飛びにはいかない。いずれも基本的には「上位を食っていく」戦いになる。一方で、アジアにおける日本はトップクラスに君臨している。アジアカップやワールドカップ予選は「下位にとりこぼさない」ための試合が大半を占める。このアジアとワールドカップのギャップを埋めなければならない。

 ただ、この日本の立ち位置はトップ20を狙うには好都合といえる側面もある。日本は上位を食う戦いでのし上がっていかなければならず、それには二面性が必要だからだ。上位相手に打ち合っても勝ち目はない。しかし、専守防衛はさらに神頼みになる。上位相手には堅守速攻が基調になるが、ボールを保持しての攻撃力も必要だ。

 例えば、カウンター狙いとしても、それが上手くいきそうにない状況ならポゼッションに切り替えられるかどうか。ポゼッションできれば、点はとれなくても試合の流れは変えられる。押し込まれっぱなしにはならない。そもそもリードされたら終わりでは勝ち目が薄い。

 上位を食っていくにはプランAだけでなくプランBでも戦える二面性が必要になる。要は、リーガ・エスパニョーラならレアルやバルサと対戦するチームが行っている弱者の戦法、それを高いクオリティで行えるかどうか。

 アジアでの日本の戦い方がプランAとすると、プランBを持たなければならない。ところが、現状のマッチメークではそれが困難なのだ。

公式戦を格上と戦う意味

 2014年ブラジルワールドカップの後、ロシア大会までに日本代表は51試合を行っている。そのうち対欧州と南米が5試合ずつ、中米とアフリカが各3試合、オセアニア1試合、アジアが34試合。そのうち22試合が公式戦で相手はすべてアジアだった。

 ワールドカップアジア予選、アジアカップ、それにEAFF E-1 サッカー選手権(旧東アジアカップ)を加えて、7割近くが対アジアになっている。格上を食っていく戦いがカギになるのに、はっきり格上といえるような相手との試合が非常に少ないのが現状だ。

 ヨーロッパはすでにネーションズリーグをスタートさせていて、ヨーロッパ勢と強化試合を組むのは難しくなった。欧州遠征をすればやれないことはないはずだが、そもそもネーションズリーグを始めた理由が「親善試合は意味がない」なのだから、試合を組めてもどの程度のモチベーションがあるかは疑わしい。森保一監督になってからは、まだ対欧州は1試合もない。

 そこでコパ・アメリカなのだ。公式戦で強豪国と対戦するチャンスは現状でこれしかない。2020年からはワールドカップ中間年に開催していく予定なので、選手の招集にも大きな問題は生じない。Jリーグとの調整は必要だが、主力は海外組になるだろう。

 森保監督はしきりに「対応力」を口にしている。例えば、プランAでスタートした試合でも途中でプランBに切り替えなければならない状況がある。さらに状況が変わってプランAに戻さなければならない場合もある。3人の選手交代で変化を出せるとしても、90分間プレーする8人に関しては、どちらのプランにも順応できなければならない。当然、対応力が問われる。アジアでは主にプランAで押し切れても、格上相手にはプランBが必要で、さらにプランAにも変化できなければならない。こうした二面性を強化する機会は現状でコパ・アメリカしかない。

 今回のコパ・アメリカでは、3試合とも相手に攻め込まれる時間帯があった。そこを耐えきれずに失点している。あの流れを変えられないと格上に勝つのは難しいと痛感したに違いない。それが明確になっただけでも参加した意味はあった。トップ10へのハードルはまた別にあるが、当面トップ20を目指すためには二面性や対応力は不可欠であり、そのためにはコパ・アメリカ参加はマストといっていい。

(文・西部謙司)

【了】

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