メッシも憤怒…崩壊したアルゼンチン代表対チリ代表。一発退場に至るまでの不思議な展開とは?【コパ・アメリカ】

コパ・アメリカ2019(南米選手権)・3位決定戦、アルゼンチン代表対チリ代表が現地時間6日に行われ、2-1でアルゼンチン代表が勝利を手にした。前半37分にガリー・メデル、リオネル・メッシが退場する乱戦になったが、そこにいたるまでどのような試合展開だったのか。(文:内藤秀明)

2019年07月08日(Mon)14時09分配信

text by 内藤秀明 photo Getty Images
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コパを振り返る

ブラジル代表
ブラジル代表の優勝で幕を閉じたコパ・アメリカ2019【写真:Getty Images】

 3位決定戦について深く触れる前に、少しコパ・アメリカ全体について少し振り返りたい。

 どちらが上、と言うつもりはないのだが、普段は欧州サッカーを見ている人間からすると、この南米の大会は不思議な試合が多かった。

 クラブチームに比べると、代表戦は戦術的な戦い方をすることは難しいのは当然だ。共に練習する時間は短く、オブラートに包まず言えば寄せ集め集団だからだ。とはいえども、ワールドカップやユーロなど欧州のチームが数多く参加する大会に比べると、コパはかなり個人で勝負が決する試合が多かったように感じる。

 このご時世、さすがに完全マンマークの守備をするチームはないが、欧州サッカーに比べるとかなりマンマーク寄りの守り方をするチームが多く、「1対1」あるいは「個」の重要性を感じるシーンも多い。逆に言えばそれこそが南米サッカーの面白さなのかもしれない。

 筆者は「普段見ているサッカーとは違うのだな」と若干の違和感をいだきつつも、個人の突出した技術、スピード、アイディアなどに注目する大会と位置付けて、試合楽しんでいた。

 普段、欧州のチームで組織的なサッカーに組み込まれて苦しんでいる選手たちが、南米の代表に変えると、水を得た魚のように活躍する。そんな現象を以前までは不思議に思っていたのだが、この組織に縛られすぎないチームの雰囲気が関係しているのかもしれない。

 コロンビア代表のハメス・ロドリゲスや、チリ代表のアレクシス・サンチェスはその良い影響を受けた選手たちかもしれない。逆に言えばリオネル・メッシが代表だとバルセロナほどの活躍はできないのは、様々な要因があるものの、そんなサッカー観の違いも大きいのかもしれない。

光ったアルゼンチン代表の個

アルゼンチン代表
アルゼンチン代表は個の力が際立っていた【写真:Getty Images】

 さて今回の3位決定戦は、そんなコパ特有の不思議な一戦になっていたように思う。

 アルゼンチンは優勝の芽が潰えたからか、左からセルヒオ・アグエロ、リオネル・メッシ、パウロ・ディバラの3トップで試合に臨んだ。この3枚は非常に強力である程度優位な状態でボールを持った場面での脅威度は南米どころか世界でも屈指のものだった。

 実際、12分はメッシとアグエロふたりの抜け目なさと意思疎通だけでゴールが決まった。セットプレーを素早くリスタートし、メッシが裏のスペースにスルーパスを送る。それを受けたアグエロはドリブルでGKもかわして、無人のゴールのネットを揺らした。

 2点目にいたっては、ほぼディバラの個人技だけで決まった。22分、ジオヴァニ・ロ・チェルソの縦パスをディバラが受け取ると、独特のツータッチでマークにつくゴンサロ・ハラを引きはがすことに成功。2タッチ目は少し伸びてしまったが、持ち前のスプリント能力で追いついて、ループ気味のシュートでネットを揺らした。

 両ゴール共に、チリ代表からすれば本当になんでもないシーンだった。そんなほんの少しの隙を、アルゼンチンの3トップは見逃さず、ネットを揺らした。もちろんある程度のスカウティングなどで、相手の弱点などは分析していただろうが、それ以上に個人の即興のアイディアや能力が際立った結果だ。

チリ代表になかったアイディア

 一方でアルゼンチン代表に穴がなかったかというとそうでもない。守備面では大きな穴があった。前線の3トップは自身より前にボールがあると、ある程度プレスをかけるのだが、自身のラインを突破されると一気に守備意識が落ちる。結果、ミドルゾーンを中盤の3枚でカバーするしかなく、相当な負担を強いていた。

 例えば近しい形でいうとイングランドのリバプールも、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーの3トップを前線に残すために、プレスバックをさせ過ぎない守備戦術をとることはある。ただ彼らはその戦術を機能させるためにも、まず3トップのファーストラインを突破させないための決まり事をチームと共有している上に、万が一ファーストプレスを突破されてもなんとかするための走力を持つ選手たちを3ボランチに据えている。

 アルゼンチンには、もちろん代表のチームなので、そこまでの準備がないまま、やや漫然と3トップを前線に残していた。もしチリがワイドに展開しながらサイドに人数をかけて攻めればチャンスはあったはずだ。

 ただしチリは、そこまで戦い方の幅を持ち合わせていなかったようだ。5-3-2のシステムをほぼ固定で試合を進め、3バックの一角が少し高い位置に上がるくらいの工夫しかできずじまい。相手のサイドバックが孤立している状態を崩すことはできなかった。

 例えばだが、シンプルな4-4-2に変えて、ウイングとサイドバックで人数掛けてサイドを攻略できれば、もう少しアルゼンチンを押し込めたかもしれない。ただそのような組織で崩す的な発想はやや希薄なまま、チリのウイングバックが純粋にアルゼンチンのサイドバックに個人戦を挑んでいた。

 そんなチリの工夫のなさにアルゼンチンは救われている側面も大きかった。

そして試合が壊れる

アルゼンチン代表
小競り合いを起こしたメデルとメッシはともに一発退場となった【写真:Getty Images】

 そうこうしているうちに、チリ代表のエース、アレクシス・サンチェスは負傷で17分にピッチを去り、メデルとメッシが小競り合いで共にレッドカードを受けるという、両チーム、観客、誰にも得がない展開になってしまった。

 その後は10人対10人で試合が行われたこともあり、よりスペースが増え、個人戦的な色が濃くなる。そんな中、途中出場のアンヘル・ディ・マリアがワールドクラスの突破力を見せるなど、個々の活躍や白熱でいうと見どころも多かったが、試合として見ると少し壊れてしまっていた。最終的にアルゼンチンは1点こそ返されるものの、それ以上の失点は許さず2-1での勝利に成功した。

 個人戦の色が濃かったことや、VARがあるにもかかわらず審判が不思議なジャッジをして試合が壊れるなど、人間味が溢れる3位決定戦の試合展開はある意味ではとても南米らしい戦いだったといえるし、エンターテイメントとしては面白かったかもしれない。ただやはりどこか「もう少しどうにかならなかったのか」という気持ちもある。少し不思議な終わり方をしてしまった。

 やや締まりの悪い結末だが総括すると、アルゼンチンに関しては、組織として完成していない中、個々の能力の高さで3位まで上り詰めた点には素直に拍手を送りたい。

 一方でメッシとしては、「このままでは終われない」という思いも強くなった大会にになったかもしれない。痛烈な大会批判で物議をかもしているが、また来年にもコパは開催される。32歳という年齢を考えれば、来年こそがメッシにとってのコパ優勝ラストになるのかもしれない。

 1993年以来の優勝を母国にもたらすチャンスはまだ残っている。メッシが気持ちよく代表から引退するためにも、個人同士の対決が魅力の大会とはいえども、アルゼンチン代表は来年に向けてもう少し組織としての形を完成させたいところだ。メッシは次こそ代表にタイトルをもたらすことはできるのか。

(文:内藤秀明)

【了】

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