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Jリーグ 5年前

シュミット・ダニエル、自分探しの旅「一生サッカーと共に生きていくことを、決めたわけではない」【インタビュー後編】

GKシュミット・ダニエルがベガルタ仙台からベルギーのシント=トロイデンへ移籍した。発売中の『新・GK論 10人の証言から読み解く日本型守護神の未来』(田邊雅之著/カンゼン刊)で自らの人生を模索中と語ったシュミットだが、移籍に踏み切らせたものは何だったのか。ベガルタ仙台での最終戦直前に行われたインタビューを前後編でお届けする。今回は後編。(取材・文:田邊雅之)

text by 田邊雅之 photo by Masayuki Tanabe

「これはもっともっと高めていかなければいけない要素だなと」

前編はこちら

シュミット・ダニエル
ベガルタ仙台からシント=トロイデンに移籍したGKシュミット・ダニエル【写真:田邊雅之】

――たとえば今年1月に行われたアジアカップでは、日本代表の一員としてピッチに立ち、あのエクトル・クーペルからも絶賛されている。日本代表での経験もまた、今回の決断を下す上では追い風になったのかなと思いましたが。

「1ヶ月間、ああいうメンバーの中でトレーニングすることで、間違いなく成長できたと思いますし、実際に試合にもラッキーなことに出ることができた。そういう意味では、かなり自信が深まったというのは自分でも感じましたね」

――逆に浮かび上がった課題は?

「シュートストップですね。これはもっともっと高めていかなければいけない要素だなと、毎回、代表に行くたびに思う部分です」

――従来は、権田選手や川島選手が、日本サッカー界を代表するキーパーとして海外でプレーしてきました。これからはシュミット選手自身が、若い世代のキーパーにとっての一つのロールモデル、大きな目標になっていくことになります。

「いや、自分はまだ全然、そんなんじゃないです……もちろん、そうなれるように頑張りますけど」

「理想というか、自分がすごいなと思うのは…」

――でも日本代表にもコンスタントに選ばれるようになり、今回はついに欧州に渡ることになった。これは日本サッカーにとっても非常に大きいし、相当な覚悟も必要になる。私は今回のニュースを聞いた際に、サッカーと共に一生を生きていくことを決められたのかなと思いました。その点についてはいかがですか? 実はそれをお訊きしたくて今回、お伺いしました。

「なるほど……でも僕自身は、一生サッカーと共に生きていくことを、まだ決めたわけではないんです。ただ理想は……理想というか、自分がすごいなと思うのは、向こうには(自分自身の未来や社会のために)投資をしている選手もいるじゃないですか。

 たとえばフラミニ(マシュー・フラミニ)なんかは、環境問題を解決するためにすごく投資をしている。ああいう生き方ができる選手は、やっぱりすごいなと思いますね」

――今回の移籍に関しては、自分自身の物の考え方や人生観も広げていきたいという思いもある。

「ええ。新しい文化や知識、いろんな考え方に触れあったりできると思いますし。そういう部分はすごく広がると思います」

――では僕たちは今回の挑戦を経て、サッカー選手としても人間としてもまた一回り大きくなったシュミット選手に、またスタジアムでお会いできると。

「そうしたいですし、そうなれるように頑張ります」

――その際にはまた是非、現地でインタビューをさせてください。今回は本当におめでとうございます。僕は頑張っている人に頑張れというのは好きではないのですが、本当に頑張ってくださいね。

「有難うございます。ええ、是非またお願いします。楽しみに待ってますから」

暖かく送り出したファン、クラブのために

 挑戦者はいずれも美しい。

 奥寺康彦以来、日本人サッカー選手は単身で海外に渡ることで、自らと日本サッカーの可能性を切り拓いてきた。事実、この試合の直前には鹿島アントラーズの安部裕葵がバルセロナに移籍することが発表されている。以降も欧州組の一員になることが決定した選手が相次いでいる。

 だが、それを差し引いてもシュミットのケースは、きわめて大きな意義を持っているように思う。理由は述べるまでもない。彼はゴールキーパーという、海外挑戦が最も遅れていたカテゴリーで決断を下したからだ。かつて欧州の1部リーグに移籍したGKは、シュミットの前には3人しか存在しなかった。

 またシュミットは、日本人GKそのものが新たな新境地を拓く可能性も秘めている。鹿島戦で披露したように、恵まれた体格と反応の速さを活かしたセービングだけではなく、ビルドアップに積極的に絡んでいくスタイルも特徴としている。『新GK論』のインタビューでは、実はそれこそが自分の持ち味だと断言していた。

 シュミット自身が語るように、道は平坦ではないだろう。彼は移籍が決まって以来、いずれはプレミアリーグでプレーできるようになりたいと抱負を語っていたが、まずそのためにはティボ・クルトワなどを輩出したベルギーで実力を証明しなければならない。

 また今回の移籍は、本人にとって苦渋の決断でもあった。現に彼がまっさきに口にした要素の一つは、シーズン中に移籍せざるを得なくなったことに対する謝罪の言葉だった。

 だがベガルタのファンとチーム関係者は実に快く、さらには極めて暖かくシュミットを送り出した。そしてシュミット自身、後ろ髪を引かれながらも新たな可能性に賭けた。

 だからこそシュミットは結果を出さなければならない。それは彼自身が模索する、人生の答えを探す縁になる。

 サッカー人としても、一人の人間としても、ダニエル・シュミットの自分探しの旅はこれからも続いていく。この若者の決断と挑戦、新たなる船出を心から祝福したいと思う。

(取材・文:田邊雅之)

9784862555045

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