ヴィッセル・酒井高徳が担う「懸け橋」の役割。狂った歯車を噛み合わせる類稀なるリーダーシップ【欧州復帰組の現実(1)】

ハンブルガーSVに所属していた酒井高徳が14日、ヴィッセル神戸へ完全移籍し、17日の浦和レッズ戦で7年半ぶりのJリーグ復帰を果たした。Jリーグ屈指の戦力を誇りながら15位と低迷する神戸に、ドイツ名門クラブの主将を務めた男は何をもたらすのだろうか。加入早々に見えたその効果と、酒井が果たす役割とは。(取材・文・写真:元川悦子)

2019年08月22日(Thu)10時40分配信

text by 元川悦子 photo Getty Images
Tags: , , , ,

酒井高徳が多国籍軍団の懸け橋に

0822sakaigotoku_mtkw
ヴィッセル神戸に加入した酒井高徳【写真:Etsuko Motokawa】

 フェルナンド・トーレスの現役ラストマッチとなるサガン鳥栖戦を3日後に控えた20日。猛暑の神戸・いぶきの森練習場で、28歳の新戦力DF酒井高徳が精力的にトレーニングに励んでいた。

 練習中には、親友・山口蛍ら日本人選手はもちろんのこと、得意なドイツ語を駆使してルーカス・ポドルスキやセバスチャン・ハーン・ヘッドコーチらと積極的にコミュニケーションを取る。そしてゲーム形式に入ると、ドイツ・ブンデスリーガ仕込みの激しい球際と寄せを随所に披露する。7年半ぶりにJ復帰を果たした彼の一挙手一投足を、トルステン・フィンク監督も頼もしそうに見つめていた。

「今季からJリーグの外国人枠が5人と広がって、今は試合に出ている半分が外国人になった。そこで何も喋らない状態になってしまったら、サッカーは難しいと思うんです。試合中は観客の声でかき消されることも多いけど、実際の選手はピッチ内ですごく喋っているし、それがなくなってしまったらチームとして機能しなくなる。僕はその懸け橋になりたいし、どんどん声をかけたいと考えてます。今回、日本に戻ってきましたけど、自分はもともと外国人を相手にしていたんで、環境が変わった感じはない。そういう意味ではすごくやりやすいですね」

 ハンブルガーSV(HSV)でキャプテンマークを巻いた男は、新天地でも臆することなく強烈なリーダーシップを前面に押し出そうとしている。そういうタイプの日本人選手がこれまでの神戸にはいなかっただけに「この補強は非常に大きい」と三浦淳宏GMも心強く感じているようだ。実際、酒井高徳のJ復帰戦となった17日の浦和レッズ戦で、チーム全体からかつてないほどの結束力と一体感が漂っていたのも、彼のコミュニケーション力とアグレッシブさによる部分が大だと言っていい。

Jリーグ全体の守りの問題点

 もう1つの酒井高徳加入効果は、守備面の強化だろう。今季の神戸はJ1・23試合を戦って総失点39とリーグワースト2位タイの状況にあえいでいる。すでに2ケタ得点をマークしているダビド・ビジャや6ゴールのウェリントン、古橋亨梧といった得点力あるアタッカーが揃っていて、攻撃の方は上位陣と比べても決して見劣りしない。そんな彼らが目下、15位に沈んでいるのも、やはり守りの脆さが大きな要因と言わざるを得ない。彼はそんな神戸の守備のみならず、Jリーグ全体の守りの問題点をズバリ指摘した。

「浦和戦で僕が3人に囲まれながら、キープして抜け出してチャンスを作ったシーンがありましたけど、正直、Jリーグの球際の部分はドイツとは全然違いますね。ドイツでの練習の方がJの試合よりプレッシャーがあるかなと感じます。それにドイツの場合、自分が1人をかわしても、その後に『スペースがないな』と感じて2人目、3人目で取られることが多いんですけど、Jの場合は1人かわしたらスカスカに空いてくる。やっぱり守備のオーガナイズが違うんだと思います。

 神戸もそこはきちんとやらないといけない部分ですね。自分のサイドをしっかり守るのは当然で、ラインの上げ下げも行くところと行かないところをしっかり判断しないと。この暑さで全部が全部、前から行けないので、後ろに引いた時に重くなりすぎないようにして、タイミングを見ながら押し上げ、そこからボールを取りに行く形が大事になってくる。浦和戦はそのあたりがスムーズに行ったんで、声を掛け合いながらもっとよくしていければいいと思ってます」

自分はチームの歯車のワンピース

0822vissel_mtkw
和気あいあいと写真を撮るヴィッセル神戸の選手たち【写真:Etsuko Motokawa】

 酒井高徳が神戸やJリーグを冷静に客観視できるのも、ブンデスリーガ1部で170試合、2部で31試合に出場してきた高度な経験値があるから。シュトゥットガルト時代にはUEFAヨーロッパリーグを経験し、HSV移籍後は2年目の16/17シーズンから毎年のように苦境にさらされてきた。この年は何とか1部残留を果たしたものの、17/18シーズンはブンデス参入時から1部を戦い続けてきた名門の2部降格が現実になってしまった。

 その窮地からチームを救うべく、昨季は2部で奮闘したが、心ないサポーターから容赦ないバッシングを受けることになった。そして1部復帰の道が断たれたリーグ最終戦・デュイスブルク戦では、後半38分からピッチに立つや否や、凄まじいブーイングと指笛が浴びせられた。

 プロ人生最悪の出来事を本人は「もう忘れました」と苦笑したが、つねに評価され、結果が出なければ批判にさらされる立場だということは改めて再認識させられたという。

「HSVでの僕は批判されるべき対象の1人ではもちろんあったし、評価自体が間違っていたとは思ってません。ただ、その批判の仕方が違うのかなとは感じました。ああいう経験もしたから『ここでしっかり見返したい』と思って日本に帰ってきたし、同じ思いをしないように全力でやることを心がけていくつもりです」

トーレスには「黒星でやめてもらうしかない(苦笑)」

「今の神戸も下位にいますけど、残留争いをしていたHSVとはメンバーが全然違う。Jの中ではすごくレベルの高い選手たちばかりが集まってますからね。ホントに『1つ歯車がかみ合えば』ってところは、映像を見ていた時から伝わってきていた。自分がその歯車のワンピースになれればいいと思ってチームに入ったんです。浦和戦はそれがうまくはまった試合でしたけど、サッカーはすぐに二転三転してしまうところがある。いいチーム状態を継続していくこと、そして満足しないことが大事だと思ってます。自分が喋ることで、そういう雰囲気を作っていけたらいいですよね」と彼は神戸のために全身全霊を注ぐことを誓った。

 さしあたって23日は鳥栖とのビッグマッチだ。アンドレス・イニエスタやビジャにとってはかつてスペイン代表としてともに栄光を築いた盟友と同じピッチに立てる最後の舞台ということで、特別な思い入れがあるはずだ。チームメートのそんな心情を酒井高徳もよく理解している。

「黄金時代のスペイン代表が強かったというイメージは今も残っているし、トーレスの破壊力はリバプールやアトレティコ(・マドリー)時代を通してもすごいなと思って見てました。トーレスが僕にとってのアイドルの1人であることも変わりません。

 でも、次のゲームは僕らにとっても非常に重要な試合。彼には悪いですけど、黒星でやめてもらうしかない(苦笑)。引退試合だろうが、勝ちをプレゼントするつもりはないです」とあくまで白星を目指して戦い抜くつもりだ。

 数々の修羅場をくぐってきたタフな男の加入でここからの神戸がどう変化するのか。酒井高徳自身も7年半ぶりのJの舞台でどんな変貌を遂げていくのか。今後の動向が非常に楽しみだ。

(取材・文・写真:元川悦子)

【了】

新着記事

FChan TV

↑top