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日本代表 4年前

板倉滉が目指す世界基準の“二刀流”。CBで主力定着の理由、欧州で磨かれた強靭な心技体

東京五輪世代の期待の星が、オランダで輝いている。フローニンゲンに所属する板倉滉は、今季開幕戦からセンターバックとしてリーグ戦全試合に先発起用されている。加入直後からの半年間、全く試合に絡めなかったところから、これほどの激変が起きたのはなぜか。そして変わりつつある選手としての理想の姿とは。現地に飛んで板倉の今を追った。(取材・文:舩木渉【オランダ】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images, Wataru Funaki

CBで主力定着「ゴツい選手は吹っ飛ばしてやりたい」

板倉滉
板倉滉はフローニンゲンでセンターバックのレギュラーに定着した【写真:舩木渉】

 サッカー選手は毎日が戦いだ。週末の試合に出るため、目の前の練習に全てを注ぐ。それに加えて日本人が欧州でプレーするとなると、見知らぬ人ばかりの土地で孤独との戦いにも打ち克たなければならない。

 異なる言語や文化、環境といった様々な要素が絡み合い、予想外の事態も起こる。誰もが憧れる海外での生活は、往々にして理想とは程遠く、困難がつきまとうものだ。

 2019年1月にオランダ1部のフローニンゲンに移籍した板倉滉は、欧州の厳しい競争の中で揉まれ、見違えるほどたくましく成長した姿を見せてくれた。

「いやもう、痛いっすよ。(当たったら)痛い奴はいっぱいいますよ。でも楽しいですよね。そうやってバチバチ当たるの結構楽しいし、自分は見た目こそ細いかもしれないですけど、ゴツい選手が相手のFWにいたら、逆に吹っ飛ばしてやりたいなと思うし」

 プレーは力強く、自信に満ちている。がっしりとした上半身に加え、下半身も粘り強さが増した。「こっちにきてもっともっと強さをつけていかなければいけないと感じているので、そこは今も引き続き取り組んでいます」と彼自身が語る、日々の筋力トレーニングの成果だ。

 今季、板倉のチーム内での立場は大きく変わった。2019年1月の渡欧から半年間、シーズン終了までリーグ戦のピッチには一度も立てなかった。ところが今季は開幕から9試合連続で先発フル出場を果たし、不動のセンターバックとしての地位を築いている。

 川崎フロンターレの生え抜きだった板倉が、ベガルタ仙台へのレンタル移籍で初めて1年を通してJ1で試合に出続けたのが2018シーズン。そこからフロンターレへ復帰すると、プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティへ完全移籍することになる。そして、すぐに1年半のレンタル移籍でフローニンゲンへと旅立つことになった。

 意気揚々と乗り込んだオランダでは、「試合に出たいという思いがすごく強かった」一方でチャンスはなかなか訪れず、後ろ向きになりかけたこともあった。シーズン途中に加入した難しさもあったが、思ったようにプレーできない自分に不甲斐なさが募った。

0分→全試合フル出場。出場機会激増の理由

「このままでは終わりたくない。このまま試合に出られずJリーグに戻るのか。いや、絶対に戻りたくない」

 せっかく掴んだ世界へ羽ばたくチャンスを逃すわけにはいかない。内から燃え上がる成長への意欲が、板倉を奮い立たせた。「ああやって半年間出られなかったとしても練習からとにかく必死こいてやっていましたし、自分が試合に出ないとわかっている分、前日にも筋トレをすることができるし、本当に無駄にはなっていない。今、自信を持って言えることです」と表情を引き締める。肉体的にも精神的にも、試合に出られない期間で磨かれた。

 不動のレギュラーになっても慢心はない。「うまくいっているとも自分では思っていないですし、とにかく続けないとという、常に危機感しかないです」と板倉は言う。では、どんな変化が起こって出場時間の増加につながったのか。

「何が変わったか……まあでも、監督が見てくれるようになったかなというのはありますね。昨季は途中からというのもあったかもしれないですけど、なかなか思うようなプレーもできず、コミュニケーションも取れていなかったし、使ってくれる気配もなかったので。

でも、とにかく練習から(全力で)やることを意識していたし、監督もガツガツいくディフェンスが好きなタイプなので、本当に味方を削るくらい練習からやっていたし、そこで(チームメイトと)喧嘩にもなったし。そういうのがあったからこそ、少しずつ監督も認めてくれたなというのは自分でも感じていて。本当に勝負の世界なので、とにかく練習からやらないといけない。そこは変わりました」

 今ではインタビュアーに英語で語りかけられても、その意味を理解して、日本語ではあるが的確な返答を返せるほどになり、語学力の向上も目覚ましい。チームメイトたちとの関係も良好で、取材エリアで話を聞いている最中にも、周りから愛されているのがよくわかった。

 試合中にも、驚いたプレーがあった。板倉は4日に行われたオランダ1部リーグ第9節のRKCワールワイク戦の終盤、イエローカードをもらっている。ピンチになりかねない場面で、相手のボールホルダーを後ろから強烈なスライディングで削った。日本時代の彼からは想像できないような激しいタックルも、欧州で勝負どころへの意識が磨かれたからこそ出たプレーだった。

「あそこでイエローをもらったのは、もちろんいいことではないし、反省しないといけない点だと自分でも思っています。けど、ああいう勝負どころの意識はこっちにきてすごく変わったと思う。日本だったら絶対あそこでスライディングしないと思うんですけど、球際とか、1対1のところで絶対に負けたくないという思いから、ああいうプレーをしてしまった。(イエローカードをもらったので)良くはないですけど、その気持ちは悪くないと思うんです」

理想は「ブスケッツ」から「ファン・ダイク」に

板倉滉
板倉滉の活躍は目の肥えたファンからもしっかりと認められている【写真:Getty Images】

 イエローカードはすでに今季4枚目。だが、いかに激しいボディーコンタクトを繰り返してきたかの証左でもある。センターバックとして、大柄な体格で身体能力にも優れるFWの多いオランダリーグを生き抜いていくには、何よりも「強さ」を身につけていくことが重要だ。

 フロンターレ時代の板倉は「僕はボランチで勝負したい」と口にしていたし、クラブHPに掲載されていたプロフィールにも「憧れの選手」としてバルセロナのMFセルヒオ・ブスケッツを挙げていたのを覚えている。当時はプロとしては細身で若干頼りなさも残る印象で、プレースタイルもブスケッツに近かった。

 世代別代表ではセンターバックとして活躍し、ベガルタでも3バックの左ストッパーとして評価を確立した。もともと左右両足で精度の高いパスを蹴り、最終ラインと中盤を器用にこなす賢い選手ではあったが、欧州でセンターバックとしてのやりがいをこれまで以上に感じている。4日のRKCワールワイク戦では試合後に「イタクラ!」コールで喝采を浴び、ファンからの信頼もがっちりと掴んだ。

 そんな日々を送るな中で、目指すべき指標も少しずつ変わってきた。

「まずは体を張って、1対1で負けない、今でいう(フィルジル・)ファン・ダイクみたいな、そういうのはすごく憧れる。その中でも自分としてはやっぱり攻撃面でもチームに貢献したい気持ちは強いので、もちろん得点のところもそうだし、繋ぎのところもそうですけど、そういうところでも自分の良さを出せるようなセンターバックにはなっていきたいですね」

 オランダでも武器にしているビルドアップへの貢献度は高い。ディフェンスラインから左右に配球するだけでなく、「常に相手の嫌なことをしよう、ここに出されたら相手は嫌だろうなと思うところにつけること」を意識して攻撃を一気に前進させる鋭い縦パスも見せる。

 これらはフロンターレで風間八宏監督に師事してMFとしての資質を磨き、ベガルタでディフェンスラインにおける視野の確保やポジショニングを学んだからこそのもの。そこに欧州ならではのスピードに対応するための判断の早さや正確さが加わって、日本から携えてきた技術と融合した。

 板倉はコパ・アメリカと9月に続いて、10月も日本代表に招集された。森保一監督は東京五輪世代の代表でのセンターバックではなく、A代表ではセントラルMFとして板倉を起用している。おそらく今後もクラブと代表で異なる役割を任されることになるだろうが、彼自身は“二刀流”に前向きだ。

「森保さんからも『ボランチとセンターバックを(高いレベル)できるようにしろ』という感じで言われますし、僕もそういうところを目指しているので。代表ではボランチですけど、ここ(フローニンゲン)でセンターバックで試合に出ていることはすごくポジティブに捉えています」

「シティでプレーしたい気持ちはすごく強い」

 センターバックで欧州主要リーグのクラブの主力を担っている日本人選手は数少ない。プレミアリーグ歴の長いサウサンプトンの吉田麻也、フランクフルトで絶対的な地位を築く長谷部誠といったベテランが目立っているのも現状だ。

 シント=トロイデンではセンターバックとして名をあげたとはいえ、セリエAのボローニャにステップアップを遂げた冨安健洋も新天地では右サイドバックを任されているし、セルクル・ブルージュの植田直通は定位置を確保しきれていない。

 板倉がオランダのトップリーグでセンターバックの定位置を獲得したことが持つ意味は大きい。そしてセンターバックとセントラルMFを世界基準でこなすことのできる“二刀流”になれば、日本代表は新たな次元に到達できるだろう。

 だからこそ、今は目の前の戦いに全てを尽くす。そうして一歩ずつ挑戦の階段を上った先に、板倉は次なる扉を開けることができるのだ。

「今は代表クラスのいろいろな相手とこうやって対峙することができて、自分としてはすごく充実しています。ただ、ここからはもちろんフローニンゲンのためにという気持ちはありつつも、自分がどうステップアップしていくのかというところで、こういう(厳しい)試合をやりながらどんどん目立っていかなければいけないと思っているので、本当に1試合1試合が勝負だし、どこで誰が見ているかわからない。どうにかステップアップするチャンスを掴めるように、1試合1試合挑んでいます。

(レンタル元のシティにも見てもらわないと?)そうですね。シティは常に、自分の試合を全て見てくれていますし、よくフローニンゲンにもきてコミュニケーションを取ってくれています。もちろんシティでプレーしたい気持ちはすごく強いし、そのためにもまずはとにかく1試合1試合で勝利にこだわること。とにかくやり続けることがそうやって最終的にシティでプレーできるかに繋がってくると思うので、とにかく目の前の試合に集中してやっています」

 将来、世界のトップレベルで勝負するために理想とするのは「ブスケッツ×ファン・ダイク=板倉滉」。いまや世界最高のセンターバックとなったファン・ダイクも、かつてフローニンゲンから飛躍していった選手の1人だ。だからこそ、最高の環境で成長を続けて、板倉がこれからどんな選手になっていくのか楽しみで仕方ない。すでに精神的にも技術的にも肉体的にも強靭さは増したが、「もっともっと強く」を追い求める日々に終わりはない。その向上心が今、この瞬間の板倉を突き動かしている。

(取材・文:舩木渉【オランダ】)

【了】

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