ドイツ代表、指揮官が信頼を置く男の重要性とは? 急造を余儀なくされたチームが見せた「一つの可能性」

ドイツ代表は10日にアルゼンチンとの強化試合を行った。試合結果は2-2のドローに終わったが、ドイツ代表は、負傷者とコンディション不良の選手が相次いだ中での戦いを強いられた。それでもこの試合では収穫があった。その収穫とは、アルゼンチン戦キャプテンのキミッヒの存在だった。(文:本田千尋)

2019年10月18日(Fri)10時00分配信

text by 本田千尋 photo Getty Images
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野戦病院化したドイツ代表

ドイツ代表

ドイツ代表【写真:Getty Images】

 この2連戦のキーマンは、かつてペップ・グアルディオラの薫陶を受けたボランチだった。

 10月の代表ウィークで、アルゼンチン代表とのテストマッチと、EURO2020予選のエストニア代表戦をこなしたドイツ代表。台所事情は苦しかった。

 負傷離脱中のレロイ・サネ、レオン・ゴレツカ、アントニオ・リュディガーといった主力を呼べなかっただけでなく、招集したメンバーの中にも、アルゼンチン戦を前にコンディションが万全ではない選手が何人かいた。ティモ・ヴェルナーとヨナタン・ターは風邪を引き、イルカイ・ギュンドアンは軽度の筋肉の負傷、そしてマルコ・ロイスは膝に問題を抱えたことで、それぞれ南米の強豪とのテストマッチに起用することはできなかったのだ。

 アルゼンチン代表戦を前にしたヨハヒム・レーブ監督のコメントは、どこか嘆き節だった。

「状況は張り詰めており、好ましいものではない。我々はとても多くの選手を欠いている。よって、オートマティズムに関して言えば、チームに大きな期待を寄せることは難しい」

 このように野戦病院化した状態で迎えたテストマッチで、レーブ監督は、平たく言うと[5-2-3]のカウンター型を採用。GKはマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン、3バックはニクラス・ジューレ、ロビン・コッホ、エムレ・ジャン。マルセル・ハルステンベルクとルーカス・クロスターマンの左右ウイングバック。ボランチはヨシュア・キミッヒとカイ・ハベルツの2枚。そして前線にユリアン・ブラント、セルジュ・ニャブリ、ルカ・ヴァルドシュミットの3選手である。

 初出場のコッホはもちろんのこと、ジャンもCBのポジションで起用されるのは、招集以来初めてのことだ。3月のセルビア代表戦以来の出場となったテア・シュテーゲンも含め、守備陣は急造だった。そもそもハベルツは8番、10番タイプで、前線のヴァルドシュミットも初先発であることも踏まえれば、チーム全体が急ごしらえと言って過言ではない。

 レーブ監督も、チームとしての連動性ではなく、選手たち個々のチャンスをモノにしようとする意欲、責任感に期待するような「状況」だった。にもかかわらず、いざ試合が始まれば、ドイツ代表は戦術的に一貫性を保ち、アルゼンチン代表を相手に2点をリードしたのである。

対照的となった前後半

 陣形をコンパクトに保ち、ボールを奪えば、左右に流れるニャブリを目掛けてロングボールを蹴り、カウンターを仕掛けた。速攻を狙うだけではない。アルゼンチンのハイプレスに慌てることなく、自陣深くでもしっかりとパスを繋ぎ、GKテア・シュテーゲンを中心にボール・ポゼッションも安定。

 15分、ニャブリがゴール前の密集地帯で高い技術を見せて奪った先制点は、キミッヒを軸に左右を広く使った攻撃から生まれ、22分には、右サイドでワルトシュミットのプレスからクロスターマンがボールを奪ってカウンター。ニャブリのグラウンダーのクロスにハベルツが合わせて追加点を奪う。

 もっとも、90分間を通して試合を完璧に運ぶことはできなかった。後半に入ると、66分、シュート0本に終わったパオロ・ディバラに代わったルーカス・アラリオに1点を奪われ、アルゼンチンに追い上げられる。

 72分にニャブリが退いたことでカウンターのターゲットを失い、安定性を欠き始めたドイツ代表は、終盤の85分、逆にショートカウンターを食らって2失点目。83分にハベルツに代わってルディが入り、選手同士でポジションが整理できていないちょっとした混乱期を、南米の曲者たちは見逃してくれなかった。レーブ監督率いる急造チームは、アルゼンチン代表とのテストマッチを2-2のドローに終える。

レーブ監督の片腕

 指揮官自身が、「オートマティズムに関して」あまり期待していなかったにもかかわらず、なぜドイツ代表の選手たちは、少なくとも前半は戦術的に一貫性を保ち、2点をリードすることができたのだろうか。主な要因としては、レーブ監督のアイデアを心身ともに理解している選手がピッチ上にいたことが大きいだろう。

 アルゼンチン戦でレーブ監督は、キミッヒにキャプテンを任せた。その理由を、次のように説明している。

「ヨ(キミッヒの愛称)は、ピッチ上におけるロール・モデルだ。彼には確かな経験があり、言葉でチームを導くことができる。組織の中でとても賢く、周囲に指示を送り、ピッチ上の至る所に現れる。よってヨがキャプテンとなったことは明らかだった」

 アルゼンチン戦で先発したメンバーの中で、キャップ数が最も多いのは、24歳のキミッヒだった。16年5月に行われたスロバキア代表とのテストマッチでデビューしたバイエルンのSBも、気付けばアルゼンチン戦で代表の出場試合数は45となった。今やキミッヒは、変革期にあるドイツ代表にあって、レーブ監督のコンセプトを知る貴重な中堅選手なのである。

 4日後に行われたEURO2020予選のエストニア代表戦では、14分にジャンがレッドカードを貰って退場した後に、CBのポジションに入ると、最後尾からチーム全体をオーガナイズした。かつてキミッヒは、グアルディオラがバイエルンの指揮を取っていた時代に、このスキンヘッドの名将によってCBのポジションを任されたことがある。

 アルゼンチン戦ではキャプテンマークを巻き、コンダクターとして手腕を発揮したキミッヒ。変革の続くドイツ代表の中、レーブ監督の片腕として、その存在感はますます強くなっていきそうだ。

(文:本田千尋)

【了】

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