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伊東純也がリバプール戦で痛感した「意識」の違いとは? ベルギーで感じる焦りと手応え【欧州組の現在地(5)】

今シーズン、欧州各国リーグでは多くの日本人選手がプレーする。若手からベテランまで、様々な思いを胸に挑戦する選手たちの現在地について、日本代表を長く取材する熟練記者がレポートする。第5回はヘンクのMF伊東純也。(取材・文:元川悦子【ヘンク】)

シリーズ:欧州組の現在地 text by 元川悦子 photo by Getty Images

リーグ戦とCL。12日間で4試合に先発

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10月23日のリバプール戦に先発した伊東純也【写真:Getty Images】

 10月の代表ウイーク直後の19日のベルギー1部・スタンダール・リエージュ戦に始まり、23日のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)リバプール戦、26日のセルクル・ブルージュ戦と30日のアントワープ戦のリーグ戦。ヘンクの伊東純也は12日間で4試合という超過密日程を強いられた。その戦績は1勝1分2敗と芳しいものではなかったが、彼自身は全ての試合に先発し、爆発的スピードと運動量で献身的に走り抜いた。

 セルクル・ブルージュ戦にフル出場した後、伊東は「物凄く疲れて歩く元気もなかった」と苦笑し、起こしに来てくれた植田直通の気配りに深く感謝した。その時点では次のアントワープ戦をカップ戦と認識していて、ターンオーバーで休めると考えていたのだろう。植田から「次もリーグ戦だ」と知らされ、本人は目が点に。結局、アントワープ戦も後半13分までプレーした。

「ここまで試合が多いのは今までになかったこと。でも限られた選手しか経験できないと思うんで、頑張ります」と彼は前向きにコメントしたが、そのタフな環境が伊東純也を凄まじい勢いで成長させているのは間違いないだろう。

 10月の2022年カタールワールドカップアジア2次予選・モンゴル戦(埼玉)での圧巻のパフォーマンスに象徴される通り、右サイドを切り裂く伊東の突破力と鋭いクロスはチームにとって大きな武器になっている。セルクル・ブルージュの選手たちも「あいつは何だ。メチャ速いな」と驚いていたという。

今季はアシストを量産

「敵として対戦してみてかなり嫌な選手だった」と植田も神妙な面持ちで語っていた。その嫌な動きの成果が今季のアシスト量産だ。現時点ではリーグ1・2位を争っていて、圧倒的な存在感を誇っていると言っていい。

「最近、キックの調子はいいですし、クロスの工夫はいろいろしてます。今、ウチはどんどんクロス入れてこうっていう考え方で、前に2枚ヘディング強いのを置いて、サイドにスペースがあったら仕掛けるよりも速めにクロスを入れてくっていう戦術なんで、それに合わせてなるべくやってます。リバプール戦でオフサイドでゴール取り消しになったのもあって、得点にしっかりつながるようにしないといけないという意識もあります」

 本人がこう語るように、右から入れるボールの種類や質はJリーグ時代より確実に増えている。武器の快足にも磨きがかかり、右サイドで相手を凌駕する回数も多くなった。「右ウインガーとしての伊東純也」は日に日に進化を遂げているのだ。

 しかしながら、気になるのはゴールの部分。ここまでリーグ13試合、CL3試合とほぼ全ての公式戦のピッチに立っているが、今季はいまだ無得点にとどまっている。この状況はこれまでのサッカー人生になかったことだと彼は言う。

「今、10試合くらいリーグ戦やってて、10試合点を取れなかったのはたぶん今まででなかったかなと(苦笑)。ちょっと焦りありますけど、まあ焦ってもしょうがない。今はアシストの部分はよくできてるんで、そこを続けつつ、自分でもゴール狙えればいい。チャンスメークの仕事が多い分、自らゴールに行く形が少ないんでそれをもっと増やしていく必要がありますね」

ゴール前で求められる冷静さ

「(欧州王者の)リバプールと戦って、相手の(モハメド・)サラーや(サディオ・)マネなんかは最後のところでポンポンと決めてくる個の力があると感じた。それを目の当たりにして、自分もゴールへの意識をもっと高めないといけないと思った。正直、そろそろ1点ほしいですね」

 伊東のゴールチャンスがないわけではない。セルクル・ブルージュ戦でも猛烈なスピードで相手の裏に抜け出し、GKと1対1になる決定機はあった。そこで決め切れないのは目に見えない重圧のせいかもしれない。

「ファーストタッチも長くなっちゃったし、コースがなくなった。でも後から考えてみるとチップしてGKの上を通せたかな」と彼自身も反省するように、いかにしてゴール前で冷静さを保ち続けるかが、今の伊東純也の1つの課題なのだろう。

 守備力アップもより一層、取り組むべきテーマ。前半のみで下げられた9月17日のCL・ザルツブルク戦以降、そこは自覚を持って取り組んできたが、現在もなお難しさを感じることはあるようだ。

「ザルツの時は(フェリス・マズ)監督から守備の部分を言われて代えられたんで、監督の求める守備に合わせていく作業に取り組みました。前の(フィリップ・クレメント)監督は『ハイプレッシャーでどんどん前から行こう』っていう考え方で、俺もそっちが得意なんでガンガンプレッシャーに行く感じだったんですけど、今の監督は引いてブロックを作ったうえで、サイドハーフに一番ガミガミ言うんです(苦笑)。試合中もサイドハーフにしか言わないし、俺以外のサイドハーフの選手も難しさを感じていると思います。実際、上下動や中に絞ったり外に出たりを繰り返すのは大変ですけど、自分の守備の強度は上がっている。そこは実感できているところですね」

「ベルギーが最後だとは思っていない」

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10月26日のセルクル・ブルージュ戦では、植田直通(左)との日本人対決が実現した【写真:Getty Images】

 Jリーグ時代とは異なる環境に身を置いたことで、伊東がサッカーと真摯に向き合う時間は確実に増えた。どうしたらもっと上に行けるかを日々考え、取り組むようになったことはやはり大きい点だ。

 鴨居サッカークラブ、横須賀シーガルズ、逗葉高校、神奈川大学と、自分を厳しく追い込むよりもサッカーを楽しめる環境で長くプレーしてきた彼にしてみれば、自分の限界を超えようとここまでもがき続けたことはなかったのではないか。CLやベルギーリーグで自分に足りないものを突き付けられ、それを追い求めて努力するという作業の楽しさと奥深さを、伊東純也は26歳になった今、ようやく理解したと言ってもいいかもしれない。

 彼のような遅咲きタイプの選手はここからが本当の成長期。来年3月には27歳になるため、ステップアップのチャンスは限られているが、現状のパフォーマンスを維持し、さらに輝きを増すことができれば、ベルギーからの脱出は十分叶うはず。本人もそれを目指して戦っているに違いない。

 植田が伊東の本音をこう代弁した。

「こっちにいるみんなともつねに話してますけど、ベルギーが最後だとは思っていない、上のレベルは必ずあるし、ここからどこに行けるかが大事だと思います」

 ベルギー勢の中で一番手と目される伊東純也がこの先、どのような軌跡をたどるのか。まずは今季前半戦で完全燃焼し、この冬、あるいは来年夏の朗報を待ちたいものである。

(取材・文:元川悦子【ヘンク】)

【了】

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