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リバプール対マンCに誤審なし…疑惑の判定も主審は正しかった。勝負を分けたのは「長距離砲」の差

プレミアリーグ第12節、リバプール対マンチェスター・シティの試合が現地10日に行われ、3-1でリバプールが勝利した。首位を走るCL王者とそれを追うプレミアリーグ王者の対決となったこの試合は、お互いの「長距離砲」が勝負を分けたと言っていいだろう。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

「一番強いチーム」対「最高の監督」

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リバプールのDFトレント・アレクサンダー=アーノルド【写真:Getty Images】

「現在、世界で一番強いチームだ」

 マンチェスター・シティの指揮官、ペップ・グアルディオラは試合前日にリバプールをそう評した。対するユルゲン・クロップ監督は「私にとって彼は世界で最高の監督」と賛辞の“カウンター”をしかけている。

 世界最高の監督が言うのだから正しいだろう。果たして、試合は世界で一番強いチームが、世界で最高の監督が率いるチームを圧倒した。UEFAチャンピオンズリーグ王者とプレミアリーグ王者の今季2度目の対決は、リバプールに軍配が上がった。

 1度目の対決は3ヶ月前、プレミアリーグ開幕を告げるコミュニティシールドだった。コパ・アメリカ2019(南米選手権)やアフリカネーションズカップ2019に出場した選手たちの多くが欠場したが、試合は白熱した展開となり、PK戦の末にシティが試合を制した。

 両チームともにミッドウィークに行われたCLでは大きくメンバーを変更。リバプールは累積警告による出場停止にリーチがかかっているファビーニョを前節では休ませて、前半戦最大のビッグマッチにベストメンバーを揃えてきた。

試合を制圧したリバプール

 スコアは6分に動いた。左サイドをFWサディオ・マネが駆け上がって折り返すが、これは相手にボールが渡る。しかしクリアが小さくなったところをMFファビーニョが拾うと、フリーでミドルシュートを放ってゴールネットに突き刺した。

 さらに13分、自陣からDFトレント・アレクサンダー=アーノルドが左足でサイドチェンジをすると、左サイドをDFアンドリュー・ロバートソンが駆け上がる。左SBはトラップから素早くアーリークロスを上げると、ファーサイドでFWモハメド・サラーが頭で合わせ、リバプールは追加点を決めた。

 リバプールは後半からマネをサイドハーフに置く4-4-1-1に布陣を変更。すると、51分にスローインの流れから、MFジョーダン・ヘンダーソンが右サイドを縦に突破してクロスをあげる。これをファーサイドでフリーになったマネが頭で合わせて決定的な3点目を挙げた。

 3点をリードするリバプールは、FWロベルト・フィルミーノを下げてMFアレックス・チェンバレンを右サイドハーフに配置。さらにはマネに代えてDFジョー・ゴメスを最終ラインに入れ、アーノルドを一列前に、チェンバレンを左に置いて4-5-1のブロックを敷き、確実に時計の針を進めた。

 シティは78分にDFアンヘリーニョが上げたクロスのこぼれ球を、MFベルナルド・シウバが左足で決めて1点を返す。が、時すでに遅し。試合は3-1でリバプールが勝利を収め、3敗目を喫したシティは、レスターとチェルシーに抜かれて4位に転落した。

効果的だったリバプールの長距離砲と、寸断されたシティの宝刀

 2人いるのではないかと思うほどに、ヘンダーソンはピッチ上を縦横無尽に走り回った。もちろん1人しかいないのだが、カウンターでは右サイドを猛然と駆け上がり、守備では右サイドバックのアレクサンダー=アーノルドをヘルプする。走り続ける背番号14の姿勢は、アンフィールドの大歓声とともにチームを高みへと押し上げる。無用の用という故事を体現する働きだった。

 61分にヘンダーソンはMFジェームズ・ミルナーと代わってベンチに下がった。体調不良によりヘンク戦を欠場しており、病み上がりでの先発出場となったが、キャプテンとしての責務を果たし、33歳の鉄人MFにアームバンドを渡した。

 2点目の起点にもなったロングパスは、リバプールの大きな武器だ。特にサイドバックからサイドバックへの芸術的な長距離砲は、1本で大きなチャンスに直結する。

 さらに効果的だったのは、クリアにも見える最終ラインからのロングパス。ビルドアップに詰まったときは、味方の位置を確認せずともライン際にロングボールを入れる。すると、ボディバランスに優れるマネとキープ力に秀でるサラーはボールを収める。これを恐れたシティは、サイドバックのポジションが次第に下がっていき、前線と最終ラインは分断された。

 シティの長距離砲は、アシストランキングでトップを独走するMFケビン・デブルイネだ。今季9アシストをマークするベルギー代表MFは、クロスから多くのゴールを演出。チーム全体でも1試合平均で約27本のクロスを上げ、26%の成功率を記録しており、これまでも多くのチャンスをクロスから作っている。

 しかし、チーム全体で29本のクロスを上げたこの試合で、つながったのは5本のみ。DFデヤン・ロブレンとDFフィルジル・ファン・ダイクの双璧に跳ね返され続けた。両チームのロングボールの成否が、試合の雌雄を決したと言っても過言ではないだろう。

2度のハンド疑惑の真偽は…

 勝負を分けたもう1つの要素は、アーノルドによる2度の“ハンド疑惑”になるだろう。1度目の疑惑は直後にシティの失点につながっているだけに、大きく試合の流れを変えたと言っていい。

 1度目は6分に起きた。ベルナルド・シウバがPA内で中央にボールを入れると、アーノルドの腕に当たる。2度目は83分、PA内へと侵入したFWラヒーム・スターリングがゴール前に入れたボールが再びアーノルドの腕に当たる。しかし、主審はどちらのシーンもハンドを認めず、プレーは続行された。

 スロー再生を見ると、1度目のシーンでボールはアーノルドの腕に当たってから脇腹付近に当たっている。83分のシーンもアーノルドの腕に当たっていることが確認された。しかし、主審の判定は正確だった。なぜなら、競技規則に書かれているハンドに該当する要件は以下の通りである。

・手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくした。
・競技者の手や腕が肩の位置以上の高さにある(競技者が意図的にボールをプレーしたのち、ボールがその競技者の手や腕に触れた場合を除く)」

 どちらのシーンにおいても、アーノルドの腕はそこまで高くは上がっていなかった。「不自然に大きくした」と言えなくもないが、誤審と言えるほどの事象ではないのでVARも主審の判定を支持したのだろう。83分のシーンでグアルディオラは「Twice!(2度目だぞ!)」と連呼したが、結果としてどちらもハンドにはならなかった。

(文:加藤健一)

【了】

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