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Jリーグ 4年前

ヴィッセル神戸、数百万ドルの資金が結果を生むか? 天皇杯優勝がアジアNo.1クラブへの一歩に【英国人の視点】

第99回天皇杯の決勝が2020年1月1日に行われる。新国立競技場のこけら落としを飾る栄誉をつかんだのは、鹿島アントラーズとヴィッセル神戸。アンドレス・イニエスタを筆頭に巨大補強を敢行したチームはタイトルという結果をつかむことができるのか。そして、神戸にとってこの一戦がもつ意味とは。(文:ショーン・キャロル)

text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

フェルマーレンが語る天皇杯への意欲

トーマス・フェルメーレン
「優勝できるように全力を尽くしたい」。フェルマーレンは天皇杯優勝に意気込む【写真:Getty Images】

 12月21日に行われた天皇杯準決勝で清水エスパルスを一蹴し、ヴィッセル神戸はクラブ史上初のカップ戦決勝へと難なく駒を進めた。

 トルステン・フィンク監督率いるチームは完成度の高さと決定力を見せつけ、アンドレス・イニエスタ、田中順也、古橋亨梧の得点により3-1の勝利を飾った。元日の新国立競技場では鹿島アントラーズと激突し、初のメジャータイトル獲得に挑戦する。

 相手の名前を考えても、非常に興味深い対戦となりそうだ。ヴィッセルがまだ強豪クラブとして認められるには至っていないのに対し、鹿島は日本で最も安定して成功を収めてきたクラブであり、トップレベルで戦い続けて合計20個の主要タイトルを手中に収めてきた。

 だがヴィッセルは、Jリーグでは今年もまた期待に応えられないシーズンに終わったとはいえ、ここ数ヶ月間はフィンク監督の下で骨太なチームへと変貌していく兆候を感じさせていた。

 チームの短期的な展望について、とりわけ天皇杯での意欲については、9月末にトーマス・フェルマーレンに話を聞いたことがあった。

「チームには苦しい時期もあったと思う。だが今はある程度勝ち続けることができるようになっている」

 アウェイでの川崎フロンターレ戦に2-1の勝利を収めた試合後に彼はそう語った。

「下を見下ろすより上を見上げる方がいい。僕らは十分なクオリティのあるチームなんだから、上を見ていくべきだ。勝てるようになってきたし、このまま続けて、一歩ずつ前へ進んでいくことができるようにしたい」

「天皇杯はこのクラブにとってすごく大事な大会だ。できるだけ勝ち進めるように、できれば優勝できるように全力を尽くしたい」

J1では8位フィニッシュ。不満残る順位ながら来季への希望も

 この時点でヴィッセルは、リーグ戦7試合でわずか1敗という好調な時期を過ごしながらも9位に位置しており、優勝争いに絡んでいく望みが絶たれたことは十分に理解していた。つまり天皇杯はすでに彼らにとって優先事項だと見なされていたということだ。

 この10日前には天皇杯でもフロンターレと対戦し、3-2の勝利で敗退に追い込んでいた。だが等々力でのリーグ戦の試合に勝利を収めた後は、上位争いを演じているチーム相手に手痛い敗戦が続いた。サンフレッチェ広島には2-6で敗れ、続いてホームでのFC東京戦も1-3で落としてしまった。

 その屈辱から立ち直ったヴィッセルは、10月23日には天皇杯準々決勝で大分トリニータに1-0の勝利。リーグ戦でも終盤に調子を上げ、3連勝フィニッシュを含めて最後の5試合で4勝を挙げた結果、8位でシーズンを締めくくった。

 最終的に優勝を飾った横浜F・マリノスと勝ち点23ポイント差という結果はもちろん、クラブが望んでいた場所とはまだまだ程遠い。だが来季に大きなことを成し遂げる材料は揃ったとフェルマーレンは感じている。

「チームとしてしっかり組織されていることが本当に大事だと思う。そこをしっかり整えることができればJリーグで良い結果が出せるはずだ」とベルギー代表DFは語る。

「チーム一丸となって戦うことこそが最重要だ。守備面でもそこがすごく大事になる。チームの組織と連係がしっかりしていれば、リーグ戦で良い戦いができる。中盤と前線にはゴールを奪える力があるから、組織を整えることさえできれば大丈夫なはずだ」

クラブ史上初のビッグタイトルが持つ意味とは?

ヴィッセル神戸
ヴィッセル神戸はクラブ史上初となるビッグタイトル獲得を決めることができるか【写真:Getty Images】

 マリノスの残した結果が大きな勇気を与えてくれることは間違いない。2018シーズンのJ1を12位で終え、J1参入プレーオフ出場を得失点差で辛うじて回避したチームは、今季15年ぶりとなるリーグタイトルを獲得してみせた。

 だが来年のリーグ戦でその劇的な浮上の再現に挑戦する前に、現在のヴィッセルはクラブ史上初のタイトルを手に入れることに全ての思いを集中させている。

 彼らにとって天皇杯は、単に初めてのトロフィーを飾り棚に据えるチャンスというだけの意味を持つものではない。自分たちの“プロジェクト”が機能していること、イニエスタやダビド・ビジャなどの選手たちを呼び寄せるため投じられた何百万ドルもの資金が結果を生み出していることを証明するチャンスでもある。

 そしておそらく何よりも大きな意味を持つのは、アントラーズに勝利を収めたとすれば、ヴィッセルは来年のAFCチャンピオンズリーグという大陸の舞台で高価なスター選手たちを披露する機会を得られることだ。楽天への関心度もさらに高まり、彼らの宣言した「アジアNo.1クラブ」という目標にも近づいたように見えることだろう。

 強大な既存勢力と、大型補強を行った新興勢力の対決という、典型的な構図による戦いの舞台は整った。新国立競技場のこけら落としとしてもこれ以上は望めないほど絶好のカードとなるだろう。

(文:ショーン・キャロル)

【了】

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