前半はシステム変更が機能せず
前半と後半の内容が対照的な試合となった。現地1日に行われたラ・リーガ第22節で、レアル・マドリーがアトレティコ・マドリーに1-0の勝利を収めている。
このマドリード・ダービーは堅い試合になりがちだが、今回も例に漏れず前半は比較的波の少ない展開だった。基本的にはマドリーがボールを保持し、アトレティコは押し込まれた状態からカウンターに活路を見出す。
シュートの数でも8本を放ったマドリーが、3本だったアトレティコを上回った。しかし、ホームの声援を受けるマドリーがチームとして機能しているようには見えなかった。どこか噛み合わせの悪さを感じ、ゴール前でも決め手を欠いていた。
おそらく原因は中盤の人選にある。マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は、4-5-1の「5」に1人もサイドアタッカーを配置しなかった。全員どちらかと言えば中央でのプレーを好む選手たちだった。
アンカーとして振る舞うMFカゼミーロを基準に、MFトニ・クロース、MFルカ・モドリッチが配され、さらにやや右寄りにMFフェデリコ・バルベルデ、左寄りにMFイスコが立つ。彼らは流動的にポジションを変えながら、両サイドバックの攻め上がりも促し、より中央の攻撃に厚みを出すべく奔走した。
この人選は、先月行われたスーペルコパ・デ・エスパーニャの決勝、同じマドリード・ダービーでも使っていた。ウィングを置かない4-5-1を採用したマドリーは、アトレティコと延長戦も含めて120分間戦って0-0のドロー。最後はPK戦で勝利をもぎとった。
スペイン紙『アス』などによれば、ジダン監督は今回のアトレティコ戦後の記者会見の中で「4-3-3よりも5人のMFを配置する方がやりやすいのか?」といった主旨の質問に対し「いいや。スーペルコッパではこのやり方がやりやすかったのだが、今回はうまく機能しなかった。それに関して私が責任を負う」と語った。
後半頭の2枚替えが流れも変えた
つまり選手の並びこそ少し違えど、0-0ながらチャンスは多く作った前回対戦時と同じやり方でアトレティコに挑み、策が失敗に終わったことをジダン監督自ら認めたのである。対するアトレティコのディエゴ・シメオネ監督はマドリーのシステム変更について「普通のことだろう。我々は彼らがあのやり方でくると考えていた」と戦前から予想していた。
FWジョアン・フェリックスやMFコケといった数人のキープレーヤーを欠くアトレティコは、普段通りの4-4-2の布陣でマドリー戦に臨んだ。ただ、前線2トップはFWアルバロ・モラタとFWビトロの組み合わせに。カウンター中心になった前半は、この2人がうまく攻撃の起点になることができていた。同時に最終ラインと中盤はコンパクトなブロックを敷いて辛抱強く守り、無失点に抑える。
すると停滞を感じていたマドリーが先に動いた。ハーフタイム終了と同時にクロースとイスコを下げ、FWヴィニシウス・ジュニオールとFWルカス・バスケスを投入する。ドリブルに特徴を持った2人のウィンガー投入で、システムを本来の4-3-3に戻す決断を下したのである。
この采配がマドリーの勝利を大きく引き寄せた。一方でアトレティコにとって大きな誤算だったのは、50分に痛みを訴えたモラタをベンチに下げざるを得なかったことだ。交代で投入したMFトマ・レマルはウィンガー気質の選手で、ついにピッチ上の11人にストライカータイプが1人もいなくなってしまった。カウンターの基準となり、前線でボールを持ちながら時間を作れる選手の不在は後半の戦いに大きく響くことになる。
56分、ついに均衡が破れた。左サイドでヴィニシウスがボールを持つと、外側からDFフェルラン・メンディが動き出す。そして絶妙なタイミングのスルーパスに反応したメンディが高速クロスを供給し、中央でFWカリム・ベンゼマが合わせた。
絶不調アトレティコの現状とは
マドリーにとっては、後半から投入したウィンガーが持ち場で力を発揮し、ゴールを奪えたことになる。ジダン采配ズバリだ。当のヴィニシウスも「後半から僕とルカスが入ってうまくいき、試合のリズムを変えたと思う」と自らの仕事ぶりを誇った。
ブラジル代表の超絶ドリブラーは「僕らはこれまでやってきたことをやり続ける、そして深さを取り続ける必要があった」と指揮官からの要求についても明かしている。やはり常にボールとともに動き続ける流動的な中盤ではなく、時にはサイドで相手の脅威となるポジションを取ってボールを待つウィンガーの存在も重要なのである。
アトレティコのシメオネ監督は「思い通りにプレーできた」前半も含め、「引き分けにはできたのではないか」と悔やんだ。だが、彼らに反撃するための方策が残されていたとは思えない。FWジエゴ・コスタ、MFコケ、DFキーラン・トリッピアーなど負傷者を多く抱え、マドリー戦のベンチメンバーで流れを変えるのは厳しいと言わざるを得ない。
まずストライカータイプが足らず、レマルの起用でなんとかつなぐ始末。74分から出場したFWセルヒオ・カメージョはBチームの選手だった。そして71分には、1ヶ月以上公式戦のピッチから遠ざかっていたMFヤニック・フェレイラ=カラスコを使っている。
出場のなかった4人を見ても、控えGKのアントニオ・アダン、センターバックのDFマリオ・エルモソと基本的に交代はしないポジションの2人を除けば、FWイバン・サポニッチとMFトニ・モヤはBチームクラスの選手だ。これほどまでに薄いベンチの層でマドリーの変化に対応し、そのうえで上回っていくのはほぼ無理だろう。
勝つべくして勝ったが…
アトレティコは現在公式戦5試合連続で勝利がなく、その間の成績は1分4敗と惨憺たるものだ。しかもコパ・デル・レイでは3部のクルトゥラル・レオネサに不覚をとり、まさかの早期敗退を強いられた。とにかくゴールを奪う数が少なく、危機的なチーム状況にある。冬の移籍市場でパリ・サンジェルマンのFWエディンソン・カバーニの獲得に失敗したことによる影響も、今後に向けて尾をひくかもしれない。
マドリーは勝つべくして勝った。とはいえ、不安要素の多いライバルに大苦戦し、後半のシステム変更でなんとか持ち直すような状態でいいのかという疑問も残る。エースのベンゼマがリーグ戦では昨年12月中旬以来、6試合ぶりにゴールを取り戻したのは朗報だが、チームとしては課題の多いダービーマッチだったに違いない。
「我々は試合に勝っただけ。それはうれしく思わなければならないが、先はまだまだ長い。多くの試合が残っているし、我々はまだ何も勝ち取っていない。スーペルコパは獲得したが、他の3つのタイトルに向けての道のりは長い」
ジダン監督はアトレティコとのダービーマッチに勝利し、改めて気を引き締めた。キケ・セティエン監督が就任するも、やや調子を落としているバルセロナを尻目に、マドリーは暫定ながら勝ち点差を6ポイントに広げて首位に立つ。
チャンピオンズリーグやコパ・デル・レイも勝ち残っていて、今季はさらに3つのタイトルをショーケースに加えるチャンスがある。ジダン監督は国内カップ戦だろうと手を抜くつもりはなく、全てを勝ち取ることを望んでいるようだ。
だが、アトレティコ戦ではまだ圧倒的な強さが身についていないこともわかった。ヴィニシウスやメンディ、バルベルデらの成長と、ベテラン選手たちの組み合わせで最適解をどこに見出すか。そしてガレス・ベイルやハメス・ロドリゲスといった不満分子になりかねない“余剰戦力”の扱いをどうするかなど解決すべき問題は多い。本当の勝負はダービー1試合ではなく、これからの4ヶ月全てだ。
(文:舩木渉)
【了】