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中島翔哉はまるで“忍者”。ポルトのカップ戦決勝進出に大きく貢献、負傷からも完全復活

タッサ・デ・ポルトガル(ポルトガルカップ)の準決勝2ndレグが現地12日に行われ、ポルトが2部のアカデミコ・ビゼウを3-0で下した。そして2戦合計スコア4-1でベンフィカが待つ決勝進出を果たしている。負傷明けで久々のフル出場となった中島翔哉は、快勝したポルトの中でどんな活躍を見せたのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

中島翔哉、1ヶ月ぶりの先発出場

中島翔哉
【写真:Getty Images】

 難易度は低く見えても、重要度が高い試合というのはどうしても精神的なバランスを整えるのが難しくなる。相手を舐めてかかれば手痛い目に遭い、逆に気負いすぎると本来のパフォーマンスを発揮できなくなるかもしれない。

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 だが、カップ戦の準決勝という舞台にアピールの場を欲する選手たちのモチベーションの高さはうってつけだった。現地12日に行われたタッサ・デ・ポルトガル(ポルトガルカップ)の準決勝2ndレグで、ポルトは2部のアカデミコ・ビゼウを3-0と一蹴した。

 先週のミッドウィークに開催された1stレグは、大幅にメンバーを落としたポルトがアウェイで苦戦。直後の週末にリーグ首位のベンフィカとの大一番が控えていたこともあって控え組中心の構成とはいえ、2部クラブと1-1のドローに終わったことは批判の対象となった。

 ポルトを率いるセルジオ・コンセイソン監督は、ホームで迎えるビゼウ戦2ndレグ前日の記者会見で「ベンフィカ戦でプレーした選手たちのフィジカルコンディションを見て、誰が明日プレーするのが良いか見極めなければならない。これはブラフではない」と、ビッグマッチを終えたばかりのチームに疲労が残っていることを認めていた。

 その言葉通り、ベンフィカ戦からは先発メンバーを7人変更。とはいえ前回の1stレグと大きく違うのは、ホームアドバンテージを得られることと、ベンフィカ戦で勢いづいたチーム内で競争へのモチベーションをこれまで以上に高めている選手たちが揃っていたことだ。

 最近まで負傷離脱していた中島翔哉は、先月10日のモレイレンセ戦以来、約1ヶ月ぶりの先発出場を果たした。ベンフィカ戦で出番がなくフレッシュな背番号10は、序盤からキレのある動きでビゼウのディフェンス陣を揺さぶっていく。7分に放った最初のシュートはゴールの枠を大きく外れたが、積極的な姿勢を印象付けるには十分だった。

 ビゼウはホームで見せた勇敢さよりも、手堅く戦うことを選んだ。明らかな格上相手のアウェイゲームということもあり、コンパクトな守備ブロックを形成してポルトに対抗しようとする。ベースは4-4-2だが、2トップの一角が中盤に下がって4-5-1になったり、左サイドMFが一列落ちることで5-4-1を形成したり、状況に応じて変則的な布陣を敷いた。

序盤からエンジン全開だった10番

 基本的には自陣に引きこもるのではなく、ディフェンスラインをなるべく高く保ったまま、前線との距離を近くして相手にスペースを与えない狙いがあっただろう。ところが、ポルトの選手たちは難なくビゼウの守備網をくぐりぬけていく。

 コンセイソン監督は試合後の記者会見で「ビゼウが低くブロックを作ってプレーするため、スペースのないところでスペースを探さなければならなかった。中島、ヘスス・コロナ、ルイス・ディアスや他の起用した選手たちは、その中でスペースを探すことのできる非常に高いクオリティを有している。そして、それがこの試合に向けて私が考えていたことだ」と明かした。

 つまり指揮官はチーム全体のコンディションを見極めつつ、ビゼウの守備組織を崩すに当たって必要な能力を備えた選手たちをピックアップして、シンプルながら効果的な狙い所を短期間で落とし込んできたことになる。中島はまさにうってつけの人材だった。

 久々の先発起用となった日本代表アタッカーは、4-2-3-1のトップ下で起用された。そして18分、この試合を象徴するようなチャンスが生まれる。相手右センターバックの前、右セントラルMFの背後のちょうど中間にポジションを取っていた中島は、外に流れながら、右センターバックと右サイドバックの間でパスを引き出す。

 そしてそのままペナルティエリア内までドリブルで侵入し、中央へ折り返すとゼ・ルイスがビゼウのDFに倒されてポルトにPKが与えられた。これをアレックス・テレスが冷静に沈めて、あっさり先制に成功する。こうした失点につながった場面のようなビゼウのスペース管理の甘さはその後の失点につながっていく。

 特にDF、MF、FWで形成する3ラインのDFとMFの間にできる、最も危険とされるスペースに対してのアプローチが整理されていなかった。29分の場面も、ボールホルダーに対する寄せの甘さが見られた。ポルトは左から右へとサイドチェンジのロングパスを通すと、丁寧につないでペナルティエリア右角の中島にボールを渡す。

 相手のディフェンスラインと中盤の間にぽっかりと空いたスペースで、フリーになって素早く反転した中島は右足を振り抜いた。シュートは惜しくもゴール右に外れたが、追加点の匂いは常に漂っていた。

“忍者”のように素早く賢く

 1点リードで折り返した後半も、ポルトが完全に主導権を握って離さない。63分にはコロナが右アウトサイドでディフェンスを引きつけ、中島がその内側を駆け抜けながらパスを受ける。小柄な背番号10はそのまま斜めにゴール方向へ走ったコロナへワンツーで預け、GKとの1対1になるビッグチャンスを演出した。

 さらに、このプレーで獲得したコーナーキックから追加点が生まれる。64分、右コーナーキックのこぼれ球を中島が右足ダイレクトボレーで叩くが、シュートはあさっての方向に飛んでいき、ボールは再び右サイドへ。最後は完全フリーになったアレックス・テレスの鋭いクロスに、ゼ・ルイスが頭で合わせてゴールネットを揺らした。

 72分にポルトはコーナーキックから途中出場のセルジオ・オリベイラが3点目を奪い、勝利と決勝進出を決定づけた。実はこの直前にも、中島がドリブルでボールを運んだプレーがきっかけになってビトール・フェレイラのGKを強襲するミドルシュートが生まれ、コーナーキック獲得につながっている。

 84分には左サイドから切り込んで、得意の形でミドルシュートも放った。惜しくもGKにセーブしてゴールとはならなかったが、これまで述べてきたことからも分かる通り、中島はポルトのほとんどのビッグチャンスやゴールに直接的でなくとも関わっている。ピッチ上での存在感は絶大だった。

 一方で、ビゼウ側からすれば全く捕まえられず厄介な存在だっただろう。常に相手からすればマークしづらいDFとMFの間にポジションを取って、ふらふらと姿を見せたかと思えばすぐにマーカーの視界から消え、ボールを持った瞬間にスピードが上がって置き去りにされている。そうなるとファウルでしか止める術はない。

 実際、中島はボールを持つと頻繁に後ろから倒されてファウルで止められていたが、まるで“忍者”のような隠密性と変幻自在の身軽な動きは、ポルトの攻撃のスイッチの1つになっていた。負傷明けでもプレーのキレに一切のかげりは見られない。

 ポルトはこの後、リーグ戦だけでなくヨーロッパリーグ(EL)の決勝トーナメントにも挑む。ポルトガルカップ決勝は現地5月24日に、リスボン郊外にあるナショナルスタジアムで宿敵ベンフィカと対戦することが決まった。

 90分間フル出場して完全復活を遂げた中島は、リーグ戦やELでも再び出場時間を伸ばしていけるだろうか。リーグ逆転優勝のためには背番号10の本格開花が欠かせない。そして、今季2度とも出場が叶わなかったベンフィカ戦でピッチに立ち、タイトルを獲得してシーズンを締めくくれれば最高だ。

(文:舩木渉)

【了】

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