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本田圭佑はやはり“持ってる”男。待望のボタフォゴデビュー、そして初ゴールを決めたが…

欧州ではほとんどのリーグ戦が休止に追い込まれているが、ブラジルは止まっていない。現地15日に行われたリオデジャネイロ州選手権1部の後期グループA第3節で、ボタフォゴとバングーが1-1の引き分けを演じた。この試合で、元日本代表が待望のボタフォゴでのデビューを飾り、初ゴールで鮮烈な印象を残した。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

初先発。いきなりPKで初ゴール

本田圭佑
【写真:Getty Images】

 やはり“持ってる男”なのかもしれない。

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 ブラジルの名門ボタフォゴに加入した元日本代表MF本田圭佑が、現地15日に行われたカンピオナート・カリオカ(リオデジャネイロ州選手権)1部の後期第3節・バングー戦に先発出場。ついに新天地デビューを飾った。

 コンディション調整や選手登録、インフルエンザなどの影響で加入発表から公式戦初出場までに約1ヶ月半を要した。しかも、晴れ舞台は新型コロナウィルス流行の影響でまさかの無観客試合に。それでも映像を通して、背番号4は自らの健在ぶりをしっかりとアピールした。

 最大の見せ場は28分に訪れた。味方FWハファエウ・ナバーロが相手GKマテウス・イナーシオにペナルティエリア内で倒され、ボタフォゴにPKが与えられる。チームメイトからボールを受け取った本田は、加入早々に任されたPKを落ち着いてゴール左隅に蹴り込んだ。デビュー戦でのブラジル初ゴールが生まれた瞬間だった。

 しかも、このボタフォゴ移籍後初めての一発が、彼にとって記念すべきクラブでの公式戦通算100ゴール目になった。

 本田は“デビュー戦男”と言ってもいいくらい、勝負強いことでも知られる。昨年11月に加入し混迷を極めていたフィテッセではゴールポスト直撃のシュートにとどまったが、オーストラリアのメルボルン・ビクトリーやメキシコのパチューカでも公式戦デビューの試合でゴールを決めている。

 ミラン時代は公式戦出場2試合目だった本拠地デビュー戦、サン・シーロのファンの前で初ゴールを挙げた。名古屋グランパス時代には、クラブ史上4人目となる高卒ルーキーでの開幕スタメンを勝ち取り、プロデビュー戦となったジェフユナイテッド千葉戦で初アシストを記録した。

 名古屋でプロになってから足かけ16年。日本、オランダ、ロシア、イタリア、メキシコ、オーストラリアと大陸をまたいで活躍し、知名度と地位を築いてきた金髪の33歳は、ブラジルの地でもゴールとともに好スタートを切ったと言えそうだ。

次々とチャンスを演出した前半

 本田はバングー戦で、4-2-3-1のトップ下に近いポジションに入った。試合前にボタフォゴを率いるパウロ・アウトゥオリ監督は「いくつかのオプションがある。彼は可能性を与えてくれる」と語り、セントラルMFやFWとして本田を起用することも噂された中でのトップ下起用だった。

 かつて鹿島アントラーズやセレッソ大阪を率いた経験豊富な指揮官は、元日本代表の創造性に賭けた。そしてチームの攻撃で鍵となる役割を託された本田は、序盤から自慢の左足で格の違いを見せた。もし観客が入っていたら、スタジアムは大きく盛り上がっていたはずだ。

 5分、中央で3人に囲まれながらボールを運んだ本田は、左に走った味方に絶妙なスルーパスを通す。それを受けたFWルイス・エンヒッキはGKと1対1になるが、至近距離で放ったシュートは惜しくもセーブされてしまった。

 続く9分、センターサークル内でボールを持った本田から左に一気に展開して、左サイドバックのギリェルメを走らせた。コンディション不良で欠場したDFダニーロ・バルセロスの代わりにチャンスを得た32歳は、すぐさま低くて速いクロスをGKとディフェンスラインの間に送るが、ゴール前に滑り込んだハファエウ・ナバーロは合わせきれず。またしても本田が起点となったチャンスはゴールに結びつかなかった。

 ちなみに名前でピンときた読者もいるかもしれないが、絶好のクロスを供給した「ギリェルメ」は2018年にジュビロ磐田でプレーし、退場時に相手選手に暴力を振るったとして5月に解雇となった、あのギリェルメである。

 後にPKの場面がやってくるわけだが、特に前半のピッチ上における本田の存在感は絶大だった。時には低い位置にも顔を出してビルドアップを助け、幅広く動きボールに絡んで試合のテンポを作る。40分にはペナルティエリア内右から仕掛けてカットインする際に左足でボールを踏んで転ぶお茶目なシーンもあったが、前半アディショナルタイムにはその左足でミドルシュートも狙った。

 悔やまれるのは交代が早すぎたことだ。58分に途中出場したばかりの相手FWハイネルに同点ゴールを奪われ、「さあ、これからもう一度ギアを上げて…」というタイミングだった。本田は63分にルイス・フェルナンドとの交代でピッチを退いた。

不可解だった本田の交代

 確かに後半は相手のマークが厳しくなり、前半ほどいい形でボールを受けたり、前に運んだりすることができなくなっていた。デビュー戦ということもあって蒸し暑い気候の中でのコンディション面に気を遣ったのかもしれない。それでもピッチ上にいるだけで相手を困らせる影響力があった本田を、30分近く残したタイミングであっさりと下げてしまったアウトゥオリ監督の采配には疑問が残る。

 当の本田も交代には不満そうだった。中継映像でもピッチを出てベンチに座る瞬間が捉えられていたが、ドサっと腰を下ろした背番号4はスタッフからやや乱暴にドリンクを受け取り、憮然とした表情で何事か呟いていた。

 ボタフォゴのファンサイト『Fogao.net」によれば、本田が英語で「監督が自分を交代させた理由が理解できない」と述べていたのを、中継レポーターのファビオ・ジュッパ氏が伝えていたという。

 交代した後に勝ち越したなら、少しは納得できたかもしれない。ところがボタフォゴは本田がいなくなると途端にリズムが悪くなり、試合全体が間延びしていった。その結果、バングーにも何度もチャンスを作られ、しっかりと主導権を握れていた前半とは全く違う展開になってしまった。

 攻め急いで満足にゴール前までボールを運べず、終盤20分間のボタフォゴはまともなチャンスすら作れなかった。相手をペナルティエリア内まで押し込んでも、コンビネーションが噛み合わない。何とか1-1のドローで締めることができたものの、全国選手権では4部相当のセリエDに属す、本来なら格下のバングーに負けていてもおかしくないパフォーマンスだった。アウトゥオリ監督は就任以降、州選手権のリーグ戦で1勝1分1敗となかなか結果を出せていない。

新型コロナの影響で…

 試合終了直後に中継の実況者が「今日はコロナウィルスの影響で試合後のインタビューや記者会見を行わない」と明かしたため、アウトゥオリ監督の選手起用の意図や本田に対する評価、また本田本人がデビュー戦で感じたことなどを現時点で知る手段がない。

 とはいえ、今のボタフォゴはブラジル国内でも決して強豪と言える実力はなく、本田の能力に大きく頼っていくことになりそうだ。PKとはいえデビュー戦でゴールを奪い、ファンの信頼も掴んだ。攻撃における創造性や、試合の流れを読む感覚、力強いボールキープ、数々の歓喜を生み出してきた左足の精度は錆びついていない。試合ごとの変動背番号制の中でただ1人、ポジションに依らない固定の「4」を与えられていることからもチーム内で特別な能力を持った存在として扱われていることがわかる。

 懸念されるのはやはり新型コロナウィルスによる影響だ。ブラジルサッカー連盟は16日から同連盟主催の全ての大会を一時中断すると発表した。そのため18日に予定されていたコパ・ド・ブラジルの3rdラウンド第2戦、パラナ・クルービ対ボタフォゴも延期が決まっている。

 ただ、各州選手権の開催は各州のサッカー連盟に決定権が委ねられており、足並みが揃っているわけではない。ボタフォゴの選手たちがリーグ戦の開催を強行した連盟に抗議すべく、バングー戦の入場時にマスクを着けて現れるなど、新型コロナウィルスの流行が広がる状況に反発も出始めている。今後、ボタフォゴが属するリオデジャネイロ州でもリーグ戦の開催について議論がなされるはずだ。状況は日々刻々と変わっていくだろう。

 もしリーグ戦が続行されることになっても、バングー戦のような無観客試合になることは避けられそういない。ホームスタジアムを埋め尽くしたファンの前でゴールを決めて、チームも勝つという真の意味での本田の“デビュー戦”は、もう少し先のことになりそうだ。

(文:舩木渉)

【了】

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