序列を覆すための1年に
2021年に延期された東京五輪を7月23日から8月8日にかけての開催で検討に入ることが正式に決まった。丸1年後ろ倒しになったわけだが、男子サッカー代表の年齢制限問題はどうなるか分からない。
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現行の規約で定められている「97年1月1日生まれ以降」という出場資格が不変であれば、森保一監督のチーム作りには支障はないが、「U-23」という縛りにこだわるなら小川航基や三好康児、前田大然など97年組の選手たちが軒並み出場できなくなってしまう。
一方、98年生まれ以降の世代は何のハードルもなく東京五輪本大会を目指せることになる。99年2月生まれの田川亨介もその1人だろう。2017年と2019年U-20ワールドカップに続けて参戦した彼は、U-23日本代表候補の中では後発組。
2019年のAFC U-23選手権予選や2019年12月のEAFF E-1サッカー選手権、今年1月のAFC U-23選手権などに参戦しているが、小川や上田綺世らの後塵を拝している状況だ。それでも1年のアピール期間をもらえたことは大きなプラス要素。再開後のJリーグで活躍すれば、大舞台に大きく近づける可能性があるのだ。
「五輪代表に関してはあんまり深くは考えていないですね。気にしていても仕方ない。それよりも今、できることをしっかりやらなきゃいけないと思っています」と3月の中断期間に話していた田川。その言葉通り、チーム内での序列を上げていくことがまずは重要だ。
「困った時にチームのために何をやれるか」
今季のJ1開幕となった2月23日の清水エスパルス戦。田川は4-3-3のセンターFWのポジションで先発している。ご存じの通り、今季のFC東京は1月28日のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフ、セレス・ネグロス戦から超過密日程を強いられていて、この週もACLのパース・グローリー戦が週半ばにあったため、田川にスタメンの座が回ってきた格好だ。
序盤から攻守両面でアグレッシブさを前面に押し出した田川は存在感を発揮。72分にはディエゴ・オリヴェイラからのラストパスを受け、反転シュート。惜しくも相手守護神ネト・ヴォルピに防がれたものの、ストライカーらしい怖さを見せつけた。
そして1-1で迎えた80分。田川が体を張って奪ったところからカウンターが始まり、レアンドロ、ディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトンとつながり2点目をゲット。FC東京の強力外国人トリオが好連係から決勝点を叩き出した。彼らとも融合しながら81分までプレーした田川の存在価値を長谷川健太監督も再認識したのではないだろうか。
「今季はFC東京に来て2年目ですし、困った時にチームのために何をやれるかというのを意識しながらやっています。自分に託されるのは、どんどん前に引っ張っていく動きだったり、チームの勢いを出してあげることだったり、点を取ること。それは常に心掛けてやっていきたいと思っています」と本人も攻撃の柱の一角になるというと野心をのぞかせる。
性格的に温厚な田川は少しガツガツ感が足りないところがあったが、今季は殻を破ろうとしているのかもしれない。そうやって一皮、二皮むけることができれば、出場時間も増え、ゴールやアシストという目に見える数字も伸びていくはずだ。
プレーの幅を広げられれば…
彼の強みは単にセンターFWに入るだけではなく、ウイングや2シャドーの一角でもプレーできること。実際、森保監督率いるU-23日本代表では3-4-2-1のシャドーとして使われるケースが多い。
「代表でシャドーをやる時、自分に求められているのは裏抜けだったりする。そこははっきりしているのはすごくやりやすい。分かりやすくていいと思います。足元で受ける状況もあるけど、うまく使い分けていけたらプレーの幅も広がると感じてます。FC東京ではウィングをやることもありますけど、『ウィングだからこう』といった固定観念はあまりない。チームによってやらなきゃいけないことも全然違うので、臨機応変に対応していけたらいいですね」
田川は今、多彩な役割にチャレンジしている。「前線なら何でもOK」というマルチプレーヤーになれれば、18人に絞られる五輪代表にはより選ばれやすくなる。もともと田川は高さとスピードの両方を兼ね備えた数少ない存在なのだから、そこに幅広さや多彩さ、決定力が加われば鬼に金棒だ。そうやって高みを目指していくことが、今は何よりも大切なのだ。
3月30日に元日本代表の酒井高徳に新型コロナウィルス感染が明らかになり、全国的な新型コロナウィルスの蔓延を受けて一度は5月9日に定められたJ1の再開時期も白紙に戻された。いつ公式戦ができるのか分からないのは田川ら選手たちにとって不安以外の何物でもないが、この流動的な時期にしっかりとメンタル面を落ち着かせ、サッカーに集中することが重要だ。
ここで強靭な精神力も養うことができれば、今後どんな困難が訪れようとも問題はないはず。昨年のU-20ワールドカップで重傷を負った田川は苦境を乗り越えてきた選手だが、今はもう一段階強くなれる大きなチャンス。この機を最大限生かしてもらいたい。
(取材・文:元川悦子、取材日:2020年3月3日)
【了】