フットボールチャンネル

欧州日本人選手が電話取材で明かす本音。新型コロナで再開めど立たず…今何を思い、どう過ごしているのか

新型コロナウィルスの爆発的な流行によって、サッカー界は立ち止まることを余儀なくされている。ほとんどの国でリーグ戦やカップ戦が中止または延期され、再開のめどすら立っていない状況だ。そんな中、欧州組の日本人選手たちは日々どのように過ごしているのだろうか。オランダ1部のPECズウォレでプレーするDFファン・ウェルメスケルケン際が電話取材を通し、現地での生活や自らの心身の状態について明かしてくれた。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images, Sai van Wermeskerken

新型コロナウィルスが世界を覆う

ファン・ウェルメスケルケン際
【写真:Getty Images】

 世界中で猛威を振るう新型コロナウィルスの波は、日本にも確実に近づいている。ヴィッセル神戸の元日本代表DF酒井高徳らの感染も確認され、Jリーグへも未知のウィルスのリスクが忍び寄っている。

【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 欧州でも選手やサッカー関係者の感染が数多く判明し、各国のリーグ戦やチャンピオンズリーグなどの再開のめどは立っていない。夏に予定されていたEURO2020も1年延期が決定された。もはやサッカーどころではない。

 新型コロナウィルスの感染拡大が特に深刻なイタリアやスペインのみならず、多くの国で非常事態が宣言され、日常生活に大きな制限が設けられている。不要不急の外出は禁止され、違反すれば罰金が課される場所もあるほどだ。

 そんな中で、サッカー界では「家にいよう」と呼びかける運動が活発化している。SNS上でトップ選手たちが積極的にメッセージを発信し、トイレットペーパーをリフティングして在宅を呼びかけるムーブメントも起きた。

 欧州でプレーする日本人選手たちもSNSを通じてファンと交流している。また、日本サッカー協会が推進する「Sports assist you~いま、スポーツにできること~」という取り組みを通して自宅で簡単にできるトレーニング動画や、新型コロナウィルス対策の手洗い方法やマスクのつけ方などを指導するためのコンテンツの発信にも積極的だ。

 様々な面で自粛や我慢が求められる状況で、彼らもサッカーから離れざるを得ない生活を送っている。欧州では集団感染の原因になりかねないチームでの活動が基本的に禁じられ、クラブの施設も閉鎖されているため満足な練習ができていない。

 試合再開など先の見通しが一切立たない中で、欧州組の日本人選手たちは日々どのように過ごし、どんな精神状態でいるのか。あくまで一例ではあるが、オランダ1部のPECズウォレでプレーする元U-23日本代表DFファン・ウェルメスケルケン際(以下、際)に新型コロナウィルスによる影響や、実際の生活ぶりについて聞いた。

自宅待機も「成長のために貯蓄をすべき時間」

ファン・ウェルメスケルケン際
ピッチを使っての練習の日々を取り戻せるのはいつになるか…【写真:本人提供】

「起床してクラブでチームメイトたちと朝ごはんを食べて練習する、という長年続いていた日常のルーティンがなくなる日々には違和感があります。毎日練習や試合で体の疲れは出ますけど、それも達成感につながり、体はリフレッシュできます。

日々プロサッカー選手としての向上を心がけて生活しているので、最良のトレーニングができず辛い部分もあります。でも、食生活や日々取り組んでいるトレーニング自体が合ってているのかなど、自分を振り返る貴重な時間であり、かつサッカーが再開した時により成長が止まっていないでいられるように多くの貯蓄をすべき時間でもあると思うんです。

ポジティブに捉えれば、こんなにまとまった時間はなかなか取れるものではないと思います。買い物や、友だちとご飯に行くこと、旅行など、自らの自由が制限されることで感じる変化はストレスにもなりますが、自分を客観的に見て、シーズン終盤や来季に対して冷静に戦略を考えられる時間という方が強いですね。もちろんピッチの上でサッカーはしたいですけど、案外楽しく過ごせています」

 オランダでは3月12日にリーグ戦の一時停止が発表された。ズウォレの場合、13日までは練習を行ったが、14日から17日まで様子を見て選手たちにオフが与えられ、そのまま自宅待機に。現在はスタジアムなどクラブの施設が使えないためチーム練習はできないが、毎日選手個々に合わせたフィジカルトレーニングメニューが課される。

 それらに取り組むタイミングや自主練の量は選手自身に委ねられており、あくまでコンディションを良好な状態に保つことに主眼が置かれている。グラウンドが使えない以上、もちろんボールを使ってのチーム練習はできない。

 しかもオランダでは他者との間隔を1.5m以上空けることが求められているため、ランニングなども人が多い日中にこなすのはなかなか難しい。よって際は早朝か夜になってから走りのメニューに取り組むようにしているという。

「日中に外で走ろうとすると、ウォーキングやジョギング、犬の散歩をしている人が意外に多いことがあるんです。だから走るなら早朝か夜になってから。人がたくさんいると1.5mの間隔を空けられないので。例えば夜にトレーニングをするなら、朝起きて、朝食を摂って、勉強などをやって、昼ごはんの料理をして、午後また勉強や他の家事などの作業をして、夕飯の後に体を動かす感じですね」

「1人ひとりの研鑽がチームの結果につながる」

ファン・ウェルメスケルケン際
自宅での朝食(左)とトレーニング風景(右)【写真:本人提供】

 トレーニング内容は毎日異なり、インターバル走やスプリントなど、有酸素と無酸素を組み合わせたメニューがチームスタッフから送られてくる。それには筋力トレーニングも含まれているが、「大半の選手は家にジムがあるわけではないから、どうしてもやれることに限度があって、パフォーマンスを上げるトレーニングよりは、持続させるトレーニングに近くなります」と際は言う。

「僕は今、自宅の空いているスペースをジムに改造している最中です。プラスアルファのトレーニングは自由なので、今まで時間がなくてかけられなかった負荷をかけたり、量を増やしたりしていこうと思っています。

ボールを蹴れるのは自宅の敷地内だけです。やっぱりボールに触らないと感覚が失われていくので、家の中や庭でボールに触れるようにしています。サッカーのテクニックやパフォーマンスを挙げられるかは怪しいですね。でも、逆に身体能力に関してはまとまった時間があるからこそ、自分の筋力、持久力、柔軟性などを上げられると思っています」

 外出が制限されると、どうしても“自宅軟禁”に近い状態になって精神面に悪影響が出てしまいがちだが、際の場合は趣味にしている料理や、将来のための勉強に充てる時間を増やし、できるだけストレスが溜まらないよう工夫している。「いつも使えない時間を他のことに使えるのは結構フレッシュな気持ちなので楽しめています」と気丈に語る。

「課せられたトレーニングを行うかは自己判断ですが、集中力を高めて、ここぞとばかりにやっている選手は絶対にいる。再開した時にそういった選手とそうじゃない選手の差は明確です。しっかりトレーニングを積んでいた選手がどれだけいるかで、今後のチームプレーに大きな差が出てくると思います。1人ひとりの研鑽がチームの結果につながるのは、こういう時でも変わりない現実です。

チームメイトたちがそういったことを心がけてしっかり頑張ってくれていることを願って、自分を高めることにフォーカスして、再開したらベストコンディションで挑めるように準備し、ズウォレの1部残留はもちろん、プロサッカー選手として確実にレベルアップすることを念頭に置いて生活しています」

 当初は4月6日からチームでの活動が再開できる見込みになっていたが、オランダ政府が3月23日に新型コロナウィルス感染拡大防止のための追加措置を発表したことで白紙になった。グループでの外出は避けて他者との距離も1.5m以上の間隔を保つことが徹底され、公共の場所で3人以上のグル―プとなることは禁止、さらに100人未満も含めて全ての集会は6月1日まで禁止となっている。そのため現時点では6月1日以降にならなければリーグ戦はおろかチーム練習すらも再開できない見通しだ。

今だからこそ伝えたいこと

オムライス
自宅にいる時間を使って料理スキルを高めることもできる【写真:本人提供】

 すでにズウォレではクラブ財政に大きな打撃を受けており、今季末で契約が満了になる4選手との契約非更新を発表。また期限付き移籍加入中の2選手も来季はレンタル元に戻ることが明らかにされている。地元メディアの報道によれば、当面の給与支払いには問題がないものの、収入面の大幅なマイナスが影響しているようだ。

 リーグが再開されるかどうかで、来季の戦う場所も変わってくるかもしれない。現在リーグ戦26試合を終えて15位につけるズウォレは、降格圏の16位フォルトゥナ・シッタートと勝ち点で並んでおり、残留争いの真っ只中にいる。

 さらにリーグ戦閉幕が7月以降にずれ込み、来季開幕までの時間が短くなっていくと、オフシーズンに予定していたスタジアムのピッチを人工芝から天然芝に張り替える計画も暗礁に乗り上げてしまう。財政的な懸念もあるが、十分なスケジュールを確保できるかの見通しが全く立たないのだ。

 それでも今やるべきことは、ハッキリしている。新型コロナウィルスに感染するリスクを極力避けながら、リーグ戦の再開を信じて万全の準備を整えつつ、時間や経験、知識を最大限に活用して少しでも成長しておくことだ。

 そのうえで際はサッカーができないことで下を向くのではなく、未来を見る。制約が多い中でも、いかに限られた時間を有効に活用できるかが、サッカーのある日常を取り戻した後の将来につながっていくのである。

「僕らがより大きな影響を与えられるのは、今後サッカー選手になりたい子どもたちが多いと思います。まずは家族との時間を大切にして欲しい、ということを伝えたいです。これだけまとまった時間が取れることも、家に親子が揃って、一緒に時間を過ごせることもなかなかないので、目の前にあるものを大切にしながら、あえて休息に当てる時間も増やすのもいいと思います。特にオランダや海外の人たちは家族との時間をすごく大切にします。僕自身、海外に出てきて頻繁には両親に会えないからこそ、家族との時間の重要性を特に強く感じます。

今はサッカーをしに外に出ることは難しいですが、こんなに集中して何かに取り組める時間は貴重です。ここぞとばかりに勉強するのもありだし、将来的に海外に出たいと思っているなら語学や、自炊をするための料理を集中的に学ぶこともできます。あり余る時間を将来のためにどう有効に使えるかを考えて、日々生活していってほしいなと思います。そして振り返った時に『あの時間があってよかったな』と思える時間の使い方をしてください。

僕も今は精一杯準備して、ベストな状態で皆さんの前でプレーできればと思いますし、チームに勝利をもたらせるプレーでより多くの方々に勇気や元気を与えられればと思っています。なかなか先の見えない難しい状況が続きますが、一緒に乗り越えていきましょう」

(取材・文:舩木渉)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top