12年、大滝麻未。世界最強チームの中でも「ダントツ」。『Complet』と評価されたその理由【リーグ・アン日本人選手の記憶(10)】

日本人選手の欧州クラブへの移籍は通過儀礼とも言える。これまでにもセリエA、ブンデスリーガなどに多くのサムライが挑戦したが、自身の成長を求め新天地にフランスを選ぶ者も少なくはない。現在も酒井宏樹や川島永嗣がリーグ・アンで奮闘中だ。今回フットボールチャンネルでは、そんなフランスでプレーした日本人選手の挑戦を振り返る。第10回はFW大滝麻未。(取材・文:小川由紀子【フランス】)

2020年05月29日(Fri)10時00分配信

シリーズ:リーグ・アン日本人選手の記憶
text by 小川由紀子 photo Getty Images
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ユニバーシアードでの活躍を受けリヨンへ

大滝麻未
【写真:Getty Images】

 大滝麻未は、欧州チャンピオンのクラブでサッカー選手としてプロデビューしたという、非常にめずらしい経歴を持つ。

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 2012年1月の、年明け初戦でのこと。宇津木瑠美と鮫島彩が所属していたモンペリエがリヨンと対戦したとき、会場に来ていたリヨンのジャン・ミシェル・オラス会長が近づいてきて、「ボナネ」という新年の挨拶のあと、こう言った。

「リヨンの女子チームは欧州最強だ。そのクラブに世界チャンピオンの国の選手がいないのはおかしいだろう?」。

 そのときリヨンが獲得計画を進めていたのが、当時早稲田大学に在籍していた大滝だった。

 早稲田大学ア式蹴球部女子部、通称『ア女』に所属していた大滝は、インカレや関東大学女子サッカーリーグ戦で活躍。2年生のときに“学生のためのオリンピック”ことユニバーシアードに日本代表として出場して準優勝すると、4年生時の2011年大会では6試合で8得点をマークして大会得点女王に。日本が6-0で快勝した準々決勝のカナダ戦では4得点。さらに、グループリーグと準決勝で2回対戦したフランス戦では2試合ともゴールを決めて強烈なインパクトを与えた。そしてそのときのフランス代表のコーチの中に、リヨンのスタッフがいたのだった。

 1月にトライアルに呼ばれると、そのまま入団が決定。東京で行われた会見で大滝は、「世界最高のチームで世界最高のプレーヤーになりたい。レギュラーになってチャンピオンズリーグで得点するのが夢」と抱負を語った。

7試合で5得点。スタートは上々

 なでしこジャパン候補合同合宿があったため、渡仏は2月半ばにずれこんだが、3月21日に行われたチャンピオンズリーグ準々決勝、敵地デンマークでのブロンビー戦の57分、大滝はリヨンの一員としてピッチに立った。

 そして、3日後のロデーズ戦でリーグ戦でもデビュー。先発出場したフランスカップ準々決勝のコンピエーニュ戦で初ゴールをあげると、準決勝ではハットトリックを決めて決勝進出に貢献。その3日後にはリーグでも初ゴールと、大滝は、限られた出場時間の中で一歩一歩結果を出していった。

 そして5月17日、ミュンヘンで行われたフランクフルトとのチャンピオンズリーグ決勝戦で88分に送り出されると、2連覇達成の劇的な瞬間を、ピッチの上で味わった。

「この舞台でプレーするとは思わなかったから、頭の中が真っ白になった。こういう舞台で活躍できる選手になりたい」。

 本格的に練習に合流した3月上旬からの実質2ヶ月半で、大滝は国内リーグ、カップ戦、チャンピオンズリーグの三冠達成を体験。7試合に出場して5得点をあげ、「今季はトライする中で課題を見つけたシーズン。来季はそれを克服したい」と、次シーズンへの目標を語った。

 当時のリヨンは、パワーとスピードを駆使して速いペースで縦に展開するサッカーを主流としていて、トップを張る179cmの長身FWロッタ・シェリンが絶対的なターゲットマン。大滝に求められたのは、シェリンより少し後ろに位置してタイミングを見て抜け出すセカンドストライカー的な役割だった。

 パトリス・ライー監督は、瞬発的な動きのスピードを上げることを常に課題に挙げていたが、両足を使いこなし、ヘディングも目に見えて向上していた大滝の攻撃センスを評価していた。

「すでにここに来てからずいぶん成長した。スピードがやや足りないが、サイズもある。それに相当な努力家だ。課題はもっと爆発力をつけ、加速をよくすること。それが向上すればプレー時間も増す。契約はあと1年あるから、これからここで伸びるだろう」。

「アミのテクニックはチームの中でもダントツ」

ソニア・ボンパストール
「アミのテクニックは、このチームのメンバーの平均を、はるかに超えている」と大滝を評価したソニア・ボンパストール【写真:Getty Images】

 国内リーグ13連覇中のリヨンは、いまでも最強チームであることに変わりないが、大滝が在籍したこの頃の飛びぬけ具合は別格だった。

 2011/12シーズンは19勝3分0敗と、“不覚にも”3度引き分けを喫したが、リーグ戦22戦で失点は3点のみで、19試合でクリーンシート。1試合の平均得点数は5点を超え、10点以上とった試合が3回もあった。

 当然ながら主力メンバーは全員が各国代表で、フランス代表キャップ156を誇る主将のソニア・ボンパストールを筆頭に国内のトップ選手が集結。そこにスウェーデン代表の『女イブラヒモビッチ』ことシェリン、スイス代表の名ウィンガー、ララ・ディッケンマンらが加わり、畏れ多さを感じるほどの絢爛豪華ぶりだった。

 そこに大学卒業したばかりの大滝が挑むというのは、例えるなら、NBAのオールスターチームに大学出たてのルーキーが加わるような感じだったが、その中で大滝は、2つの点において周囲からゆるぎない評価を勝ち取っていた。それはテクニックの確かさと、人間的な魅力だ。

 コーチ陣やチームメイトに大滝のプレーの印象を聞いて、一番よく出てきたのが、『Complet』という単語だった。英語でコンプリート。全部、完成した、といった意味だが、「大滝は攻撃手に必要な技術的な素質を総合的に備えている」、と彼らは口を揃えた。実際、172cmと長身の大滝自身も、足元のボールさばきを得意としていた。

 フィジカルコーチは、「アミのテクニックはチームの中でもダントツに優れている。フィジカル面では動きの量を増やすなど課題はあるが、テクニックがしっかりしているからこれからもっと伸びる」と語り、GKコーチも「チームでゴール前でのシュート練習をするときは、いつもアミが一番決めている。両足が使えてゴール前に入っていくタイミングもいいし、ボレーの精度も高い」と評価した。

「アミのテクニックは、このチームのメンバーの平均を、はるかに超えている」と言っていたのはキャプテンのボンパストールだ。シェリンも「アミはテクニックがすばらしい。精度が高いし、ボールの扱いもうまくてコントロールが良い。ゴール前での決定力が高いから、ターゲットマン向きの選手だと思う」とフォワード視点でコメントした。

 そして、笑顔を絶やさない明るい性格。とくに仲がよかったというボンパストールは、「アミはいつもニコニコしていて、みんなから好かれている。人の意見はよく聞くし、いつも楽しそうにしている」と言っていたし、「性格の良い明るい彼女がいるのはチームにとってありがたい。彼女の存在はチームにプラスになっている」と話すコーチもいた。

「Ami」は、フランス語で「友達」という意味の単語だ。大滝は文字どおり、みんなからの愛されキャラだった。

 一般的になかなか手強いフランス人女性を相手に、「いや、怖そうに見える選手も、みんなすごく優しいんですよ!」と、すぐに溶け込んで仲良くやっていたのは、端からみてもすごいと感心したものだ。

熾烈なポジション争いで出場時間は伸びず

 2年目の2012/13シーズン、リヨンはライバルのFCジュビジーから、一昨シーズンのリーグ得点女王レティティア・トナッツィを引き抜き、さらに攻撃陣を強化。冬のメルカートでは日本代表の大野忍と、アメリカ代表で前回のワールドカップのMVPミーガン・ラピノーも加わり、シェリンですらベンチで試合を終えるほどポジション争いが一層熾烈になると、大滝の出場時間も期待したほど伸びなかった。

 見ていて感じたのは、GKコーチの言うように練習ではゴール前でキレのある動きを見せるのに、いざ試合で出番が来ると、思いきりよく出し切れていないのかな、ということだった。

 本人も、「良いプレーをしなければ、と思うと余計に空回りしてしまう」と話していたことがあったが、試合に出ていないと自信も蓄積できず、せっかくの出場機会でもプレーに一瞬の躊躇や迷いが出てしまう、そんなもどかしさがあった。コンスタントにゴールに向かっていないとプレーに迷いが生じるのは、彼女に限らずストライカーにはよくあることだ。

 自分が決めたゴールについて、「パスがちょうどいいところに入ってきたから、自分は触るだけでよかった」と謙遜していたこともあったが、そんな「ごっつぁん」なシチュエーションほど“ふかす”選手が多いのがこのリーグ。ゴール前での決定力には、もっと自信をもって挑んでもよかった。

 とはいえ、当時のリヨンの “できあがった感”のある精鋭チームで、国外から来たプロ1年生がいきなり力を発揮するには、相当なメンタル力が必要だったことだろう。チームとしての栄光はうれしい反面、自分自身の成長や収穫は、と考えたときには、別の思いもあったかもしれない。

 16試合に出場し、CLラウンド16のクラスノゴルスク戦での1点を含む13得点という成績で2012/13シーズンを終えると、契約満了とともに大滝は浦和レッズに移籍した。

 その後のキャリアもなかなかバラエティに富んでいて、モンペリエで宇津木や鮫島を指導したサラ・エムバレク監督率いるギャンガンに請われてフランスに戻り、2014/15シーズンの後半戦を戦ったあと、25歳でいきなり現役引退を発表。フランスに残ってパリ近郊で女の子たちにサッカーを教えていたところ、かつて宮本恒靖も修学した、スポーツ界で活躍する国際的な人材を育てる大学院、FIFAマスターに進学、卒業後にパリFCで現役復帰して、現在はジェフ千葉レディースでプレーを続けている。

 いつも自分の気持ちと向き合って、心の声を聞きながら次に自分が進む道を選ぶ、大滝からは、そんな印象を受ける。様々な経験や聡明さを生かして、この先もきっと、いろいろな形で女子アスリートの発展に携わっていくのだろう。いるだけでその場の雰囲気がぱっと明るくなるような大滝の笑顔は、どこへ行っても周りを元気にしてくれるのだ。

(取材・文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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