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南野拓実と最強3トップの違いは? 理想の姿へ近づくために…強すぎるリバプールで進むべき道

現地24日にプレミアリーグ第31節が行われ、リバプールがクリスタル・パレスを4-0で一蹴した。いよいよ悲願のプレミアリーグ制覇に王手がかかり、早ければ25日にも戴冠が決まる。日本人選手として4人目のプレミア王者になろうとしている南野拓実は、今どのような立ち位置にいて、これからどんな道を進んでいくべきなのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

あと一歩。誰も疑わないリーグ制覇

モハメド・サラー
【写真:Getty Images】

 いよいよ王手である。中断前の時点で「今季の優勝はもう決まりでしょう」という雰囲気が漂っていたものの、リーグ再開初戦で引き分けて足踏み。それでも、ついに悲願の時が訪れようとしている。

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 現地24日に行われたプレミアリーグ第31節で、リバプールはクリスタル・パレスを圧倒。4-0の大勝で勝ち点を「86」に伸ばした。もし25日に2位のマンチェスター・シティがチェルシーと引き分けるか、あるいは敗れれば、その時点でリバプールの優勝が決まる。

 シティがチェルシーに勝利すれば次節以降に持ち越しとなるが、第32節に組まれているのはリバプールとシティの直接対決。ここで勝てば、文句なしでプレミアリーグ初制覇が確定する。これが理想的なシナリオではないだろうか。

 クリスタル・パレス戦のリバプールは、王者にふさわしい強さだった。序盤から相手を圧倒し、GKアリソンが中継の画面にほとんど映らないくらい、敵陣内で攻め続ける。「翻弄」という言葉がぴったりの試合運びだった。

 モハメド・サラーが復帰した前線は、相変わらず阿吽の呼吸で、狙い通りのパスがどんどん通る。インサイドハーフのジョーダン・ヘンダーソンやジョルジニオ・ワイナルドゥムも積極的にゴール前へ顔を出し、その後ろではファビーニョが中盤のフィルターとして広範囲に睨みを利かせた。

 センターバックのフィルジル・ファン・ダイクとジョー・ゴメスから丁寧にボールを動かし、相手のブロックが片方サイドに寄ったと見るや、大きなサイドチェンジで一気にフリーの逆サイドへ展開。高い位置を取る両サイドバックが積極的に攻撃に絡み、プレースキックでも存在感を発揮する。

 サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノによる3トップの連係は完成されていて、ほとんどお互いを見ていないのではないかと感じるほどのスピードで正確にボールを受け渡す。チーム全体がこの3トップのパフォーマンスを最大化するよう組み立てられていて、相手の出方をうかがいつつ、状況に応じた判断基準がプログラムされているかのごとく機械的にクリスタル・パレスの守備を崩していくのだ。

南野拓実と最強3トップの違い

南野拓実
【写真:Getty Images】

 リバプールは23分にトレント・アレクサンダー=アーノルドの見事な直接フリーキックで先制すると、44分にはファビーニョの浮き球パスに抜け出したサラーがあっさりゴールを陥れて追加点。後半に入った55分にファビーニョが強烈なロングシュートを沈めて勝利を決定づけた。

 69分の4点目はおまけのようなものだが、これもすごかった。自陣からのカウンターでマネがフィルミーノへボールを預け、そのまま左サイドを爆走して前線のスペースへ駆け抜けていく。反転したフィルミーノは中央を上がってきたサラーに展開すると、このエジプト代表はワンタッチで相手センターバック2人の間を抜くスルーパスを選択。

 いつの間にかペナルティエリア手前まで進出していたマネへ優しいラストパスを届けた。ゴール前で完全にフリーとなった背番号10は、ウェイン・ヘネシーをあざ笑うかのようなフィニッシュで今季15得点目。自陣からパス3本で崩し切ってしまう、恐るべきアタッキング・トリオである。

 正直に言って、彼らとまともにポジション争いができる選手は世界を見渡しても一握りだろう。それくらいサラー、マネ、フィルミーノのパフォーマンスは充実していて、連係の完成度も高い。ただ、割って入る権利を持っている日本人が1人だけいる。南野拓実である。

 前節エバートン戦でプレミアリーグ初先発を飾ったものの、前半のみで交代に。今節は4点差がついて勝負がほぼ決まっていた74分から、フィルミーノとの交代でピッチに送り出された。

 実際のところ、レギュラーポジション獲得への道のりは果てしない。これまでフィルミーノのポジションで途中起用が多かったが、南野は1stオプションのブラジル代表FWとは全く違うタイプの選手で、同じプレーはできない。

 エバートン戦のように右ウィングで起用されても、サラーのようなディフェンスラインの裏に抜けるスピードも華麗なドリブルスキルも持っていない。リバプールOBのジェイミー・キャラガー氏が「前線の3トップは誰かが欠けてしまうと大問題が起こる」と述べ、「南野は全く違うタイプだ」と3人の代役にはなり得ないことを指摘したのも、大筋で同意する。

稲本、香川、岡崎に続く

 サラーやマネはスピードに乗ってディフェンスラインの裏に抜けてボールを受けることを好むが、南野の場合はより足もとでボールに触り、短いパス交換やコンビネーションでゴール前に出ていくプレーを得意とする。

 移籍当初は献身性も含めてフィルミーノとの併用が最適な起用法ではないかと見られていたが、体格的に劣る南野はゴールに背を向けた状態でのプレーを苦手としていて、1トップには心許ない。そして、プレミアリーグの最強クラブでポジションを獲得するにあたって、まだ絶対的な武器を確立できていないという結論にたどり着く。

 例えベンチスタートが多くても、途中出場した時に味方が「タキ(南野の愛称)はこれだね」と無言で使ってくれるくらいの武器を見せて、理解してもらわなければ居場所はなくなってしまうだろう。

 クオリティ不足を指摘されても“レジェンド”扱いを受け、重要な局面で起用されるディボック・オリギも、スピードを生かしたスペースへのランニングと圧倒的な勝負強さ、フィニッシュの意外性といった武器を結果につなげることでチーム内における立ち位置を築き上げてきた。

 早ければ明日、もしくは次節にリバプールはプレミアリーグ初優勝を決めることになるだろう。もう戴冠を疑う者はいない。

 2001/02シーズンにアーセナル所属だった稲本潤一、2012/13シーズンにマンチェスター・ユナイテッドで頂点に立った香川真司、そして2015/16シーズンにレスター・シティでミラクルの立役者となった岡崎慎司に続き、南野は日本人で4人目の「プレミア優勝経験者」になる。

理想の姿へ近づくために

南野拓実
【写真:Getty Images】

 だが、優勝の喜びよりも悔しさが大きくなるかもしれない。レッドブル・ザルツブルクからリバプールの一員になって、期待が大きかった反面、ほとんどチームに貢献できていない現状のもどかしさは南野自身が誰よりも身にしみて感じているはずだ。

 彼は以前に取材した時、選手としての理想の姿についてこんなことを言っていた。

「ゴールやアシストのところで常に結果を出せる選手。なおかつハードワークもできて、守備でも攻撃でも潤滑油的な役割をしっかりこなせる選手。最終的に監督はそういう選手を使いたいとなると思うし、そういう選手じゃないとビッグマッチの時に信頼してもらえないと感じています。自分も今、そういう部分を伸ばしていっているところなので、それを継続していって、そういう部分でトップクラスの選手になっていければと思っています」

 リバプールで「ゴールやアシストで常に結果を残せ」て、「ハードワークもできて、守備でも攻撃でも潤滑油的な役割をしっかりこなせる」となれば、パーフェクトプレーヤーだ。確かにユルゲン・クロップ監督も南野を使わざるを得ない。

 でも、あながち不可能な道のりではないとも感じる。現時点でもハードワークの面ではしっかりと貢献できているし、チームプレーヤーとしての才覚は示している。だからこそ、あとはプレミアリーグで結果を残すための「武器」を見つけて磨くことが激しい競争を生き残っていくために重要になる。

 もしリーグ優勝が決まれば、そのあとは無理をして主力を連戦に使わなくてもよくなり、普段はベンチに座ることの多い選手や若手にも積極的にチャンスが与えられるはず。南野にとっては成長のきっかけをつかむ大きなチャンスだ。

 来季こそ「リバプールにとって欠かせない選手」と言われるようになってもらいたい。本当にあと少しずつの上積みで、視界が開け、見える世界が大きく変わってくるはずなのだ。同じ日本人として、南野の真のワールドクラスへの進化を期待しないわけにはいかない。

(文:舩木渉)

【了】

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