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セリエA 4年前

ユベントス、屈辱的敗戦の理由。広がる「サッリ・アウト」ムード、隠しきれなかった悪癖とは?

セリエA第35節、ウディネーゼ対ユベントスが現地時間23日に行われ、2-1でホームチームが勝利している。勝てば9連覇が決まるユベントスだったが、残留を争う相手にまさかの敗北。今季の「悪癖」を晒してしまう結果となった。9連覇達成の可能性は依然として高いままだが、「サッリ・アウト」ムードは広がりつつある。(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

残留争い中の相手にまさかの…

ユベントス
【写真:Getty Images】

 前日の試合で、インテルはフィオレンティーナに対してスコアレスドローに終わり、順位浮上ならず。一方ボローニャに勝って2位に再浮上したアタランタとの勝ち点差は6。ユベントスが23日のウディネーゼ戦に勝利すれば、9連覇が決まる状況になっていた。もし最終節でアタランタに並ばれることになっても、直対成績で上回っていたからだ。

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 しかしウディネーゼは、そんな皮算用を許す相手ではなかった。

 18位レッチェとの勝ち点差は4。たとえユベントスが相手だろうと勝ち点が奪えなければ、残り3試合で地獄を見ることになることは明白だった。そんなチームは、上位にとっては非常に危険な存在である。失点しないためにハードな守備を敢行し、一方で容赦なくカウンターを繰り出し、結果を出すためになりふり構わない勝つための選択肢を取る。ユベントスはそんな彼らに相対し、先制点を奪いながら逆転で敗れた。

 一過性のものかもしれない。だが今のユーベには克服すべき課題があると誰もが思っている。「問題はいつも同じですね。どうしてですか?」。試合後の記者会見に応じたマウリツィオ・サッリ監督に、地元記者からはこのような質問が飛んだという。

 ユベントスが先制をしながら、勝ちきれなかった試合は非常に多い。スポーツ分析会社『Opta』によれば、そういった試合で失った勝ち点は18にのぼり、過去9シーズンの中では最悪の数字だという。なぜこうなったのか。ウディネーゼ戦の後半は、その理由がわかりやすい形で窺い知れるものになっていた。

ユベントスの悪癖

 先制に成功した前半の戦いぶりは悪くなかった。DFラインを高く押し上げ、コンパクトな布陣を形成し前方から積極的に相手を追い込んでいく。後方の選手たちもパス回しに参加し、キビキビとショートパスが切れ目なく繋がれて前線に行き、シュートで完結する。

 ウディネーゼも粘っていた。ゴール前では選手たちがコンパクトな3ラインに収縮して、ゴール前のエリアを潰す。一方で攻撃はカウンターを主体とし、左ウイングバックのケン・セマを走らせて活路を伺う。普段の攻撃的なインサイドMFと違って中盤の底に起用されたアルゼンチン代表MFロドリゴ・デ・パウルも、個人技でプレスを掻い潜ってチャンスを作る。しかしユーベはそんな彼らから試合の主導権を掌握し、そして訪れたチャンスで確実にゴールを仕留めた。

 42分、ウディネーゼ側のクリアボールに反応したのは、最後尾から大胆に飛び出したマタイス・デ・リフト。相手よりもいち早くボールを手にした彼は、大胆にミドルシュートを放った。ゴール左下隅に突き刺さり、これで先制。

 力量が上回るチームであれば、リードをもらえれば余裕ができる。攻めて前に出てくる相手がスペースを開けてくるところを利用し、攻撃を有利に進めることができる。しかし今シーズンのユーベの場合、問題はここから。点を取ってもそのままペースを保とうとし、そこで失敗するのだ。その悪癖を晒す上で、ウディネーゼは最悪の対戦相手だった。

 リードを奪った後も、ユベントスの最終ラインは相変わらず高いまま。しかし、両サイドバックも前掛かりになっているため、DFラインは乱れがちになる。47分、右SBダニーロがデ・リフトと幅を開けすぎていたため、イリヤ・ネストロフスキに前線のポジションを取られたのち相手を捕まえられず前に行かれ、シュートを打たれる。これは辛くも逃れるが、その5分後にDFラインの乱れを完璧に突かれた。

 左サイドからはマルフィン・ゼーヘラールがボールを持って攻め上がり、インサイドMFのケン・セマが大きく開いてサイドアタックを敢行する。それに対しユーベの前線、中盤のフォローは遅れ、ダニーロは集中して攻められる形となる。そしてセマがクロスを上げると、何とファーサイドは誰もケアせずぼっかりとスペースが空いていた。そこにネストロフスキが飛び込みヘディングシュート。あっさりと同点にされた。

9連覇はほぼ確実だが…

マウリツィオ・サッリ
【写真:Getty Images】

 ここから攻撃に移そうと、ユーベの攻撃陣はさらに前方へポジションを取る。しかし彼らは流れを引き戻せないどころか、ウディネーゼにやられ続ける。彼らの戦術は、ゴールライン付近でラインを組んでカウンター。しかしユーベはこれを捕まえきれず、いいように形を作られる。

 サイドでは人数が足りずセマは突破のし放題。攻撃のキーマンであるデ・パウルは、プレスを次々と掻い潜ってパスを供給。もう一人の中盤セコ・フォファナも、中盤でボールを奪取した後は果敢に縦へと攻め出した。

 ユーベの組織が間延びして、相手の選手をうまく囲むことができないようになっていたのだ。前線には守備の意識が希薄で、サイドバックも前に意識がいっているから後ろのスペースを開ける。試合後に発表されたセリエAの公式マッチデータによれば、相手がボールを保持している際の前線とDFラインの長さは、平均で30.53m。ウディネーゼ は同21.03mとコンパクトに守備ができており、差は歴然。ユーベの組織守備がルーズになっているかはここからも分かる。

 その間を運動量でつなぐのは中盤の役割だが、当然体力は続かない。この日はロドリゴ・ベンタンクールとアドリアン・ラビオが奔走していたが、彼らのプレー強度が落ちてくるとますますプレスが掛けられなくなる。デ・パウルはやりたい放題となり、次々と危険な展開を作り出していた。

 そうなってしまっては、ウディネーゼが逆転ゴールを奪ったのも必然の流れだった。アディショナルタイムのカウンターで、フォファナが中盤から突破を敢行。アレックス・サンドロを弾き飛ばし、デ・リフトを抜いてシュートをねじ込んだ。

「終盤で点を撮りに行こうとしたのでこうなった。我われだけではないが、この(リーグ再開後の過密日程という)状況では選手も疲れてくるからアグレッシブな姿勢を保てない」。

 サッリ監督は会見でそのように説明したが、アグレッシブな姿勢を常に保っていなければ機能しないというのが彼のサッカーの特質だ。しかし、要求するプレー強度は植え付けられずに後半の息切れ傾向が目立ち、一方でユーベの特色だった試合巧者ぶりはスポイルされている。前から指摘されていたチームの課題を克服できないまま、終わりまで来てしまった。

 次節の相手は残留の決まったサンプドリア。モチベーションの低下した相手にきっちり勝って、次節でアタランタとの勝ち点6差をキープできれば優勝は決定である。だがユーベにはチャンピオンズリーグ(CL)も残っているし、何より次節でサンプがユーベの悪癖を突いて挑みに来たら…。

 イタリアのツイッター界隈では「サッリ・アウト」などというハッシュタグがトレンドとなったという。9連覇を決めるにも納得した勝ち方が求められるムードになっている。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

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