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ユベントス最強の破壊力を持つ男がいた。2発モラタよりピックアップすべき、勝利の立役者となったのは?【欧州CL】

チャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグG組第1節、ディナモ・キエフ対ユベントスが現地時間20日に行われ、0-2でアウェイチームが勝利している。敵地でかなり苦戦を強いられたユベントスだが、アルバロ・モラタの2得点で好スタートを切ることに成功した。もちろん彼の輝きも忘れてはならないが、もう一人ピックアップすべき人物がいる。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

ピルロ監督は4バックシステム採用

ユベントス
【写真:Getty Images】

 アンドレア・ピルロ新監督が誕生したユベントスだが、新シーズンは順調なスタートを切れたとは言い難い。セリエAではここまで負けなしであるが、先日行われた第4節では開幕3連敗中だったクロトーネと1-1ドローに終わっている。チームは今、最適解を模索中という状況だ。

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 しかし、時間は余裕を与えてくれない。現地時間20日には2020/21シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)が開幕している。ユベントスは初戦でウクライナの強豪ディナモ・キエフと対戦。もちろん、ビッグイヤー獲得を目指すビアンコネロからすれば、勝利で初陣を飾りたいところだった。

 リーグ戦では3バックが主体だが、このディナモ・キエフ戦は4-2-3-1システムを採用している。アレックス・サンドロ不在で手薄となっている左サイドバックにはダニーロが回り、右サイドバックにはファン・クアドラード。1トップを今夏復帰したアルバロ・モラタが担った。

 ユベントスは立ち上がりから予想通りボールを保持している。トップ下に入ったアーロン・ラムジーはある程度ライン間を自由に動き、パスを引き出したり背後へのランニングでDFの注意を引き付けたりと柔軟にプレー。チームとしてはショートパスをメインに攻略を図っていた。

 守備時はラムジーを一列前に押し上げ、4-4-2の3ラインを形成。相手最終ラインのビルドアップを阻止し、長いボールを蹴らせてはセカンドボールを的確に回収している。アドリアン・ラビオとロドリゴ・ベンタンクールのダブルボランチも良い距離感を保ちながら中央エリアにしっかりと蓋をしていた。

 徐々にディナモ・キエフもボールを持つようになったが、ユベントスの守備陣はさすがの強度を発揮。サイドチェンジにも素早いスライドで対応し、ほとんど危険な場面を作らせていない。19分にジョルジョ・キエッリーニが負傷交代するアクシデントに見舞われたが、代わりのメリフ・デミラルはうまく試合に入っていた印象だ。

 ただ、良い守備はディナモ・キエフも同じだった。最終ラインと中盤の距離感が非常にコンパクトで、ショートパス主体のユベントスに綻びを見せず。軽率なパスミスからピンチを招くシーンはあったものの、全体的な守備の安定性という意味では、ディナモ・キエフも負けてはいなかった。

 結果、ユベントスは45分間で点を奪うことができず。少しモヤモヤしたまま後半へ向かうことになった。

ディバラ投入は効果が出ず。それでも…

 ホームということもあり、ユベントス相手に奮闘しているということもあり、どこか流れがディナモ・キエフにあったようにも思えた。しかし、ユベントスは後半開始早々にそうした空気を壊した。

 46分、ペナルティーエリア外からデヤン・クルゼフスキーがミドルシュートを放つと、これをGKヘオリー・ブスチャンがセーブ。こぼれ球に反応したモラタが押し込んでユベントスが先制に成功している。

 リードを得たユベントスは56分にクルゼフスキーを下げてパウロ・ディバラを投入。今季出場機会の少ない背番号10を起用した意図について指揮官は「彼はプレーする必要があった」と話している。ディバラはクルゼフスキーと同じく右サイドに入ったが、流れの中ではある程度フリーな動きをみせていた。

 しかし、「今日彼が100%の状態でなかったことが理解できただろう。彼には時間を与える必要がある」とピルロ監督が話した通り、ディバラの投入が流れに大きな変化をもたらしたとは言い難かった。随所で“らしさ”は出していたが、全体的にはまだ感触を掴もうとしている印象が強かったのだ。

 こうしてユベントスの先制点が生まれた後は、膠着状態が続いていた。疲労の影響からか選手個々の動き自体もかなり少なく、各駅停車のパスを繰り返すだけだった。

 そうこうしているうちに、ディナモ・キエフに押し込まれる時間も増えた。ホームチームは幅を使った攻めを展開し、ユベントスを深い位置へ追いやっている。事実、前半わずか3本だったシュート数は後半だけで8本にも増えていた。

 それでもユベントス守備陣は耐えきると、84分に勝負を決定づける追加点を奪取。右サイドのクアドラードが美しいクロスを上げると、これをモラタが頭で押し込んでいる。

 試合はこのまま0-2で終了。ピルロ監督にとっては指揮官としてのCL初勝利となった。

「前半いくつかのチャンスで決められなかったが、後半の早いうちに得点ができて試合を上手く管理することができた」と、ピルロ監督は試合を振り返っている。

脅威となったユベントス左翼

フェデリコ・キエーザ
【写真:Getty Images】

 この日のユベントスの勝因は複数ある。2得点をマークしたモラタのストライカーとしての質の高さ、レオナルド・ボヌッチを中心とした強固な守備、デミラル、ディバラ、アルトゥールが後半途中に出てくる選手層の厚さ。ユベントスというチームの魅力が揃っていた。

 その中でピックアップしたい人物は、今夏フィオレンティーナから加入し、ディナモ・キエフ戦で左サイドを担ったフェデリコ・キエーザだ。彼の働きぶりはユベントスが勝利を掴むうえで欠かせなかった。

 先述した通り、前半はディナモ・キエフの守備もかなり光っていた。その中でも唯一ユベントスの怖さが出ていたのはカウンターだ。縦への推進力のあるクルゼフスキーに周りを活かすよりも周りに活かされる方が得意なモラタ、そしてスピード自慢のキエーザが揃うユベントスの前線は、人数をかけずとも十分に崩し切るだけの力を持っていた。

 そこで最も存在感を放っていたのがキエーザである。右サイドはクルゼフスキーが内側でプレーし、その空けたスペースにクアドラードが飛び込んできていたが、左サイドはSBのダニーロが上がってこない。そのため、キエーザはほぼ単独での打開を求められた。

 その難易度の高いミッションを、キエーザはやってのけた。足元の柔らかさという部分では他のドリブラーに劣るが、スピードとフィジカルコンタクトの強さでこじ開ける能力に関してはピカイチ。二人で囲んでも、お構いなしにゴリゴリと仕掛けていく姿勢は、ディナモ・キエフ守備陣にじわじわとダメージを与えていた。

 右利きの選手が左サイドにいる場合、守備者は内側を警戒する。しかし、キエーザの場合は中にも縦に仕掛けても同じ強度でプレーできる。対峙する選手からすると、当然対応は難しくなる。

 先制点の場面は、キエーザの仕掛けがキッカケとなっている。ペナルティーエリア内に侵入しようと運び右足でクロスを上げるとみせかけ深い切り返し。この時対峙したヴィクトル・ツィガンコフはキエーザの利き足である右足を警戒したため足を出したが、それをかわされた。縦に抜け出した背番号22は最終的にクロスへ持ち込んでいる。

 ユベントスの左サイドと言えば、クリスティアーノ・ロナウドがいる。得点力という部分に絞れば、キエーザは背番号7にまだまだ及ばない。しかし、個人での突破力に関しては決して劣っておらず、むしろ上回っているとも言える。それだけの破壊力を、ディナモ・キエフ戦で示した。

 冒頭で記した通り、ユベントスはチームとしての最適解を探っている。そんな状況の中、勝ち星への希望となるのは個の能力だ。そういった意味でも、キエーザにかかる期待は大きい。いつまでもそこに頼るわけにはいかないが、しばらくキエーザはチームで目立つ存在となるかもしれない。

(文:小澤祐作)

【了】

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