大谷、マーくん、ダルビッシュには圧倒されるが…
社長就任以来、大倉はことあるごとに、このような主張を続けている。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というのは、いわきFCというクラブを理解する上で、極めて重要なキャッチフレーズ。とはいえ、単に「世界と戦うため」だけに、フィジカルを重視しているわけではない。実は興行面の効果も、大倉は見込んでいる。
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「たとえばプロ野球選手。大谷翔平とかマーくん(田中将大)とかダルビッシュ(有)とか、190センチくらい身長があって胸板も分厚いから、近くで見たら圧倒されますよね。逆にJリーガーって、私服に着替えたら『何だ、俺らと同じじゃん』みたいな感じですよ。興行という観点でも、日本人選手はフィジカルスタンダードを変えていく必要があると思っています」
こうした大倉の発想に反発、あるいは嫌悪感を覚える向きも、おそらく一定数いることだろう。では、当の選手たちは、クラブの方針をどう考えているのだろうか。ここで、ふたりの選手の証言を紹介したい。
フィジカルを徹底強化。選手の声は?
平岡将豪は95年生まれの22歳。JFAアカデミー福島の3期生で、14年にAC長野パルセイロに入団。その後、アスルクラロ沼津(15年)、いわきFC(16年)への期限付き移籍を経て、今季から完全移籍した。
「カテゴリーは下ですけど、自分はもともと線が細いし、まだ若いのでいい経験になるかなと。こっちはスパイクやトレーニングウエア、それにサプリメントも全部支給されるのが有り難いですね。体重も骨格筋量も増えて、最近は何も考えずに歩いていると、よくぶつかるんです(笑)。こっちは、アカデミーとは真逆ですね。中学の頃は、バルサの試合ばっかり見せられて、いつも考えながらサッカーをやっていました。こっちは頭よりも身体。ボールを使った練習よりも、ダンベルを持ち上げている時間のほうが長いです」
榎本滉大は94年生まれの23歳。仙台大学時代、ベガルタ仙台の特別指定選手となり、今季はツエーゲン金沢に入団。この夏、いわきFCに期限付き移籍している。
「僕もフィジカルの必要性を感じて、こっちでお世話になることにしました。ただ、入団してすぐが『鍛錬期』だったので、キツかったですね。筋トレだけで2時間半くらい。走り込みも半端なくて、吐いている人もいたくらいです。あと最近『肉トレ』と称して、ものすごい量の肉を食べますね。支給されるサプリは4種類、プロテインが3種類。筋肉を回復するもの、睡眠時にタンパク質を補給するもの、いろいろあります。最近は身体も慣れてきて、競り負けなくなったし、着地の時もバランスを崩さなくなりました」
平岡はJFAアカデミー出身、榎本は特別指定選手としてJ1の空気を知っている。いずれも「エリート」と言ってよい存在だ。しかし彼らは今、元いたカテゴリーからうんと下の県リーグでプレーしている。加えて彼らは、トレーニングの合間に『ドームいわきベース』という巨大な物流センターで毎日4時間、立ちっぱなしの仕事に従事しているのだ。
「ここでの経験は、将来きっと役に立つと思います」
そう言い切る平岡と榎本。キャリアのピークを迎えるであろう5年後、彼らはどんな選手になっているのだろうか。
(文:宇都宮徹壱)
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