『何だ、俺らと同じじゃん』ではつまらない。「日本のフィジカルスタンダードを変える」の意味とは?【いわきFCの章・後編】

今やJリーグクラブは全56クラブにまで膨れ上がった。Jクラブがない「土地」のほうが希少価値が高い時代になるとは、いわゆるオリジナル10の時代に誰が予想できただろうか。Jクラブが「ある土地」、もしくは「ない土地」から薫るフットボールの物語を、アンダーカテゴリーに魅入られた著者が描きだす『フットボール風土記』から、いわきFCの章より一部抜粋して発売に先駆けて前後編で公開する。今回は後編。(文:宇都宮徹壱)

2020年11月11日(Wed)10時10分配信

text by 宇都宮徹壱 photo Editors
Tags: , , , , , , , ,

大谷、マーくん、ダルビッシュには圧倒されるが…

日本サッカー界初の商業施設複合型クラブハウス『いわきFCパーク』
【写真:編集部】

 社長就任以来、大倉はことあるごとに、このような主張を続けている。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というのは、いわきFCというクラブを理解する上で、極めて重要なキャッチフレーズ。とはいえ、単に「世界と戦うため」だけに、フィジカルを重視しているわけではない。実は興行面の効果も、大倉は見込んでいる。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


「たとえばプロ野球選手。大谷翔平とかマーくん(田中将大)とかダルビッシュ(有)とか、190センチくらい身長があって胸板も分厚いから、近くで見たら圧倒されますよね。逆にJリーガーって、私服に着替えたら『何だ、俺らと同じじゃん』みたいな感じですよ。興行という観点でも、日本人選手はフィジカルスタンダードを変えていく必要があると思っています」

 こうした大倉の発想に反発、あるいは嫌悪感を覚える向きも、おそらく一定数いることだろう。では、当の選手たちは、クラブの方針をどう考えているのだろうか。ここで、ふたりの選手の証言を紹介したい。

フィジカルを徹底強化。選手の声は?

 平岡将豪は95年生まれの22歳。JFAアカデミー福島の3期生で、14年にAC長野パルセイロに入団。その後、アスルクラロ沼津(15年)、いわきFC(16年)への期限付き移籍を経て、今季から完全移籍した。

「カテゴリーは下ですけど、自分はもともと線が細いし、まだ若いのでいい経験になるかなと。こっちはスパイクやトレーニングウエア、それにサプリメントも全部支給されるのが有り難いですね。体重も骨格筋量も増えて、最近は何も考えずに歩いていると、よくぶつかるんです(笑)。こっちは、アカデミーとは真逆ですね。中学の頃は、バルサの試合ばっかり見せられて、いつも考えながらサッカーをやっていました。こっちは頭よりも身体。ボールを使った練習よりも、ダンベルを持ち上げている時間のほうが長いです」
 榎本滉大は94年生まれの23歳。仙台大学時代、ベガルタ仙台の特別指定選手となり、今季はツエーゲン金沢に入団。この夏、いわきFCに期限付き移籍している。

「僕もフィジカルの必要性を感じて、こっちでお世話になることにしました。ただ、入団してすぐが『鍛錬期』だったので、キツかったですね。筋トレだけで2時間半くらい。走り込みも半端なくて、吐いている人もいたくらいです。あと最近『肉トレ』と称して、ものすごい量の肉を食べますね。支給されるサプリは4種類、プロテインが3種類。筋肉を回復するもの、睡眠時にタンパク質を補給するもの、いろいろあります。最近は身体も慣れてきて、競り負けなくなったし、着地の時もバランスを崩さなくなりました」

 平岡はJFAアカデミー出身、榎本は特別指定選手としてJ1の空気を知っている。いずれも「エリート」と言ってよい存在だ。しかし彼らは今、元いたカテゴリーからうんと下の県リーグでプレーしている。加えて彼らは、トレーニングの合間に『ドームいわきベース』という巨大な物流センターで毎日4時間、立ちっぱなしの仕事に従事しているのだ。

「ここでの経験は、将来きっと役に立つと思います」

 そう言い切る平岡と榎本。キャリアのピークを迎えるであろう5年後、彼らはどんな選手になっているのだろうか。

(文:宇都宮徹壱)

20201111_kanzen_kanzen

『フットボール風土記』


定価:本体¥1700+税 宇都宮徹壱著

≪書籍概要≫
2017年サッカー本大賞受賞作『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ目指さないクラブ』から早3年……
今やJリーグクラブは全56クラブにまで膨れ上がった。Jクラブがない「土地」のほうが希少価値が高い時代になるとは、いわゆるオリジナル10の時代に誰が予想できただろうか。
一方で、Jクラブのある「土地」からあえてJを目指すクラブも、それこそ雨後の筍のように出現し続けている。
Jクラブが「ある土地」、もしくは「ない土地」から薫るフットボールの物語を、アンダーカテゴリーに魅入られた著者が「郷土のクラブ」を照射した。

詳細はこちらから

【了】

新着記事

↑top