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セリエA 3年前

冨安健洋が左CBで重宝される理由とは? 日本代表の重鎮たちも認める才能、課題と向き合う努力の化身【分析コラム】

セリエA第8節が現地22日に行われ、冨安健洋が先発出場したボローニャは2-1でサンプドリアを下した。ただ、ボローニャの連続失点記録は「41試合」に伸びてしまった。その中でプレーしている冨安にとっては、強みと課題がはっきりと見える90分間となった。日本代表でも周りの選手たちが驚くほどの成長を見せる21歳の現在地に迫る。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「あり得ちゃいけない」41試合連続失点

冨安健洋
【写真:Getty Images】

 ボローニャの連続「失点」記録が「41試合」に伸びた。

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 1年以上にわたって毎試合必ず失点しているので、勝利するには常に2得点以上が必要という特殊な状況だ。ボローニャでプレーする日本代表DF冨安健洋も、11月の代表ウィーク中に「普通じゃあり得ちゃいけない記録の中でやっている」というクラブでの現状に強い危機感を抱いていた。

 にもかかわらず、また失点した。ただ、今回はそれでも勝った。現地22日にセリエA第8節が行われ、ボローニャはサンプドリアに2-1で逆転勝利を収めた。

 前半開始早々の7分にコーナーキックから失点した時は、「またか…」という失望感が漂った。しかし、前半終了間際に相手のオウンゴールで追いつくと、後半が始まってすぐの52分にリカルド・オルソリーニが逆転弾を突き刺した。

 相変わらずセットプレーのもろさは露呈したものの、後半はサンプドリアの反撃をしっかりと抑えて最少失点。連続失点記録は41試合になってしまったが、ボローニャは貴重な今季3勝目を手にした。

 この試合にも左センターバックとして先発出場した冨安にとっては、成長を感じさせる部分と課題となる部分の両方が出た90分間となった。

 まず失点につながったコーナーキックの場面で、スコアラーになるモーテン・トルスビーにマークを振り切られてしまったのが冨安だった。サンプドリアのDF吉田麻也がマーカーとともにスクリーンとなったところに飛び込んだトルスビーに、完全フリーでヘディングできる状態まで置き去りにされてしまった。

「特にペナルティエリア内での守備というのは、僕個人としても課題に感じていますし、(シニシャ・)ミハイロヴィッチ監督かも、個人的にかなり指示を受けます。マークのつき方、腕の使い方だとかはアドバイスとしてもらっていますね」

 10月の日本代表活動中に冨安は自らの課題についてこのように語っていた。ペナルティエリア内での振る舞いには経験も重要になるので、短期間での改善は難しい。だが、今回のトルスビーとの駆け引きのような失敗も糧にして、成長のきっかけを掴んでもらいたい。

ボローニャが抱える問題点

 この1ヶ月は「正直、ボローニャのことで精一杯でした。成績も良くないですし、なかなか難しい状況でプレーしている感覚もありますし…」と、なかなか“失点地獄”から抜け出せない責任を感じながら、冨安は必死に前を向いてチームの勝利のために何ができるか模索する日々だ。

 それは守備技術の向上だけではない。サンプドリア戦では、攻撃面での貢献や左右を問わない柔軟性なども発揮していた。

 ボローニャはボールを奪ったあとのビルドアップにも課題を抱えている。中盤にパサータイプの選手が少なく、セントラルMFを経由して丁寧にパスを展開しながら攻撃を組み立てるのが非常に苦手なのだ。

 例えば最終ラインで冨安がボールを持った時、パスをもらいに動くのは4-3-3のアンカーに入るイェルディ・スハウテンくらい。インサイドハーフのマティアス・スバンベリやロベルト・ソリアーノはボールを持ってから勝負するタイプの選手なので、中盤の底でスハウテンが孤立することも珍しくない。

 そういう時にサイドに張り出したり、中盤に降りてきたり、なんとかボールを前線に運ぼうと気を利かせてくれるのは、最前線にいる38歳の元アルゼンチン代表FWロドリゴ・パラシオだ。

 もしパラシオがいなければ、ボローニャはもっと低迷していただろう。90分間尽きない運動量でピッチを幅広く動き回り、中盤やディフェンスラインからパスを引き出して攻撃の起点となる38歳の高い能力におんぶに抱っこなところが多分にある。

 冨安も前線のパラシオが見えたら、グラウンダーの速い縦パスをつけたり、ロングボールで相手ディフェンスラインの裏に落としたりと、積極的に活用している。

 ただ、全体的にスムーズさはないので、相手がプレッシャーにこなければ、冨安はボールを持ったまま中盤まで運んで上がっていくことも多い。「僕の感覚的にはドリブルをしたくてやっているわけではなくて、仕方なくやらないといけない感覚ではいました」と語る通りだ。

左センターバックとして重宝される理由

冨安健洋
【写真:Getty Images】

 とはいえセンターバックがボールを持って「運ぶドリブル」で前に出ていけるのは、現代サッカーにおいて非常に重要な技術の1つ。これが自分のプレーの選択肢にあって、シンプルに中盤の選手を活用する場面や、自分で運びながら前線の動き出しに合わせてロングパスを供給する場面を使い分けられるところに、冨安のすごさがある。

 もう1つは、これを利き足と逆の左サイドで実践している点だ。冨安は両足を遜色なく使いこなし、試合の流れの中で相方のダニーロと左右を入れ替えても全く問題なくプレーできてしまう。右利きで左センターバックを務めるには、左足でボールを扱って、左足で長短のパスをしっかり蹴れなければならない。21歳にしてこのレベルに達しているのは驚異的だ。

「左センターバックは左利きである方が有利だと改めて感じています。僕も左でやる時は意識してボールを左足で持つようにしていますね。その方が僕的には選択肢が広がるので、左側でプレーする時は左足でプレーして、右側でやる時は右足でプレーして、使い分けるようにはしています」

 例えば自陣深くでボールを受けた際、左センターバックの冨安は左足でボールを左サイドのタッチライン際まで持ち出してからも正確に次の攻撃につなげるプレーを選べる。左足のロングキックで前線の味方の頭に合わせたり、相手最終ラインの裏に落としたり、利き足と逆でも簡単にクリアせず「次の次」まで考えたプレーをする。

 プレッシャーがなく、もっと落ち着いてボールを持てる状況なら、体を開いて右足でのサイドチェンジのロングパスも選択肢として持っている。「ロングボールの質はもっと高めていきたい」と21歳で伸び盛りのセンターバックは自らの成長に意欲的だ。

 吉田麻也が「21歳という年齢を考えれば、非常にポテンシャルが高くて、身体的なものにも恵まれていますし、考え方もしっかりしていると思います。仮に僕が監督でも、どの監督でも好んで使うタイプの選手だと思います」と語るのも頷ける。

長友佑都も目を見張る成長ぶり

 代表ウィーク明けの初戦で冨安擁するボローニャと対戦したサンプドリアの吉田は、相変わらずの安定感だった。失点場面は2つあったが、どちらにも直接関与はしていない。ボローニャは基本的に地上戦主体のチームなので空中戦は全くなく、ゴール前で数的不利や1対1になって晒されることも皆無。サイドバックが釣り出された背後のスペースのカバーリングは常に的確で、ディフェンスリーダーとして周りに落ち着きを与えるリーダーシップも光った。

 日本代表のセンターバックが2人もセリエAで主力としてプレーしていることは、チーム全体の守備力向上に大きな影響を与えることだろう。イタリアで豊富な経験を誇る長友佑都も11月の日本代表活動期間中の取材の中で「冨安を見ていて、毎試合成長しているな、安定感が出ているなと感じますね」と、次世代のディフェンスリーダーの成長ぶりに目を見張っていた。

「セリエAに出ることによって、あの厳しい環境で、それはサッカーのレベルだけではなく、外部からくるプレッシャーとか、いろいろな厳しさを彼自身が苦しみながらも乗り越えている。そういう芯の強さと言いますか、風格があの若さで出てきているなと感じます」

「本人はまだまだと言っていましたけど、自分自身の課題や修正能力も優れているので、『俺はセリエAでプレーしているんだ』と天狗にも自信過剰にもならないですし、常に謙虚で、今の自分自身の足もとを見てプレーしている。そこはあの若さにして本当にすごいと思いますね」

 約2年間コンビを組んで間近で成長を目の当たりにしてきた日本代表キャプテンの吉田も「期待をいい力に変えられるようにしてもらいたいですね。もちろんこれから次のステップに行くと思いますけど、そこでいかに結果を出せるかじゃないかなと。今の段階では非常に可能性を感じますし、僕から見てもすごくいい選手だと思います」と、冨安の才能に惜しみない賛辞を送る。

 ビッグクラブも注目する存在になった21歳は、地に足をつけて一歩ずつ前に進む。だが、そのスピードがハンパない。試合に出続けながら次々に課題をクリアして、どんどんスケールの大きなDFに成長していっている。

 41試合連続失点という不名誉な記録はチーム全体で打ち破るものだ。次こそは無失点を期待したい。そして、「冨安のおかげで失点しなかった」と言われるようになれば、いよいよ1人のDFとしてワールドクラスの扉を叩くことになるだろう。

(文:舩木渉)

【了】

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