アーセナルが生まれ変わった。00年代生まれトリオが躍動、チェルシー撃破で見えた復調への道標【分析コラム】

プレミアリーグ第15節が現地26日に行われ、アーセナルはチェルシーとの「ビッグ・ロンドン・ダービー」を3-1で制した。降格圏すれすれの大不振に陥っていたアーセナルが見事なパフォーマンスで勝利を手にできたのは、チャンスを与えられた若手の躍動あってこそだ。明るい未来をつかむには起用法の大転換も必要かもしれない。(文:舩木渉)

2020年12月27日(Sun)12時39分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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主力に離脱者が相次いだダービー

アーセナル
【写真:Getty Images】

 英国ではおなじみクリスマス翌日の「ボクシング・デー(12月26日)」に行われた一戦で、アーセナルは「勝ち点3」というプレゼントの箱を開けて生まれ変わった。

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 チェルシーを相手にしたビッグ・ロンドン・ダービーは3-1の勝利。直近の国内における公式戦8試合で2分6敗と大いに苦しんでいたアーセナルが、これまでとは見違えるようなパフォーマンスでライバルを圧倒した。

 ウィリアンとダビド・ルイスが体調不良、ガブリエウ・マガリャンイスは新型コロナウイルス陽性者との濃厚接触が疑われチェルシー戦を欠場した。彼らの不在によって、ミケル・アルテタ監督は思い切った選手起用を決断する。

 ブラジル人センターバック2人が不在のディフェンスラインにはパブロ・マリを、ウィリアンのいない2列目にはガブリエウ・マルティネッリとエミール・スミス=ロウという若手たちを抜てきした。

「エミールは練習でとても良かったし、ELでもプレーしてきて、非常にシャープに見える。他のMFたちとは違ったクオリティを見せてくれるはずだ。ガブリエウにも同じことが言える。彼は負傷離脱していたが、いまはいい状態だ。我々には彼らの力が必要だ」

 試合直前のインタビューのなかで、アルテタ監督は大一番で先発起用する若手たちに期待を寄せた。

 そして彼らは指揮官の期待をはるかに超えるパフォーマンスで起用に応えて見せた。

 特に目立ったのは、マルティネッリ、スミス=ロウ、ブカヨ・サカの3人が組んだ2列目の躍動だ。2000年代生まれのトリオがアーセナルを生まれ変わらせた。

 4-2-3-1のトップ下に入ったスミス=ロウがチェルシーのアンカーを担うエンゴロ・カンテをけん制しつつ、最前線のアレクサンドル・ラカゼットも含めた攻撃陣4人で相手ボール保持者に対し積極的にプレッシャーをかけていく。

 ボールを奪って前を向いた選手がいれば、どんどん追い越すようにゴール方向へ走り、攻撃のスピードを上げる。絶不調だったこれまでのアーセナルに欠けていたアグレッシブな姿勢を、戦術面でも精神面でも体現するプレーぶりだった。

ジャカも躍動。冴え渡る左足

 彼らに触発されるように周りの選手たちも気持ちのこもったプレーでチェルシーを翻弄する。3試合の出場停止処分が明けたグラニト・ジャカは特に気合いが入っている様子で、長短織り交ぜたゲームメイクのみならず、得点に直結するプレーでも違いを生み出した。

 アーセナルが先制点につながるPKを獲得したのは33分のことだ。ジャカが左サイドにロングボールを送ると、それを受けたキーラン・ティアニーがペナルティエリア内深くまで侵入し、チェルシーのDFリース・ジェームズに倒された。

 このPKをラカゼットが決め、リーグ戦では8試合ぶりの先制に成功。さらに44分には、ジャカがペナルティエリア手前から直接フリーキックを突き刺して2点目。絶不調だったアーセナルが、チェルシー相手に2点のリードを手にした。

 英『スカイ・スポーツ』によれば、前半にスミス=ロウが記録した走行距離5.47kmは両チーム最長。さらにマルティネッリのスプリント12回も両チーム最多の数字だった。彼らの走りがチーム全体の活性化につながっていたのは間違いない。

 後半が始まってもアーセナルは主導権を渡さず、56分にとどめの一撃をお見舞いした。中盤から細かくつないで右に開いたスミス=ロウに展開し、その内側を駆け上がってきたサカへ渡す。そして背番号7の19歳は右足でクロスを上げた。

 一見するとクロスかシュートか判別しにくかった絶妙なボールは、相手GKエドゥアール・メンディの動きも止めてしまった。ふわりと浮いてゴール左に収まり、アーセナルに3点目。チェルシーにとっては痛すぎる失点となった。

走りまくった若者たち

ガブリエウ・マルティネッリ
【写真:Getty Images】

 終盤はチェルシーに押し込まれる時間帯もできたものの、反撃は85分のタミー・エイブラハムの1点に抑えた。後半アディショナルタイムに与えたPKはGKベルント・レノが完璧なセーブで阻止し、2失点目の危機を回避。アルテタ監督も拳を握りしめる会心の勝利を手にした。

「今日は大人の選手たちと経験豊富な選手たち、そして若い才能がよく混ざり合っていたと思う。彼ら(若手たち)はここ数週間、先発出場に値するものを見せてくれていた。(起用することで)間違いなくいいリアクションを見せてくれることに疑いを抱いていなかったし、非常に素晴らしいプレーだったと思う」

 アルテタ監督は試合後の記者会見で起用に応えた若手選手たちの活躍ぶりを称えた。

 71分までのプレーだったマルティネッリは全選手中最多のスプリント「20回」を記録した。右サイド起用で1ゴールを奪ったサカは、フル出場で11.49kmを走破。これはピッチに立った全選手のなかで最も長い走行距離だった。

 ヨーロッパリーグ(EL)でしかアピールの場を与えられず、プレミアリーグは今季初出場だったスミス=ロウも61分までのプレーで1アシスト。攻撃では幅広く動いてボールに絡みつつ味方の動くスペースを作り出し、守備ではカンテ封じを完璧にこなした。

 マルティネッリと左サイドで好連係を披露した左サイドバックのキーラン・ティアニーは、「これは始まりだ。僕たちには今日のような勝利が必要だった。ファンのみんなにもポジティブな何かを見せる必要があった。シーズン開幕からいくつも悪い結果を重ねてきてしまっていたからね」と久々の快勝を喜んだ。

 そして「ここにいる全ての若手選手たちは出番を得るためにずっとハングリーだった。彼らはプレーするための舞台を得た。そして先発出場し、素晴らしかった」と2000年代生まれのヤングガンズを絶賛した。

00年代生まれトリオの可能性

ミケル・アルテタ
【写真:Getty Images】

 ウィリアンらの離脱が不幸中の幸いだったとも言えようか。若者たちの溌剌としたプレーの数々からは、新しいアーセナルへと生まれ変わる可能性が感じられた。両サイドに逆足ウイングを配置し、中央の10番ポジションを機動力に優れ献身的なスミス=ロウに任せる2列目のユニットは今後も継続的に採用すべき潜在能力を秘めている。

 常にアグレッシブな姿勢で前線から連動したプレッシャーをかけることができるようになれば、アーセナルは本来あるべき姿に戻ることができるだろう。今季、不振に陥ったのは受け身な姿勢が目立ったことが一因でもあった。

「我々にとって本当に重要な勝利だった。以前にも言ったように、いくつかの試合におけるパフォーマンスは勝利するには不十分で、ずっと明らかにコントロールするのが難しい状況だった。我々には勝ち点が必要で、ご覧の通り、今日はリーグでも最高のチーム相手に説得力のある形で勝利を成し遂げた。ベストを尽くした時には勝利できることを示していると思う」

 アルテタ監督は会心の勝利を誇る。チェルシーに勝利したことで、解任も取り沙汰されるようになっていた指揮官自身もホッとしているはずだ。アーセナルは中2日で挑むブライトン戦が年内最後の試合で、来年1月2日にウェストブロムウィッチ・アルビオンとの対戦で現体制のまま新年初戦を迎えることが濃厚になった。

 とはいえ降格圏まで6ポイントと厳しい状況がすぐに変わるわけではない。ならば後半戦に向けて流れを大きく変えるためにも、何か起こしてやろうと燃える若手選手に未来を託すのが最善の道か。2000年代生まれの彼らが披露した躍動感と貪欲さは、復調への希望を抱かせるのに十分なものだった。

(文:舩木渉)

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≪書籍概要≫
なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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