「酷すぎる仕打ち、狂気の沙汰」なのか? トッテナム対フルアムの急開催…プレミアリーグに今こそ必要なもの【分析コラム】

現地13日にプレミアリーグ第16節の延期されていた試合が開催され、トッテナムとフルアムが1-1で引き分けた。もともと昨年末に組まれていたカードだったが、今月11日になって急きょ「2日後の開催」が決まった。今後もこうした突然の日程変更がありうるなかで、イングランドでは終わりのない議論が繰り広げられている。(文:舩木渉)

2021年01月14日(Thu)14時33分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
Tags: , , , , , , , , , , ,

2日前に突如開催決定

20210114_harrykane_getty
【写真:Getty Images】

 新型コロナウイルスが猛烈な勢いで再拡大しているイングランドでは、プロサッカー界もドタバタが続き、綱渡り状態で公式戦を続けていくことになりそうだ。

【今シーズンのプレミアリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 現地13日にプレミアリーグ第16節の延期されていた試合が開催され、フルアムはトッテナムと1-1で引き分けた。

 本来ならトッテナム対アストン・ヴィラが行われる予定だったが、後者は現在クラブ内で新型コロナウイルスが蔓延している。そのため延期が決まり、11日に急きょトッテナム対フルアムに差し替えられることが決まった。次節以降の日程にも多少の影響が出ている。

 もともとこのカードは昨年末の12月30日に開催されているはずだったもの。ところが当時はフルアムで多数の選手やスタッフに新型コロナウイルス陽性者が確認されていて、試合開始3時間前にドタバタで延期が発表された背景があった。

 ともに先週末はFAカップを戦っていたため、突然「やります」と宣言された試合に向けて準備する時間はほとんど残されておらず。トッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督も「相手には『48時間も』準備する時間があるんだ。我々がフルアム戦をやらないと知らされたのは『2時間前』だったのに…」と皮肉るような状況だった。

 ホワイト・ハート・レーンで始まった試合は、お互いに多くのシュートシーンが生まれる大味な展開になった。

 だが、終わってみれば1-1。フルアムを率いるパーカー監督は「このチームには目標と2日間のハードワークがあった。最終的には満足のいく結果が得られたと思う」と格上相手にドローを演じた選手たちを称えた。

日程入れ替えは「前向きな解決策」

 そのうえで「私は誰に対しても謝罪の義務を負うことはない。クラブにも謝罪しなければならない理由はない」とモウリーニョ監督の言い分にはキッパリと反論している。「ピッチ上には新型コロナウイルス感染による離脱からチームに戻って1日しか練習していない選手が2人いた」とも述べる。

「問題は準備する時間が2日しかなかったことではない。私だってそのことは理解している。この試合は16日前に予定されていたが、あれ以来スタッフも含めてクラブ内に10人の新型コロナウイルス陽性者が出ていたのに、月曜日(11日)の朝9時30分に『試合をやれ』と言われたことが問題なんだ」

「人々は我々が直面していた苦境を理解する必要がある。我々は埋め合わせができていなかった。我々はずっとオープンであり続け、外部の人々の安全も憂慮していたのに…」

 こうしたパーカー監督の主張はもっともだ。選手たちは隔離状態から復帰しても、すぐ試合に臨めるコンディションを回復するのは難しい。もともとなかったはずの日程に試合が突如組み込まれ、準備時間がさらに削られれば、対戦相手との不公平も生まれてしまう。

 一方で、モウリーニョ監督は「この状況下で最も悪い影響が出るのは試合が延期されることだ。日程の順番を入れ替えることで、影響は最小限に抑えられるのではないかと思う」と、プレミアリーグ側の判断に理解を示していた。

 運営サイドとしては何があってもリーグ戦の全日程を、できるだけ予定通りに終わらせることが使命になる。

 現実的なことを言うならば、放映権料収入を確保するためでもある。新型コロナウイルスのパンデミックによって無観客試合が続き、入場料収入はほぼゼロになってしまう今季、もし放映権料から得られる収入まで失ってしまえば各クラブは存続すら危ぶまれる状態に陥ってしまう。

 世界中の放送局や配信会社から振り込まれる放映権料は、大会を成立させて無事に終わらせることができなければ、一部あるいは全部が失われてしまうかもしれない。新型コロナウイルスの市中における感染再拡大の度合いによってはリーグそのものが中断に追い込まれる恐れもある現状も考えると、とにかくできる試合を開催可能なタイミングでどんどん消化していくことが重要なのだ。

 モウリーニョ監督も「(柔軟に日程を入れ替えていくのは)プレミアリーグをしっかりと終わらせるために、誰もが前向きな解決策として受け入れなければならないと思う」と語る。今後も突然の日程変更が起きる可能性は十分にあり、その都度こうした水掛け論が巻き起こるだろう。

思い出そう、他者への優しさ

スコット・パーカー
【写真:Getty Images】

 パーカー監督はトッテナムとの対戦前にも「今回の決定を下した人間は、選手たちのことを一切理解していない。酷すぎる仕打ち、狂気の沙汰だ」と憤慨していた。「(トッテナムとの)試合開催が決まったのは48時間前だったが、モウリーニョはもともと試合(延期されたアストン・ヴィラ戦)があったことを認識したうえで我々との対戦を受け入れた」と痛烈な批判も口にした。

 ただ試合の延期や、急な代替日程の決定のみならず、こうしたやや不公平なスケジューリングも起こりうる。トップチームの選手・スタッフが全員隔離状態に置かれたことで、U-23チームやU-19チームから若手をかき集めてリバプールとのFAカップに臨んだアストン・ヴィラのような事例も出てくるかもしれない。

 どちらかが清濁の「濁」の方を飲み込まなければならないこともある。「人々は我々が直面していた苦境を理解する必要がある」と述べていたパーカー監督は、緊急事態が続くなかで他者の「苦しみ」を真に思いやることができていたのだろうか。

 目に見えない敵と社会全体が懸命に戦う今、新型コロナウイルスがどこの誰にとっても「対岸の火事」でないことを実感しているはずではあるが。やはり他者への理解なくして、自分たちに都合のいい理解を求めるべきではない。

 Jリーグも様々なイレギュラーに見舞われた2020シーズンの全公式戦を、年明け4日にようやく全て消化した。ACLの度重なる日程変更にともなう対戦カードの入れ替えや、柏レイソルで新型コロナウイルス感染のクラスターが発生して急きょYBCルヴァンカップ決勝が延期になったこともあった。

 もちろん試合が開始直前に延期になったこともあった。そうしたアクシデントが起こる度に、関係する全てのクラブや人間たちが不公平さも飲み込み、できるだけ安全に試合を開催し続けることに集中したからこそ、全公式戦を終えられた。

 プレミアリーグは一体どうなっていくだろうか。急な日程変更のみならず、ロックダウン中にパーティーを開いて大問題を引き起こす選手だっているかもしれない(実際、過去にはいたのだ)。

 イングランドのトップレベルでしのぎを削る選手や監督たちはメディアの使い方もうまいから、今後も新たなトピックが生まれるたびに盛んなポジショントークで舌戦を繰り広げてくれるに違いない。リーグ戦そのものが中断に追い込まれることになったら、そんな危機的状況に文句をつける人間も出てきそうだ。

 でも、コロナ禍においてサッカー界にも一般社会にも絶対的に必要なのは「他者への思いやりと理解」「優しさ」「寛容さ」「前向きであること」である。ストレスが溜まりがちな日々が続くなかで、サッカーは人々が不安ばかり募る日常を忘れられる貴重な娯楽の1つ。どうか不始末によって止まることなく、社会の模範として前に進み続けてもらいたい。

(文:舩木渉)

【フットボール批評がプレミアリーグを大特集。BIG6一辺倒はもう古い。エバートン、アストン・ヴィラ、レスター…。謀略者たちの頭脳を知るには↓↓↓をクリック】


30号_表紙_fix

『フットボール批評issue30』


定価:本体1500円+税
プレミアリーグ謀略者たちの兵法

≪書籍概要≫
監督は謀略者でなければならない。それが世界最高峰の舞台であるプレミアリーグであればなおのことだ。さらに中堅以下のクラブを指揮している場合は、人を欺く行為こそ生存競争を勝ち抜くために必要な技量となる。もちろん、ピッチ上における欺瞞は褒められるべき行為で、それこそ一端の兵法と言い換えることができる。
BIG6という強大な巨人に対して、持たざる者たちは日々、牙を研いでいる。ある監督は「戦略」的思考に則った「戦術」的行動を取り、ある監督はゾーン主流の時代にあえてマンツーマンを取り入れ、ある監督は相手によってカメレオンのように体色を変え、ある監督はRB哲学を実装し、一泡吹かすことだけに英知を注ぐ。「プレミアの魔境化」を促進する異能たちの頭脳に分け入るとしよう。



詳細はこちらから


【了】

新着記事

↑top