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岡崎慎司の起用法はどう変わる? 最下位ウエスカ、パチェタ新監督の再建プランを読む【分析コラム】

ラ・リーガ第20節が現地23日に行われ、最下位ウエスカはビジャレアルとスコアレスドローを演じ、貴重な勝ち点1を獲得した。ウエスカの日本代表FW岡崎慎司はパチェタ監督就任後初先発。前体制から様々な変化が見られるなか、1部残留を果たすためにチームはどう変わっていこうとしているのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

パチェタ新体制初の勝ち点1

岡崎慎司
【写真:Getty Images】

 ラ・リーガで最下位に沈むウエスカは、いまだ1勝しか挙げられていない。

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 何とか1部残留を果たすため今月11日のベティス戦後にミチェル監督を更迭し、パチェタ新監督を招へいした。

 新体制初戦となった現地19日のヘタフェ戦は0-1の敗戦。同23日に迎えたラ・リーガ第20節のビジャレアル戦が2戦目となった。結果は0-0のスコアレスドローだったが、収穫の多い一戦だったのではないだろうか。

 パチェタ監督は就任初戦からシステム変更に踏み切っている。これまでの4-3-3から5バック気味の3-4-3に変え、戦い方も現実路線に大きく舵を切った。ミチェル監督の理想を追いかけるポゼッション指向のスタイルを捨て、手堅く守り速攻でゴールを狙うシンプルな戦術を導入している。

 MFペドロ・モスケラやMFフアン・カルロス、FWサンドロ・ラミレスが負傷、GKアンドレス・フェルナンデスとDFパブロ・インスーアは新型コロナウイルスの陽性反応が出て離脱している。

 これだけ起用できない主力級の選手が多いなかでも、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得を狙う強豪ビジャレアルと引き分けられた。新たな戦い方はウエスカにポジティブなムードを作り出しつつある。

 パチェタ監督も「チームは非常にいい道を進んでおり、多くの緑の芽を見ることができた」と上位相手のスコアレスドローに手応えを語った。主に守備面の立て直しには一定の目処が立ったと見ているようだ。自陣に引いて5人でディフェンスラインを形成する際は、相手のアタッカーが入り込むスペースを容易には与えず、チャレンジ&カバーにも安心感があった。

 新体制の選手起用で特徴的なのはシステムだけではない。3バックの左に、本職はサイドバックのガストン・シルバが入り、ビジャレアル戦ではイドリッサ・ドゥンビアが今季リーグ戦初先発。そしてパチェタ監督にとってはエルチェ時代の教え子でもあるダニ・エスクリーチェが、冬の放出候補から一転して2戦連続で先発起用されている。

 昨夏加入のガストン・シルバはミチェル体制ではほとんど出番を与えられなかった。だが、ヘタフェ戦で11試合ぶりにリーグ戦でチャンスを与えられると、ビジャレアル戦でも左センターバックでの起用が続いた。

 彼をはじめドゥンビアやエスクリーチェといった、前体制で活躍しきれていなかった人材を積極的に試しているのはベストな選手構成や配置を模索している最中ということだろう。岡崎慎司もパチェタ監督指揮下では初めて先発のチャンスを与えられた。

存在感を発揮した今季初先発のMF

 一方、ビジャレアルもウエスカ相手に新システムを試してきた。これまでの4バックではなく3-4-3を使ってきたため、ウエスカとは選手配置が噛み合う形に。そのためか特に前半はお互いにチャンスが少なく、シュート3本ずつという拮抗した展開になった。

 こう着状態を打開すべく先に動いたのはウエスカのパチェタ監督だった。57分、岡崎、エスクリーチェ、ハビ・オンティベロスの前線3トップを全員ベンチに下げ、ラファ・ミル、セルヒオ・ゴメス、ミケル・リコを投入。システムも3-4-3から3-5-2へと変更した。

 チーム全体の機能性という意味では1トップ+2シャドーを前線に配置する3-4-3よりも、中盤の選手それぞれの役割が明確になる3-5-2の方に今後への可能性を感じた。少なくともモスケラの代役となる似たタイプのMFがいない以上、彼の離脱中は別の形を模索しなくてはならない。

 スポルティングCPからレンタル中で、ラ・リーガ初先発となったドゥンビアは60分以降に真価を発揮した。中盤アンカーの位置に構えて次々とインターセプトを決め、鋭いタックルで相手のキーマンからボールを奪い、時にはセカンドボールを拾って次の攻撃の起点となるプレーも。ボールハンターらしい強みを存分に披露した。

 セオアネと組んでいた前半は、ポジションを空けがちな相方のカバーを意識せざるを得ず躍動感は薄め。一方、セオアネもドゥンビアと横並びの時間帯は攻撃から守備への切り替えが遅く、度々帰陣が遅れ、ボールばかり追いかけてポジションの維持を疎かにするなど扱いづらさが目についた。

 ところが57分の交代でアンカーにドゥンビア、2列目のインサイドハーフにミケル・リコとセオアネという組み合わせになると変化が生まれる。するとドゥンビアは守備力、ミケル・リコは運動量やカバーリング、セオアネは前線への飛び出しやチャンスメイクなど、それぞれが特徴を活かせるようになった。

 セオアネの立ち位置によっては3-4-3にもなる、ビジャレアル戦後半の3-5-2は今後も継続して採用していくべきなのではないだろうか。

現状のベスト布陣は?

Huesca_2021
ウエスカのパチェタ体制ベスト布陣

 3人のセンターバック、両ウィングバック、中盤のトリオに最適解が見つかりつつあるなか、大きな課題であり続けるのは前線だ。ウエスカは20節消化時点で14点しか奪えておらず、極度の得点力不足に喘いでいる。10引き分けと勝ちきれない試合が多いのも、攻撃面の貧弱さが影響しているだろう。

 ビジャレアル戦後半に起用されたセルヒオ・ゴメスとラファ・ミルも、指揮官を納得させるようなプレーは見せられなかった。前者はボールを持ちすぎて判断が遅くなる傾向があり、後者はボールのないところでの準備不足によってほとんどプレーに関与できなかった。

 一方、シュートこそ放てなかったものの、岡崎は改めて価値の高さを示したと言っていい。常に相手のディフェンスと駆け引きし、どんなタイミングでボールが自分のところに入ってきても勝負できるよう準備している。サイドの選手は顔を上げれば、すぐにペナルティエリア内でボールを呼び込む岡崎の姿を視界に捉えることができるはずだ。

 おそらく今後も5バック気味に重心を低くして守る時間は長くなり、攻撃に出てもチャンスをそれほど多く作れない試合が増えるだろう。決定機が少ない展開で、ワンチャンスをものにできる可能性がより高くなる組み合わせを探すなら、岡崎を軸にしていくべきだ。

 最前線で34歳の日本代表ストライカーが駆け引きし、周りにチャンスメイク型のアタッカーを据える。2トップならラファ・ミルか、スピードとドリブルでの打開力があるオンティベロスを相方にし、2列目からセオアネの飛び出しを促すといったオプションも考えられる。

 負傷などによる離脱者を除き、現時点で起用できる選手のみで組むベスト布陣はこんな感じだろうか。

GK:アルバロ
CB:プリード、シオバス、G・シルバ
右WB:マッフェオ
左WB:ハビ・ガラン
DMF:ドゥンビア
CMF:ミケル・リコ、セオアネ
FW:岡崎、オンティベロス

 パチェタ監督はエルチェを3年で3部から1部に引き上げた実績を持つ指導者で、選手たちを盛り立てて潜在能力を巧みに引き出す。システム変更や戦術の方針転換も、勝利から長く見放されてネガティブになりがちだった選手たちにフレッシュさを感じさせる意味がありそうだ。

 ビジャレアルでつかんだのは、実にリーグ戦5試合ぶりの勝ち点1だけではない。チーム再建と1部残留という目標に向けた手応えは十分にあるはず。新体制になったウエスカと岡崎の巻き返しに期待したい。

(文:舩木渉)

【了】

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