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マンCの“新たなラーム”がボルシアMGを破壊。ペップの魔改造で超進化、ジョアン・カンセロが止まらない【CL分析コラム】

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦1stレグが現地24日に行われ、マンチェスター・シティがボルシアMGを2-0で下した。快勝劇の主役は左サイドバックのジョアン・カンセロだ。ペップ・グアルディオラ監督から特殊な役割を与えられた26歳はチームの絶好調を象徴する存在となっている。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

左ワイドゲームメイカー?

ジョアン・カンセロ
【写真:Getty Images】

 試合を終えてロッカールームに戻ったボルシアMGの選手たちは、肉体的にも精神的にも疲労困憊だったのではないだろうか。

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 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦1stレグが現地24日に行われ、ボルシアMGはマンチェスター・シティに0-2で敗れた。試合内容はスコア以上に大きな開きがあり、終始シティが主導権を握ってクラブ史上初のCL決勝トーナメントに挑んだドイツの雄を翻弄した。

 ボルシアMGを困難に陥れるうえで重要な役割を果たしたのは、シティの左サイドバックに入っていたポルトガル代表DFジョアン・カンセロだ。

 もはや「左サイドバック」と表現することはできないのかもしれない。「左ワイドゲームメイカー」とでも言おうか。とにかく、いわゆるサイドバックの常識を超えたプレーぶりでシティの攻撃を牽引していた。

 英『BTスポーツ』によれば、カンセロはこの試合でタッチ数「118回」、パス成功率「93%」、ロングパス成功率「100%」といった驚異的なスタッツを記録していたという。サイドバックの選手がビルドアップやチャンスメイクの局面でこれだけ存在感を発揮するのは極めて珍しい。

 序盤から独特のポジショニングが冴え渡っていた。最近は右サイドバックに入ることの多かったカンセロだが、ボルシアMG戦では右にカイル・ウォーカーが起用されたこともあって、利き足とは逆の左サイドに配置された。

 すると試合開始直後から、ビルドアップの局面では4-3-3のアンカーに入っていたロドリの横にポジションを取り、ゲームメイクを積極的にサポート。両ウィングまでボールが渡ると、そのままインサイドを駆け上がって、時にはゴール前まで進出する。もちろん守備に切り替わると、本来の左サイドバックの位置に戻る。これをずっと繰り返していた。

似た形から2得点を演出

ジョアン・カンセロ
【写真:Getty Images】

 ボルシアMGは4-3-3を基本布陣にして守っていたが、守備時は4-4-2に近い形にも変化する。だが、プレッシングの形を変化させても、インサイドに入ってくるシティの背番号27を捕まえられない。

 カンセロも本来セントラルMFの選手ではないので、常にパスを受けられる態勢を作れていたかといえばそうではないが、中央にポジションを取っているだけで相手の脅威になっていた。そして、ボールを持てばフリーな状態から正確なパスやドリブルを繰り出す。彼なしでシティの戦い方は機能しなかっただろう。

 ただゲームメイクをサポートするだけではない。非凡な攻撃センスを秘めるポルトガル代表の26歳は、チャンスメイクでも決定的な仕事を果たした。

 29分、中盤でボールを持ったカンセロは左サイドにドリブルで進み、切り返しながら顔を上げる。そして右足でゴール前にふわりとした軌道のクロスを上げると、逆サイドから飛び込んできたベルナルド・シウバが頭で合わせてゴールネットを揺らした。出し手と受け手のタイミングやポジショニングが完璧に合ったピンポイントクロスだった。

 さらに65分の追加点の場面でも、カンセロのクロスが起点となった。左サイドのペナルティエリア角でラヒーム・スターリングからバックパスを受けた背番号27は、コントロールと同時に顔を上げてゴール前を確認すると、即座に右足でクロスを入れる。

 ファーサイドでフリーになっていたベルナルド・シウバは、そのクロスを頭で折り返し、最後は中央に詰めていたガブリエウ・ジェズスが押し込んだ。カンセロのクロスはゴール前の味方が次のプレーやフィニッシュまでの流れを考え、判断する時間を与える意図も込められていたようだった。

「ジョアンは驚異的な選手だ。僕らは同世代で、ベンフィカでも7年間一緒にプレーしてきた。いい関係も築けている。彼は僕のタイミングを知っているし、僕は彼からどれほどいいボールが来るかもわかっている」

 決定的な場面で2度クロスのターゲットとなったベルナルド・シウバは、「ヘディングはあまり得意ではないんだけど…」と前置きしつつ、長年共に戦ってきたカンセロの能力の高さを称賛した。

カンセロの特別な才能

 バレンシアやインテル、そしてユベントスでプレーしていた頃は「攻撃的だけど守備に穴のあるサイドバック」という評価から抜け出せず、突破力やスピードを活かすためにウィング起用が試みられたこともあった。

 ところが、いまやシティに欠かせない選手となりつつある。ユベントスから加入して1年目の昨季は順応に苦しんだが、今季はチーム内MVP級の活躍ぶり。ペップ・グアルディオラ監督によって秘めていた創造性が引き出され、そこにテクニックの確かさが加わって「新たなフィリップ・ラーム」とまで評されるようになった。

 バイエルン・ミュンヘンでグアルディオラ監督から指導を受けたフィリップ・ラームは、左右両サイドをこなせるサイドバックから中盤もこなせる超万能プレーヤーへと進化を遂げた。

 もちろん指揮官もカンセロが中盤でプレーする姿をシティに加入するまで「見たことがなかった」が、「彼がどのように動くか、どのようにコントロールするか、ピッチ内外でチームメイトたちとの関係をどう構築するか」を日々の練習や試合のなかで観察し、現在のようなタスクを与えるように至ったと、英『スカイ・スポーツ』に語った。

「他のディフェンスラインの選手たちは、ワイドでプレーすることはできても、あのポジションは務まらない。ジョアンは中盤でプレーできるスキルを持っている。かつてダニーロにはできた。ファビアン・デルフも素晴らしかった。オレクサンドル・ジンチェンコも同様だ」

 カンセロは特別な才能を持っていて、グアルディオラ監督はそれに気づいた。デルフやジンチェンコはもともと中盤の選手で、後にサイドバックへコンバートされた選手。ダニーロは左右両サイドを遜色なくこなせたが、攻撃スキルに乏しく、中盤に入っても貢献できる範囲は限定的だった。

カンセロ・ロールの本質とは

ペップ・グアルディオラ
【写真:Getty Images】

 一方、加入2年目のポルトガル代表は、溢れんばかりの攻撃性能を装備し、サイドバックとしての経験が豊富なだけでなく、ゴールに向かって自ら仕掛けていける度胸もスキルもある。欠けているのはラームのようなリーダーシップくらいだ。

 ギュンドアンがゴールを量産できているのも、カンセロがロドリの隣でビルドアップをサポートしていることが大きな要因かもしれない。ゲームの組み立てにおける負担が減ったドイツ代表MFは、より効果的かつ頻繁にゴール前の最終局面に顔を出せるようになった。

「そこ(新しい役割)でプレーするためには資質が必要で、彼らならできると信じることも重要だ。我々は選手たちと話し、(新たな役割について)説明を試みる。時折、彼らには難しいかもしれないと気づくこともあるが、もしポジティブな反応があり、彼らならできると信じられれば、その選手に(これまでと違う役割の)資質があるということだ」

 グアルディオラ監督は配置や役割の転換によって数々の選手たちの才能を引き出してきた。かつてラームは自ら望んで中盤へのコンバートを志願したが、カンセロは監督から促される形で新たな役割を受け入れ、挑戦している。ボルシアMG戦後のインタビューでは次のように語った。

「僕はいくつかのポジションでプレーしているけれど、どこでも気持ちよくプレーできているし、常に学び続けている。僕のスキルでチームを助けたい。今日は左サイドバックだったけれど、監督に求められればどこでもプレーできる。チームのために全力を尽くすだけだ」

 彼は自らの役割が「前線の選手が自由に攻撃に専念できるよう助けること」とも認識している。「カンセロ・ロール」とも呼ばれるようになった新たな概念の本質はそこにあるのかもしれない。

 最近の目覚ましいパフォーマンスによって、カンセロのポジショニングや役割への対策が進むのは間違いない。今後そういった壁をどのように乗り越え、進化を遂げていくか楽しみだ。「彼はビッグタレント」というグアルディオラ監督の言葉を信じてみたい。

(文:舩木渉)

【了】

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