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アーセナル、1年前の悪夢を払拭。因縁ある地でベンフィカ撃破、EL制覇にこだわる理由とは【EL分析コラム】

UEFAヨーロッパリーグ(EL)のラウンド32・2ndレグが現地25日に行われ、アーセナルはベンフィカに3-2で勝利を収めた。2戦合計スコアは4-3となり、アーセナルがラウンド16への勝ち上がりを決めている。一時は2年連続ラウンド32敗退の危機に陥ったチームは、なぜ逆転までたどり着くことができたのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

2020年2月27日の記憶

アーセナル
【写真:Getty Images】

「確かに昨年のことが頭の中にあった」と、ピエール=エメリク・オーバメヤンは言った。

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 ベンフィカを下してUEFAヨーロッパリーグ(EL)のラウンド16進出を決めた後のインタビューに臨んだ、アーセナルのキャプテンは安堵に満ちていた。次のように続ける。

「だが、あの敗退は毎日僕に力を与えてくれた。過去のあやまちを糧に、それを強さに変換してきた。今日、この試合に勝利することができてとても嬉しい」

 おそらく試合中も、昨季のELラウンド32でまさかの敗退となった日の記憶がよぎったことだろう。ちょうど1年前の2月27日、アーセナルはオリンピアコス相手に屈辱を味わった。

 アウェイでの1stレグに1-0で勝利していたにもかかわらず、ホームに戻った2ndレグで大失態を演じた。

 53分に不用意に与えたコーナーキックからパペ・アブ・シセにゴールを奪われると、2戦合計スコア1-1で延長戦に突入。その延長後半、113分にオーバメヤンが見事なバイシクルシュートで勝ち越しゴールを挙げ、アーセナルがラウンド16進出を決めたかに思われた。

 ところが最終盤の119分、自陣ペナルティエリア内でダビド・ルイスとソクラティス・パパスタソプーロスがマークしていた選手を見失い、クロスに飛び込んできたユスフ・エル・アラビに劇的な決勝弾を叩き込まれてしまった。

 2戦合計スコアは2-2ながら、アウェイゴール差でオリンピアコスがELラウンド16へ。アーセナルは本拠地エミレーツ・スタジアムで醜態を晒し、メディアやファン・サポーターから猛批判を浴びた。

 今季のELラウンド32で当たる相手は1年前の試合とは何の関係もないベンフィカだったのだが、何の因果か「オリンピアコス」の幻影を意識せざるを得ない状況が生まれてしまった。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のためにイギリスが厳しい入国制限を敷いていたため、アーセナルが戦うELラウンド32の2試合はともに中立地開催に。1stレグはイタリアの首都ローマにあるスタディオ・オリンピコで、そして2ndレグはギリシャのピレウスにある「オリンピアコス」の本拠地ゲオルギス・カライスカキス・スタジアムが開催地となった。

一時は敗退の危機に瀕したが…

アーセナル
【写真:Getty Images】

 因縁あるクラブのホームスタジアムに赴くだけでなく、またしても2ndレグがアーセナルのホーム扱い。1stレグは1-1のドローに終わっていて、両チームとも勝ち上がりの可能性が十分にある状態で大一番を迎えることになった。

 前半から主導権を握ったアーセナルは21分にオーバメヤンの技ありループシュートで先制するが、43分にジオゴ・ゴンサウヴェスの強烈な直接フリーキックでベンフィカに追いつかれてしまう。この時点で互いにアウェイゴールを1つずつ奪っての2戦合計スコア2-2となり、展開は完全に振り出しへ戻った。

 この試合でアーセナルが流れの中から崩されたシーンはほとんどなかった。にも関わらず、敗退の危機に追い込まれることになる。61分、ダニ・セバージョスが相手GKからのロングボールを頭で処理する際に後ろへ逸らしてしまい、そのこぼれ球をラファ・シウバに拾われる。そしてGKベルント・レノもあっさりかわされ、ベンフィカに値千金のアウェイゴールを与えてしまった。

 2戦合計スコアは2-3になったが、アーセナルは1点取るだけではアウェイゴール差で敗退、2点以上奪って勝ち切らなければラウンド16進出が夢と消える状況に陥ってしまった。だが、「昨年のことが頭の中にあった」選手たちは奮起し、凄まじい底力を見せる。

 勝ち越された直後の67分、左サイドを突破したウィリアンがマイナス方向へ折り返すと、敵陣ペナルティエリア内まで侵入してきていたキーラン・ティアニーが相手ディフェンスを1人かわして左足を振り抜く。抑えの利いた鋭い一撃を、ベンフィカのゴール右下隅に突き刺して反撃の狼煙をあげた。

 その後もアーセナルが攻め続けるものの、なかなかゴールに結びつかず試合終了の時が近づいてくる。すると87分に歓喜の瞬間が訪れた。

 右サイドでボールを受けたブカヨ・サカがドリブルで仕掛け、対面した相手左サイドバックをかわしてゴール前にクロスを上げる。それに逆サイドからドンピシャのタイミングで飛び込み、頭で合わせたのはキャプテンのオーバメヤンだった。

EL制覇に執着する理由

アーセナル
【写真:Getty Images】

 ミケル・アルテタ監督は何とかゴールを奪うためにウィリアン、トーマス・パーティ、アレクサンドル・ラカゼットと攻撃的な交代カードを切り続けた。それでもなかなか成果に結びつかなかったなか、勝ち上がりがかかった重要な場面で果敢に不利なポジションから勝負を挑み、待ちに待った劇的な勝ち越しゴールを演出したのは19歳の若武者だった。

 トップチーム昇格1年目の昨季、不慣れな左サイドバックを任されてオリンピアコス相手の屈辱的な敗退を経験していた。目の前でエル・アラビの決勝ゴールを目の当たりにしていた。あの日の悔しさを知るサカは、ベンフィカ戦の2ndレグで2アシスト。1年で飛躍的に成長した姿をチーム内外に知らしめた。

 サカとオーバメヤン、伸び盛りの若手とキャプテンという立場で今のアーセナルを象徴する2人が、「あの敗退」の苦い記憶を払拭する勝ち上がりの立役者となった。

「チームはとても大きな個性を見せることができたと思う。僕たちは勝利に値する戦いをした。今夜は非常に難しい試合で、チームにかかわる全員をとても嬉しく思う。今夜、僕たちが示したことはクラブの将来にとって模範になるはずだ」

 オーバメヤンは劇的なELラウンド16進出でチームが見せた団結力を誇った。失点に直結するミスを犯したセバージョスも、ただ落ち込むのではなく、交代後はベンチから大声を張り上げてチームメイトたちを鼓舞していた。

 試合後の記者会見で「今日は特にダニのためにも本当に嬉しい。彼はプロ選手であることを人生で最も重要なものと位置付けている。ミスをした後、もしあのまま敗退していたら、彼にとっては辛いことになっていた。彼のような人間には、いいことが起こるにふさわしいんだ」と、アルテタ監督はセバージョスの姿勢を称賛。そして、チームの団結と奮闘も称えた。

「チームが示した個性や勇気、パーソナリティには本当に満足している。最後まで勝利への意欲を持ち続けた。全てを捧げ、最後には報われた。我々にはこれからもこの大会で戦い続ける価値があるということだ」

 アーセナルは現在プレミアリーグで11位と苦しんでおり、国内リーグの成績で来季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を確保するのは極めて難しい状況になっている。もしCLの舞台に戻るなら、ELで優勝してその権利を得るのが、ほぼ唯一にして最も現実的な方法だ。

 グループステージは出場機会の少ない選手たちで戦っていたが、アルテタ監督は決勝トーナメントに入ってから“ガチメンバー”を組むようになっている。ベンフィカ戦でアーセナルが見せた終盤の粘り強さや勝利への執着心は、ELのタイトルにかける想いの強さを表しているようだった。

(文:舩木渉)

【了】

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