ポジショナルサッカーはなぜ「選手全員が上手く見える」のか? そして出現する対抗勢力【脱J2魔境マニュアル(3)】

2021年06月02日(Wed)8時30分配信

text by 龍岡歩 photo Getty Images
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禁断の「脱J2魔境マニュアル」と題し我が国が誇る2部リーグ・J2を特集した、6月7日発売『フットボール批評issue32』から、今や「知の戦場」ともいえるJ2の戦術的対立構造の最前線を追った龍岡歩氏の記事を一部抜粋して全3回で公開する。今回は第3回。(文:龍岡歩)

特化した戦術が生む極端な現象

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【写真:Getty Images】



 リカルドが徳島に持ち込んだポジショナルサッカーとは何か。それは、サッカーというゲームをロジカルに攻略する手引きのようなものだ。フィールドプレーヤー10人のポジショニングを意図的に決め、マッチアップする相手、連携すべき味方、観るべきスペースなど、いわゆる判断といわれる領域をオートマティックにしてしまうものである。

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 リカルドの徳島はビルドアップ時、2トップ相手ならDF3枚、3トップならDF4枚が始点となり、最終ラインで「+1」を形成していた。この時、数的優位を活かしてただパスを回すだけだと、前線に縦パスが入った時にせっかく作った「+1」が消えてしまう。

 しかし徳島はビルドアップの始点で作った「+1」の恩恵をDFラインの選手が自ら中盤までボールを運ぶことで、ボールと一緒に数的優位を「運ぶ」のだ。そして相手の「誰」が出てきた時に「どのスペース」を狙うか、というプレーのチャートが予め決まっているので、選手は判断に迷う必要がない。

 ポジショナルサッカーの完成度が上がってくると、選手全員が「上手く見える」現象が起こるが、それは脳のリソースを限りなく節約して余裕を持った状態でプレーできるからである。

 ポジショナルサッカーという新たな戦術で極端な数字を叩き出すチームが出現すると、対抗勢力は二つの道を迫られる。

 一つはボールを保持しないでも勝てる戦術へ舵を切る道。もう一つは彼らよりもボール保持率を上げる道である。つまりポジショナルサッカーからボールを取り上げて、自分たちでボールを保持するのだ。

 徳島が優勝した2020シーズンのJ2は、徳島と同勝ち点の2位でアビスパ福岡が昇格したが、彼らのスタイルは戦術の二極化ともいえる現象を物語っている。

 福岡のボール保持率は22チーム中20位で、1試合平均のパス本数も21位という数字だった。つまり福岡はボールを持たないし、パスもつながない。しかしボール非保持の局面を作り勝ちに結びつける戦術に特化したチームだった。余談ではあるがこの2020年シーズン、J3ではボール保持率ワーストのブラウブリッツ秋田が優勝し、ブービーのSC相模原が2位でJ2昇格を果たしている。

 こういった特化した戦術が生み出す極端な現象は数年前から、欧州ではすでに起こっている。

 その契機となったのはもちろん、本家ポジショナルプレーの使い手ペップ・グアルディオラの登場であった。

 このペップシティのポジショナルサッカーに待ったをかけたのはストーミング戦術の完成度を上げてきたクロップのリバプールである。こうして戦術は進化していく。

(文:龍岡歩)


『フットボール批評issue32』

≪書籍概要≫
定価:1760円(本体1600円+税)

禁断の「脱J2魔境マニュアル」

我が国が誇る2部リーグ・J2は、「魔境」の2文字で片付けられて久しい。この「魔境」には2つの意味が込められていると考える。一つは「抜け出したいけど、抜け出せない」、もう一つは「抜け出したいけど、抜け出したくない気持ちも、ほんのちょっぴりある」。クラブの苦痛とサポーターの得体のしれない快楽が渾然一体となっているあやふやさこそ、J2を「魔境」の2文字で濁さざるをえない根源ではないだろうか。

1999年に創設されたJ2は今年で22年目を迎える。そろそろ、メスを入れることさえ許さなかった「魔境」を脱するためのマニュアル作りに着工してもよさそうな頃合いだろう。ポジショナルプレーとストーミングのどちらがJ2で有効か、そもそもJ2の勝ち方、J2の残留におけるメソッドはできないものなのか。このように考えている時点で、すでに我々も「魔境」に入り込んでいるのかもしれないが……。

詳細はこちらから

【了】

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