あれは失敗だった…。Jリーグで活躍した審判の「告白」と「教訓」【サッカー本新刊レビュー:試合が2倍おいしくなる本(3)】

2021年10月30日(Sat)11時00分配信

シリーズ:サッカー本新刊レビュー
text by 実川元子 photo Getty Images
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小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。


『しくじり審判 失敗から学ぶサッカー審判の教科書』

(カンゼン:刊)
著者:小幡真一郎
定価:1,870円(本体1,700円+税)
頁数:256頁

 著者の小幡真一郎氏は1985年に一級審判員、1992年に国際審判員を取り、1993年のJリーグ発足時、開幕戦(ヴェルディ川崎vs横浜マリノス)の主審を務めた。2001年まで審判として第一線で活躍した著者が、自身だけでなく、同じく第一線で笛を吹いてきた(もしくは旗をあげてきた)審判たちのこれまでの経験の中から特に「失敗」をクローズアップし、自分たちの数々の「失敗」を包み隠さず「告白」し、そこからどんなことを学んだかを記したのが『しくじり審判 失敗から学ぶサッカー審判の教科書』である。

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 第1章で審判たちの「失敗談」とそこから学んだ「教訓」が、第2章でレフェリングの技術や心構えの基本についてのレクチャーが、第3章で都並敏史氏との対談が収められている。第1章の失敗談はおもしろく、何回もクスッと笑ったり、嘘でしょ? と驚いたりしながら、おそらく初めて、私の中で試合中のレフェリーたちの姿が生身の人間として立ち上がってきた。

 思えばスタンドや画面の前にいる観客としての私の視線は、選手たちとボールしか追いかけていない。レフェリーに注目するのはよくも悪くも「おいおいおい……」というシーンだけだ。そして試合を振り返って記憶に残っている審判の姿は、たとえば主審がPKをとってポイントを指しているときか、得点の絶好機だと思ったのに副審が旗を振ってオフサイドを示しているときで、その姿をちらりと見て「おいおいおい……」とため息をついたりほっとしたり、ときには怒ったりする。要するに印象に残っているのは手をあげたり、旗を振ったり、カードを出している動作だけで、審判がどんな表情でレフェリングをしているかなど考えたことがなかった。

 今さらながら気づいたのが「レフェリーも人間なのだ」ということである。感情があって、身体がある人間だから、選手から暴言を浴びせられると腹が立つし、暴力を受けると恐怖を覚えるし、あきらかに失敗したと気づくと引きずるし、足がつったりすることもある。それなのに、観客の私はそのことに気づくことが少なかった。何となくであるが、レフェリーをロボットのように思っていたのかもしれない。それが大きな間違いであると本書は指摘する。

 第2章でレフェリーとして大切なことが挙げられているが、その中で著者が最も多くのページを割いているのが「感じること、予測すること」の重要性である。この試合をチーム(クラブ)はどう位置付けているか、チームの戦術の特徴はどのようなものか、この選手はどんなプレーをするか、そういうことを予習した上で、ピッチの上で起きることを感じて、予測すること。それがよいレフェリングにつながり、ひいては選手もファンも楽しめる試合になるのだという。つまり選手だけでなく、審判も十分に準備して初めて「いい試合」になる。「キーマンは誰で、パスの出どころはどこか? そういうことを考えて準備して試合に臨む」という著者に、第3章で対談する都並氏も「そんなことまで審判の方は想定しているんですか⁉」と驚く。審判にとっての準備は、そんなところにまで及んでいるのだ。

 そしてよい準備のためには、振り返りが重要だと著者は言う。あのシーンのレフェリングはよかったか、もっとこういうことができたのではないか、に始まり、あれは失敗だったと勇気を持って認めることが、次の試合への準備の第一歩になる。

 本書はレフェリングに興味がある人に役に立つことはもちろんであるが、観客にとってはサッカーの見方をよりいっそう深めてくれ、プレーする選手たちにとってもレフェリングの意味をあらためて見直す機会を与えてくれるはずである。

(文:実川元子)

実川元子(じつかわ・もとこ)
翻訳家/ライター。上智大学仏語科卒。兵庫県出身。ガンバ大阪の自称熱烈サポーター。サッカー関連の訳書にD・ビーティ『英国のダービーマッチ』(白水社)、ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神』(同)、B・リトルトン『PK』(小社)など。近刊は小さなひとりの大きな夢シリーズ『ココ・シャネル』(ほるぷ出版)。

【了】

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