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「4つの柱」から成るラングニックの哲学。ライプツィヒを生まれ変わらせたゲームモデルとは…【レッドブルと教授の野望・前編】

text by カラン・テージワーニ photo by Getty Images

巨大エナジードリンクメーカーがなぜサッカー界に照準を合わせたのか、アンチも注目せざるを得ないその巧妙かつ革命的な戦略史を辿る『エクストリームフットボール』(12月20日発売)より、マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任し注目を集めるラルフ・ラングニックについて書かれた1章「欧州を制圧するレッドブル帝国の野望」を一部抜粋で公開する。今回は前編。(文:カラン・テージワーニ)

ゲームモデルを成立させる4つの柱

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【写真:Getty Images】

 1年ほど現場から離れるとラングニックは2012年に監督としての復帰を目指していた。しかし、イングランドのクラブに就任するというプランは失敗に終わる。そして夏、ディートリヒ・マテシッツの友人としても知られていたジェラール・ウリエから連絡が届く。彼はレッドブルグループのグローバル・ヘッド・オブ・サッカーとして働いており、アメリカとブラジルでの強化を統括していた。

「ラルフ、ちょうど私はディートリヒ・マテシッツと一緒にいる。もし時間があれば今ヘリコプターに乗って君に会いにいくよ」

 そして、この出会いがレッドブル王国の運命を変える。ホッフェンハイムでクラブの全権を握った男はレッドブルグループのSDとしてRBライプツィヒとレッドブル・ザルツブルクの強化を担当することになる。ラングニックは若手と優秀な指導者に投資し、効率的に持続可能なモデルを実現する。

 彼がレッドブルグループに加わった時、ザルツブルクとライプツィヒに所属する選手の平均年齢は29歳だった。さらにラングニックはクラブが心理学と栄養学の部門に十分に投資していなかったという課題を指摘する。

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 彼はレッドブルを成功に導いたマーケティング理念で例えながらマテシッツに自らの哲学を説明。若く柔軟な人々がエナジードリンクを愛するように、レッドブルの選手たちも若く吸収力のある人材を揃えるべきだと主張したのだ。そしてクラブはラングニックの思想をベースに生まれ変わっていく。

 そして、ラングニックの重要な役割がレッドブル全体におけるゲームモデルの統一だった。それがレッドブルグループのサッカーに翼を授けることになる。彼のゲームモデルは4つの柱によって成立している。

・チームの力を最大限に引き出し、リアクションではなくアクションを仕掛けること。ボールを保持している局面だけではなく、ボールを保持しない局面でゲームを支配するにはチームの組織力が必要になる

・数的優位性を活用し、ボールを可能な限りダイレクトで迅速に動かすこと。無意味な個人技は不要で、軽率なファウルも減らしていく必要がある

・トランジション局面を制し、鋭く逆サイドに展開すること。ボールを激しいプレッシングで5秒以内に奪回し、ダイレクトに縦にボールを供給。斜めの動きを混ぜることでペナルティーエリアに侵入して、ボール奪回から10秒で攻撃を完結させる

・チームのスプリント数を増やし、ボールを奪回する回数を増やすこと。ボール奪取から迅速に仕掛けることで得点の可能性は上昇する

 これはラングニックという「ブランド」であり、過去には理解されなかった哲学だった。ラングニックは最初のシーズンでRBライプツィヒを3部リーグに昇格させる。ラングニックの存在はメディアとファンの注目も集めていく。

 経済的な観点でもラングニックはレッドブルグループにとってポジティブな改善を続けていった。彼らは給料の高いベテランを減らし、若くてハングリーで走れる選手を獲得していく。

(文:カラン・テージワーニ)

【追記】ラングニックは2021年11月よりマンチェスター・ユナイテッドの暫定監督を務めている

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アンチ上等! サッカー界の既成概念を「再配合」するレッドブル帝国の正体
衝撃的ともいえるそのスピードと徹底的なチームの献身性――。レッドブル・ザルツブルク、RBライプツィヒなどの背後に君臨するレッドブルグループは世界中のスポーツ界で勢力を伸ばしつつある。一方でピッチ外でも展開されるマーケティングによって利益を得ることに長けた彼らのアンチも少なくない。巨大エナジードリンクメーカーがなぜサッカー界に照準を合わせたのか、アンチも注目せざるを得ないその巧妙かつ革命的な戦略史を辿る。

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【了】

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