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長友佑都は不死鳥のごとく。「生きるか死ぬか」で見せた真髄、サッカー日本代表への想い込もった魂の90分間【W杯最終予選】

text by 編集部 photo by Getty Images

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長友佑都
【写真:Getty Images】



「中山雄太行けオラァ!」

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 1日に行われたカタールワールドカップアジア最終予選のサウジアラビア代表戦。68分にDF長友佑都が交代する際、何かを叫んでいたのはスタンドからも見えたが、何を言っていたのかがわからなかった。

 改めて中継映像を確認すると、交代出場するDF中山雄太に大声でエネルギーを注入していたのである。その後、長友はベンチに座ることなく、テクニカルエリアに立ってチームメイトに試合終了の笛が鳴るまで声を送り続けた。

 相手のハードタックルに仲間が倒されれば飛び出して主審に抗議し、要所で大きなアクションを織り交ぜながら指示を送る。まるでEURO2016決勝でのクリスティアーノ・ロナウドのように。

「ピッチの外に出ましたけど、気持ちは戦っていましたし、自分がピッチ内で声を出すのと変わらず、ピッチの外でも同じような指示と、みんなをモチベートすることを自然とやっていました。僕自身このチームが好きだし、このチームのためなら何でもできるな覚悟と想いを再確認しました」

 ここ最近、長友は多くのメディアや識者から猛烈な批判を浴びていた。それを本人も知っており「みなさんからの厳しいご意見もご批判もありがたいなと思っていますね。厳しい批判とか意見の中に自分を成長させるチャンスが眠っている」とも話していたが、決して無傷ではなかっただろう。

 中山との関係性を「ライバル」と書き立てられ、不要論すら持ち上がる。そんな状況が長友の心に火をつけた。

「ワールドカップの時の、あの緊張感と興奮を思い出しましたし、久しぶりに今日は生きるか死ぬかだなと。今日できなければ代表にいる意味がないと思っていたので、魂込めて戦いましたし、自分でもびっくりするくらい魂の叫びが聞こえていました」

 彼自身「改めて批判は自分にとってガソリンで、必要なものだと感じましたね、追い込まれれば追い込まれるほど、逆境になれば、そっちの方が力を発揮できる」とも語る。

 サウジアラビア戦に左サイドバックとして先発起用された長友は、これまでとは見違えるような動きで躍動し、批判にパフォーマンスで応えた。最近は鳴りを潜めていた対人の強さを取り戻し、チャンスと見るやためらいなく左サイドを駆け上がる。エネルギッシュな長友が帰ってきた。

「僕の原点に帰らせてくれましたね。精神的な部分で。目の前の相手に負けないとか、魂込めてプレーすることを心がけました。ただ、いろいろなことを経験して、自分の中に慢心もあったのかなと思うんです。

みなさんに叩かれて、たくさんの批判をいただいて、もう一度、自分の魂に火をつけてもらったなと、本当に思っていますね。なので今日は本当に20代の頃のようなフィジカルコンディションでしたし、体も動けました。やっぱりこれをベースにしないと、僕がワールドカップでチームを勝利に導けないと思いました」

 この言葉を聞いて思い出したのは、今回の代表活動の序盤にオンライン取材でDF吉田麻也とDF冨安健洋が不在の状況で、どのような振る舞いをしていこうと考えているかを問われた時の回答だった。それは次のようなものだ。

「どんな状況でも、自分がここにいるということは、チームにポジティブな空気をもたらす、1人ひとりの心をつなげると言いますか、そういったことができたらなと。それが自分自身の強みだと思っていますし、試合に出ても出なくても、どんな状況でもチームにとってポジティブな空気に、プラスになるような存在でいたいなと思っています」

 長友の存在価値の一要素として、ピッチ内外でチームの一体感を生み出せるメンタリティがある。初招集の若手選手がいれば自分から声をかけ、率先してイジり、チームの輪に溶け込みやすいよう積極的に絡んでいく。どんな時も手を抜かず全力で取り組む姿勢を見せ、声を出し続け、周りにそれを伝播させる。苦しい状況でも常にポジティブであり続け、ピッチ内外でチームを勇気づける。

 ライバルと言われる中山がアシストを決めれば、真っ先に抱き寄せて称賛する。交代時に「行けオラァ!」とエールも送る。ベンチに下がっても、まるでピッチに立っている“12人目”かのように指示を出し続ける。こういった熱さ全てをひっくるめて「長友佑都」という男なのである。共に戦う仲間たちが、彼の存在の頼もしさを最も強く実感しているだろう。

 ある意味、サッカー日本代表の精神安定剤とも言える働きこそ、10年以上にわたって何人もの監督から重宝されてきた要因の1つだ。しかし、経験を積んで怪我さえなければ代表に選ばれるのが当たり前になったことで、長友自身が言う「慢心」があったのかもしれない。

 普段通りに振舞っていても、「慢心」は大事なところに深刻な影響を及ぼしかねない。年齢を重ねるとともにベテランらしさのようなものを意識して慎重な、悪く言えば安パイなプレーを選びがちになる傾向もあっただろう。

 それではダメだ、長友はチャレンジしてこそ長友なのだと彼自身が吹っ切れたのか。ベテランらしくあろうとすることをやめ、若手のように猛々しく相手に向かっていく姿勢を見せることで、サウジアラビア戦ではかつてのような躍動感を取り戻した。

「左サイドが躍動するのも停滞するのも、すべてが自分自身(の責任)だなと改めて思いましたね。やっぱりあれくらい攻守に躍動しないといけないし、躍動できないんだったら僕がここにいる意味はない」

 強い覚悟を持って臨んだ試合での情熱あふれるプレーにより、長友が日本代表に不要だと考える人の数はだいぶ減ったのではないだろうか。一挙手一投足に心を動かされるパフォーマンスだった。

「日本代表への思いがなかったら、これだけ批判を浴びて、普通逃げますよ。だけどやっぱりワールドカップで戦いたい、自分の夢は変わらない。今日は生きるか死ぬかで、今日ダメだったら代表でもダメだなと自分では思っていました。なので気合が入りましたね。ありがたいです」

 左サイドバックのポジション争いも、まだまだ答えは出ない。中山も「もちろんスタメンじゃないことに対して満足はしていないですし、もちろん(スタメンで)出たいのはサッカー選手として当たり前のところで。ただ、僕がもっとうまくなればスタメンになると思っている」と語るように、定位置を任されるには決め手に欠いていることも自覚している。

 ピッチ内外にわたる長友にしかない能力や存在価値があるからこそ、35歳になっても頼られる存在であり続けている。A代表キャップ130試合を超えるベテランは、自身の力で長友佑都の真髄を改めて証明した。

「いい感じのプレッシャーでしたよ、今日は。ワールドカップじゃないかというくらいのプレッシャーでしたけど、自分自身はそれくらいのプレッシャーのほうがアドレナリンが出て、体が動くなと思いました。今後も自分がダメなときは、大きな批判をして欲しいと思いますし、厳しい意見も必要だなと思いますし、皆さんに本当に感謝したいですね。温かく応援してくださった人たちにも心から感謝したいですけど、批判して僕の心に火をつけてくださった人たちにも感謝したいです」

 ただ、これで長友が不動であり続けるわけではない。本人が「過去のことは関係なく、今ピッチで示さなければいけない」と理解している通りだ。3月のオーストラリア代表戦でも、その後もサウジアラビア戦と同じレベルを発揮できると示し続けなければ、すぐにポジションを失うだろう。

 しばらくは長友と中山、タイプの違う2人の左サイドバックを前線との組み合わせによって併用していくことで成長と競争を促していくことになるはずだ。その中で、長友には森保一監督の頭を悩まし続ける存在であり続けてもらいたい。何度でも蘇る不死鳥のごとく。

「競争がなければ人は慢心してしまう。成長を止めてしまうというのもありますし、それが一番危険な状況ですよね。中山みたいに若くていい選手が出てくるのは僕にとってもありがたいですし、自分自身のエネルギーが心底出てきます。純粋に日本代表として勝ちたいんです。ワールドカップに行きたい。

そこに僕は大きな夢を抱いているので、だからこそ彼が素晴らしいアシストをしたときも純粋に喜べます。それは勝ちたくてワールドカップに行きたいからなんですね。非常にいい関係性だと思いますね。長友まだまだ成長できるなと思います」

(取材・文:舩木渉)

【了】

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