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フランス代表はなぜ強かった? バラバラだったチームが準優勝に輝いた理由【W杯コラム前編】

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

光ったデシャン監督の手腕


【写真:Getty Images】



 モロッコ代表戦で、後半に投入された直後のプレーで得点をあげたランダル・コロ・ムアニなどは、代表チームが合宿に入ったときにはまだ、所属するフランクフルトとともに日本にいた。彼はデシャン監督からの電話を、大阪のホテルの自室で受けたという。3シーズン前までフランスの3部リーグでプレーしていた彼が、大会前にA代表でプレーしたのは9月のネーションズリーグでのほんの数分のみだった。

 その彼に指揮官は、「君のことはずっと信頼していた。だから落ち着いてやればいい」と声をかけ、即戦力に仕立て上げた。

 また、大会を通して体を張った好パフォーマンスを見せたCBのウパメカノなども、フル出場した9月のデンマーク代表戦では「とてもA代表レベルではない」と酷評されていた選手だ。

 メンバー選考の時点で4バックに戻すことを決断し、それに応じた選手を選んだのも好判断だった。合宿開始後にも続々と離脱者が出た中で、カバーリングなど、より熟成が必要な3バックであれば、大会中に対応するのは難しかっただろう。

「ベンゼマがいなかったことがかえってよかった」という声も聞かれたが、彼がいない方が点がとれていたかどうかは、推測の域を出ないことだ。しかし戦術に関しては、「ベンゼマの離脱は影響を及ぼしていない」とデシャン監督は語っている。彼とオリビエ・ジルーをそのまま入れ替えて臨み、大会前は「オワコン」と見る者も多かったジルーが、4得点の大活躍をしてみせた。

 試合中の采配でも、マルクス・テュラムを入れて相手のサイド攻撃を封じた準決勝のモロッコ代表戦や、決勝のアルゼンチン代表戦でも、前半のうちにスパっと「2枚替え」を敢行し、システムを[4-4-2]に変更したことが、後半戦の挽回につながった。

「層が厚い」と言われるが、ベンチメンバーのほとんどは未知数で、1.5軍メンバーで臨んだチュニジア代表戦にはノーゴールで敗れている。手薄な左サイドバックには本業はMFのエドゥアルド・カマビンガをあてたくらいだ。

 それでも自身が思い描くゲームを実践できる選手を、良いタイミングで良い場所に的確に配置できる能力、そして選手たちを、心身ともに、それに応えられる状態にもっていけるデシャン監督の手腕はあっぱれだった。

(文:小川由紀子【フランス】)


【了】

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