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シャビから理解する「スキャン」の価値。サッカー選手が「無意識の無能」から脱出するためには?【ヴィセラルトレーニング4】

text by ヘルマン・カスターニョス photo by Getty Images

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アルゼンチン生まれの神経科学を実用的に用い、無意識をトレーニングする先鋭のトレーニング理論をまとめた『フットボールヴィセラルトレーニング[実践編]』が、6月の[導入編]に続き、10月3日に刊行された。そこで、今回は[実践編]から一部を抜粋して、一流選手が無意識下で行う「スキャニング」の重要性を紹介する。(文:ヘルマン・カスターニョス、監修:進藤正幸、訳:結城康平)

[導入編]はこちら


「無意識の無能」から脱出する必要

元バルセロナMFシャビ・エルナンデス
【写真:Getty Images】

 スキャンは、懐中電灯のように機能する。プレーをするフィールドは、暗闇のようなものだ。頭が固定されると、そのエリアとエリア内で起こっていることが照らされる。エリアを照らすことで、脳をより活性化させることができる。これにより、現在起こっていることを知るだけでなく、さらには将来起こることを予測することができる。もしボールだけを見るのであれば、照らされるのはボールだけだ。だからこそ、サッカー選手の例を通じて、スキャンの価値をより深く理解することが必要になる。

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 例えば、シャビ・エルナンデスは「バルセロナでは、私のあだ名は『エクソシストの子』だった。私はエクソシストのように頭を360度回転させることはできないが、スペースを見つけるために、500回以上も頭を回転させた試合もある」と述べている。シャビの言葉によれば、スキャンの量が多い選手は1対1のドリブルではなく、パスに頼る傾向があるという統計データも偶然ではない。

 サッカー選手は、サッカーにおけるスキャンの価値を生まれながらにして知っている訳ではない。そして、トップリーグに上がってもスキャンを知らないままのこともある。したがって、サッカー選手は「無意識の無能」から脱出する必要がある。

 しかし、もう1つの方法はヴィセラルトレーニングにある。知覚的負荷の増加により、スキャンの欠如(またはスキャンの不十分さ)した状態ではタスクの解決が不可能になる。したがって、ヴィセラルトレーニングは選択的な圧力をかけ、スキャンの貧弱さを持つ、環境の個々の特徴に注意を集中させる「場所依存型」のサッカー選手たちにスキャン能力を開発するよう強制する。周囲の空間に関する情報を知覚し、その情報を整理するような認知傾向を促す。

 そして、ボールに過度に集中する場所依存型の選手にとっては、ヴィセラルトレーニングのタスクは非常に有用だ。1つのレイヤーと別のレイヤーの重複した活動が、より広範な知覚を必要とする空間で同時に行われるからだ。ヴィセラルトレーニングでは知覚―行動の循環が増加し、複数の知覚に対する習慣を試合のために残そうとする。

 逆に、スキャン能力が高い「場所独立型」のサッカー選手は、全体的な環境表現を管理する能力を持っており、その閾値を高めることができる。スキャンの増加は習慣の確立に役立つ(ヴィセラルトレーニングが、その確立のスピードを加速させる)。

 空間的な記憶認識の調査において、ラウラ・タスコンらは次のような結果を発見した。

「『場所独立型』の参加者は、環境内の参照点が少ない場合に『場所依存型』よりも正確性が高く、すべての参照点が利用可能な場合に『場所依存型』よりも速い結果を残した」

 つまり、より広い視野を持つ選手たちは、精度と速度の分野で視野の狭い選手たちよりも優れたパフォーマンスを発揮する。サッカーのパフォーマンスにおけるその意義は明白だ。

<書籍概要>

フットボールヴィセラルトレーニング
無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[実践編]

ヘルマン・カスターニョス 著
進藤正幸 監修
結城康平 訳
定価:2,970円(本体2,700円+税)

タスク(課題、目的)に向けて「レイヤー(層)=変数」を重ね、実際の試合以上の複雑性を生み出す

上巻『フットボールヴィセラルトレーニング[導入編]』では、神経科学を実用的に用い、認知、意思決定、無意識下でのプレーを最適化するための理論を紹介した。
下巻『フットボールヴィセラルトレーニング[実践編]』では、タスク(課題、目的)に向けて「レイヤー(層)=変数」を重ね、プレーヤー、フィールドサイズ、ピッチ形状、ゾーニング、ボール、ゴール、ゲート、ツール、時間などを操作し、実際の試合以上の複雑性を生み出すヴィセラルトレーニングの構造を具体的に解説していく。
 
[導入編]はこちら
 
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【了】

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