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「10年前からしょっちゅう話はあった」日本代表・加茂監督誕生の舞台裏【横浜フリューゲルス消滅の”真実” 第1回】

text by 田崎健太 photo by Getty Images

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日本サッカー界の「汚点」――
日本で最初に本物のクラブチームとなる可能性があった「フリューゲルス」を潰したのは誰だったのかに迫った『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』より、「ブラジル人トリオ獲得の『裏側』1993-1994」を一部抜粋して公開する。(文:田崎健太)

著者プロフィール:田崎健太

1968年3月13日京都市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。
主な著書に『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『辺境遊記』(英治出版)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』(カンゼン)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社 ミズノスポーツライター賞優秀賞)、『真説・長州力 1951-2018』(集英社)。『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』(光文社新書)、『ドライチ』(カンゼン)、『真説佐山サトル』(集英社インターナショナル)、『ドラガイ』(カンゼン)、『全身芸人』(太田出版)、『ドラヨン』(カンゼン)、『スポーツアイデンティティ』(太田出版)。

天皇杯優勝を川淵は高く評価していたのだ

加茂周監督(横浜フリューゲルス時代) 
【写真:Getty Images】

 94年10月からのアジア競技大会で日本代表はグループDに入った。初戦でアラブ首長国連邦代表に1対1、続くカタール代表にも1対1で引き分け。3試合目でミャンマー代表に5対0で勝利、1勝2分けで決勝トーナメントに進出した。しかし、10月11日、準々決勝で韓国代表に2対3で敗れた。
 
 一週間後の18日、ファルカンの去就を議論するため日本サッカー協会の強化委員会が開催された。

〈各委員間ではファルカン監督の擁護を主張する意見も出たが、最終的には「フランス予選までは、1年ごとに2人の監督を試す」という既定路線にのっとって、契約延長はしない方針を確認。議論は早くも次期監督の検討に移り、候補の絞り込みに入った。

 まずかねてから候補に上がっていた米国代表のボラ・ミルティノビッチ監督について検討されたが、年俸面や付帯条件などについて反対意見があり、候補外へ。ここで川淵委員長が主張したのが、加茂監督の名前だった〉(『サッカーマガジン』11月9日号)
 
 川淵はサッカーマガジンの同じ号で取材を受けている。翌年6月、日本代表はイングランドで行われる国際大会に招待されていた。ウエンブリースタジアムでイングランド代表、ブラジル代表と対戦する可能性がある、そのためには日本のサッカーを熟知し、すぐにチーム作りを始める必要があると前置きして、こう続けている。
 
 〈日本人ということであれば、やはり加茂監督でしょうね。日産時代の評価というのはゼロです。あれはアマチュアの時代ですからね。彼の評価というのは、あくまでフリューゲルスをどう強くしたかです。彼のチームは初年度は最下位かなと思ったら、結構良い形になってきて天皇杯に優勝した。目指す方向というのを、ある程度はっきりと打ち出して、プロの厳しさを持ってやってきている。このあたりのことでは、日本人では彼を置いていないでしょうね〉

 天皇杯優勝を川淵は高く評価していたのだ。

 10月19日、国立競技場で行われた横浜フリューゲルス対サンフレッチェ広島の試合に川淵が姿を見せ、29日の理事会で次期監督を発表すると語った。そして21日、加茂に監督就任要請をしている。

 加茂は全日空スポーツと複数年契約を結んでいた。クラブ側は契約書を盾に拒否する権利があった。ただ、全日空スポーツ社長の泉信一郎と川淵は気心の知れた仲である。すでに根回しが終わっていたのだ。22日、名古屋グランパス戦が行われた岐阜メモリアルセンター長良川競技場にも川淵は駆けつけている。

 29日の理事会で加茂の代表監督就任が承諾され、翌30日に赤坂にある全日空ホテルで記者会見が行われた。

 この日、ぼくはホテル内に部屋を押さえ、連載の特別編として会見前に加茂と会っている。

「現場でコーチをしている人間は一度は代表チームを預かってみたいという気持ちはみんな持っているでしょう。10年前からしょっちゅうそういう話はあった。今回は自分にその順番が回ってきたという感じ」

 ようやく代表監督になれたという感慨にふけるような年じゃないよと、54歳の加茂は照れくさそうな表情だった。

(文:田崎健太)

<書籍概要>


『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』
田崎健太 著
定価2,970円(本体2,700円+税)

「いつまで選手たちに黙っている気ですか?」
「このままでは危ない。チームが潰れるぞ」

関係者が初証言、Jリーグ31年目にして明かされる”真実”

日本サッカー界の「汚点」――
クラブ消滅の伏線だった「全日空SCボイコット事件」の真相。
日本で最初に本物のクラブチームとなる可能性があった「フリューゲルス」を潰したのは誰だったのか。

詳細はこちらから

【了】

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