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Jリーグ 1週間前

「時代じゃないんですかね」山本悠樹の悲しそうな顔が忘れられない。川崎フロンターレで悩み、涙し、そして今放つ輝き【コラム】

シリーズ:コラム text by 菊地正典 photo by Getty Images

「もう俺みたいな選手が生きる時代じゃないんですかね…」

 世界的にサッカー選手のアスリート化の波が押し寄せ、日本でも強度や走力、守備力を武器とするチームが上位に名を連ねていた。

「もう俺みたいな選手が生きる時代じゃないんですかね。またあのころみたいに技術全盛の時代は来るんですかね」

 冗談半分だったとはいえ、あのときの山本の悲しそうな表情は忘れられない。

 それからも山本の状況は悪化をたどった。出場機会を得られない日々が続き、練習でも存在感を失っていく。

 強度や走力に加え、いままでに経験がなかったような川崎の独特な戦術に合わせることを意識するあまり、自身の良さを失った。

 表情は暗く、練習試合で結果を残しても報道陣の取材を拒否することさえあった。悩み、苦しんでいた。

 それでも、家族や仲間に支えられて心を保ち、シーズン終盤に再びスタメンの座をつかむ。

 そのきっかけとなったのは、2024年9月27日のアルビレックス新潟戦だった。約2ヶ月ぶりにスタメン出場したリーグ戦で加入後初アシストを記録するなど、5-1の大勝に貢献。試合後には支えてくれた人たちへの感謝の気持ちがあふれ、報道陣の前で涙した。

 だが、今シーズンの山本は違う。

 チームの核として圧倒的な輝きを放っている。

 他の選手が一度は預けると言えるほどビルドアップの経由地になりながら攻撃のリズムを作り、前に出れば後方に味方が使えるスペースを創出。ときに浮き球のパス、ときに地を這うスルーパスで相手の急所を突き、決定機を演出する。

 川崎の攻撃はいま、山本を中心に回っていると言っても過言ではない。

「守備が整理されて、攻撃のパワーが残っている。守備でいいポジションに立てているから、ボールを奪った後に前に出ていきやすいんですよね」

 そう語っていたのは今シーズン序盤のこと。長谷部茂利新監督の指導によってチームとしても個人としても守備が整い、その結果、攻撃面にも好影響が出ていた。当時から山本は好調を維持していた。

 さらに、この1ヶ月は凄みを増している。

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