運ではなく、実力が足りなかった
「クロスの方が悔しかったです」
あのポストに弾かれたボールがゴールへ吸い込まれていれば。サッカーに限らず、うまくいくときは何をしてもうまくいく、うまくいかないときは何をしてもうまくいかないというときはある。
運を手繰り寄せるためにはもっとシビアにならないといけない。何かが足りないからあのボールがゴールに吸い込まれるのではなく跳ね返ってきた――言うまでもなく、その対象は松村個人としてではなくチームだが、過去に優勝を経験している選手たちほど、そんな話をしている。
だが、あくまで対象が自身となる松村の考えは違った。運ではなく、実力が足りなかった、と。
「ポストに当たって入らなかったからではありません。相手に当たらなければ、ボールが(鈴木)冬一君に届いていた。クロスが相手に当たったことが悔しかったんです」
ボールを届けさえすれば、フリーでゴール前に走り込んでいた鈴木が押し込んでくれたはず。だからこそ、クロスを鈴木に届けられなかったことが何より悔しかった。
それでも、クロスまではイメージどおりだった。見事なタイミングでの動き出しは、松原との息が合っていることを感じさせる。
松村はこれまで松原とは逆サイド、左でプレーすることが多かったが、練習で何度も合わせてきた形なのだろうか?
そう問われると、松村は首を振った。
「2人でよく合わせていたわけではないです」
それならば、なぜあんなに抜群のタイミングで抜け出せたのか?