「松原選手のプレーをずっと見ていて…」
「松原選手のプレーをずっと見ていて、スルーパスが上手だと思っていました。ボールを引き出すタイミングさえ合えば、絶対にボールが来ると信じて走りました」
練習も試合も重ねてはいる。ただ、松村にとって松原はそれだけの存在ではなかった。松原だけではない。マリノスに在籍してきた選手はみんなそうだ。
松村は幼いころから家族とともに日産スタジアムでマリノスの試合を観戦し、小学3年生で横浜F・マリノスプライマリーに加入した。それからジュニアユース、ユースと9年間、マリノスで育ってきた生粋のマリノスっ子である。
つまり、松村にとって松原は憧れの対象としてずっと見てきた存在だった。同じトップチームの選手としてだけではなく、羨望と感嘆の眼差しで見ていたスルーパスが必ず来ると信じていたからこそ、あの場面で走り込んだのだ。
この試合でチャンスを創出したシーンのように、これまで松村は途中出場でチームに前への勢いをもたらすプレーを続けている。
シーズン開幕前にJFA・Jリーグ特別指定選手としてプレーすることが決まった松村は、4月25日の東京ヴェルディ戦でJ1デビューすると、ここまでJ1リーグ7試合に出場した。
本来、最も勝負したいのはトップ下。しかし、マリノスでの彼のプレーを見て、トップ下でのプレーを想像できる人はそう多くないかもしれない。それは決して悪い意味ではなく、マリノスのウインガーとしての適正を持つ姿を見せ続けているからだ。
攻守にアグレッシブ。ボールを持てば果敢に勝負を仕掛ける。もはや、松村が出てくれば何かが起きるかもしれないと期待を抱かせる選手だ。
大島秀夫監督が就任以降、7試合中6試合で起用されていること、そして町田戦では交代カードの1枚目になったということからも、大島監督の期待がうかがえる。「交代選手も含めてインパクトを与えられている」という大島監督の言葉の対象の一人が松村であることは間違いない。
だが、プレーに対してどんなにいい評価をされようとも、松村は笑顔を見せなかった。