フットボールチャンネル

アトレティコが体現する最先端。シメオネが構築した“ポゼッション放棄”のゲーム支配【データアナリストの眼力】

シリーズ:データアナリストの眼力 text by 中山佑輔 photo by Getty Images

ボールを持たずに相手を押し込むプレッシング

アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督
アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督【写真:Getty Images】

 さらに庄司氏はアトレティコが出したパスの距離について言及した。

「バルサとのセカンドレグ、アトレティコの出したパスは170本で、パス成功数は122本です。彼らのパスを、ロングパス、ミドルパス、ショートパスの3つに分類して比率を見ると、アトレティコが“引いて守ってカウンター”というプランを採用していなかったことがわかります。ロングパスは44本中23本、ミドルパスは71本中53本、ショートパスは55本中46本が通っている。アトレティコはミドルパスを多く使っていたんです。

 前進するプレッシング、“プログレッシブ・プレッシング”とでも呼べそうなプレスで、ボールを大事にする敵チームを相手陣地内に押し込む。その状態から敵陣で相手を追い込んで、苦し紛れに出させたボールをハーフウェイライン付近で奪う。そして前線の選手に縦パスをつける。これがこの試合でのアトレティコのゲームプランでしょう。

 パス成功率が72%とそれほど低くないのも、ロングパス中心ではないからだと考えられます。当然、ロングパスのほうが成功率は低くなりますから」

 ボールポゼッションは相手に譲りつつも、強度の高いプレッシングで相手を押し込み、比較的高い位置でボールを奪う。そしていざボールを奪ったときには前線の選手に正確な中距離のパスを供給する。そのパスをグリーズマンらがしっかりと収め、攻撃につなげていく。

 アトレティコはボールを持たずとも相手を押し込む“攻撃的なプレッシング”と奪った後の素早い攻撃でバルサを打ち破った。事前のゲームプランを着実に遂行し「ボールを持たずしてゲームを支配した」のだ。

「モウリーニョは以前『ボールを支配させて試合を支配する、この快感といったら』と言っていました。実際、ゲームを支配するにあたって、ボールポゼッションは必要不可欠なものではないと言えるでしょう」

1 2 3 4

KANZENからのお知らせ

scroll top