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守備的スタイルの中での“危険な賭け”。モイーズはバイエルン戦でなぜ香川を投入したのか?

text by 本田千尋 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

セオリーではないはずの香川投入

 前半を終えて、パス数は468本、ポゼッションは78%という数字が示したように、前半13分過ぎ頃には、バイエルンはマンチェスター・ユナイテッドを自陣へと押し込み始めた。敵を嬲るように、相手のゴールへと迫っていく。

守備的スタイルの中での“危険な賭け”。モイーズはバイエルン戦でなぜ香川を投入したのか?
香川真司【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】

 この試合のバイエルンで目立ったのは、チームの両翼としてではなく、同サイドの近距離でプレーするリベリーとロッベンの姿だった。11分には、右サイドでロッベンとのワンツーからリベリーがボールを中央へと折り返す。

 16分には、左サイドでリベリーとのパス交換からロッベンがクロスを送る。驚異的な突破力を持つ2人のコンビネーションは、サイドを崩すために有効すぎるくらいに有効だった。

 対してマンチェスター・ユナイテッドはカウンターに望みを繋ぐ。39分には、ルーニーのピッチ中央からのラストパスに飛び出したウェルベックが、ボアテングを振り切った。目の前にはノイアーしかいない。しかしウェルベックの右足から描かれたループは弱々しく、ノイアーが右手一本でかき出した。

 バイエルンに圧倒的に支配されたにもかかわらず、前半を0-0のスコアで折り返すことに成功すると、後半開始からモイーズは香川真司を戦線へと投入する。

 プレミアリーグで散々な結果を残し続けているモイーズだが、言われるほど無能なのだろうか。エバートンを率いていた頃に培ったのだろう。確かに引いてカウンターという手段は、格下が格上を相手に戦う際の常套手段で、CLの舞台で圧倒的なポゼッション力を持つ相手にこの戦法を採ったからといって、それだけで有能と言い切ることはできない。

 しかしこの試合でモイーズは、残り45分間の戦いを始めるにあたって、チームに変化を加えることのできる選手を、左サイドのギグスに替えて投入した。前半をドローで乗り切ったことを考えれば、そのまま8人でディフェンスを敷いてのカウンター、という作戦を貫くことも出来ただろう。

 その観点で考えれば、ギグスに代えて投入されるのは、香川ではなくフレッチャーだったはずだ。

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