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Jリーグ 9年前

Jリーグに欠けている「正しい守備の文化」。早急に改善すべき3つの“過ち”

現在発売中の『フットボール批評issue06』(カンゼン)では、「決定力不足の正体」と題した特集を企画。同誌の人気シリーズ「守備のセオリーに反するサムライたち」では、イタリア人指導者フランチェスコ・マクリ氏と宮崎隆司氏のコンビがJリーグの守備について徹底検証している。一部抜粋して掲載する。(分析:フランチェスコ・マクリ&宮崎隆司)

text by 宮崎隆司 photo by Getty Images

日本の守備はなぜ同じ過ちを繰り返すのか?

Jリーグに欠けている「正しい守備の文化」。早急に改善すべき3つの“過ち”
【写真:Getty Images】

 これほど長く同じ類のプレー(過ち)が繰り返されるのは一体なぜなのか。日本代表やJリーグの試合を観るごとに積もる疑問、これを解くための手段として“ある試合”の分析を始めました。

 その試合とは、2010年1月1日の天皇杯決勝(ガンバ大阪vs名古屋グランパス)。なぜ5年も前の試合を分析の対象とするのか。理由は、冒頭に記した通りです。過去と現在に共通する事象を浮き彫りにすることで、長きにわたり同じ類のプレーが繰り返される要因を探るためです。

 その要因が明確になれば、改善の方法もまた明瞭になる。そして正しく改善されていけば必然的に守備のレベルは向上し、それはすなわちリーグ全体に見る技術レベルの底上げに直結する。高い技術の応酬が増せばそれを間近で見たいと思うファンもまた必然的に増す。だからこそ具体的かつ客観的な分析の継続が重要であると我々は考えるのです。(中略)

 私たちは、あくまでも建設的な議論の材料となることを願いながらフットボール批評の連載(分析)を記しています。だからこそ徹底して具体的な根拠、すなわち「実際の場面・展開」を詳細に示すことにこだわっているのです。(中略)

 見事な攻撃が称賛されるのは当然だとしても、その一方で守備に対する言及は日本でどれだけ盛んに行われているのでしょうか。現実には、守備に対する的確な批評はほとんど存在せず、しかもその傾向は長く続いていると言えるのではないでしょうか。

 事実、2010年の天皇杯決勝からさかのぼること10年。2000年の天皇杯決勝・名古屋グランパスvsサンフレッチェ広島における、ストイコビッチの「伝説のゴール」もまた、サンフレッチェのDF陣がバタバタとスライディングで倒れていったことこそが要因であったにもかかわらず、その守備に対する批判は皆無であったように記憶しています。

 実況席で繰り返されたのは、「素晴しいゴールですね」という賛辞のみ。これでは間違いが間違いとして認識されることはなく、むしろおざなりにされることで間違ったプレーを常識とする考え方(文化)が次第に形成されていく。そのような好ましくない循環に陥っているのではないかと、10年前と5年前の天皇杯決勝を振り返り、そして今日のJリーグに共通する事象を目にしながら感じるのです。

 そこには誤った守備の文化が厳然と横たわっているように思えてなりません。中でも、特に気になるのが次の3点です。

【日本の守備でよく見られる問題点】

(1)各ポジション(DF、MF、FW)の仕事(役割)が不明瞭
(2)“スライディング”の多用
(3)ポジショニングを決める上での基準が「相手選手の位置」とされている

(1)の実例(具体的な根拠)として、先に触れた2010年の天皇杯決勝において、「本来、加地(SB)に対するプレスはFWの仕事。しかしこのセオリーに反してMFが出て行く」と書いたように(また、これまで『フットボール批評issue01』や『フットボール批評issue02』に記した事例が示す通り)、こうした鉄則に反する動きの頻発はやはり、各ポジションの仕事(役割)が明確にされていない証と言えるのではないでしょうか。同時に、ポジション(DF、MF、FW)別の戦術トレーニングが不足しているのではないかという疑問が浮かんできます。

 その上で、今季のJ1リーグ・ファーストステージから敢えて1場面を選んで例示すれば、第9節の鹿島vs甲府。この試合の前半36分53秒に見たシーンは、件の「ミッドフィールドの重要性」を考える上でも、実に有益な分析対象になるはずです。

 ちなみにこれから挙げるシーンは、スカパー!のハイライト映像でも観られるのでぜひご覧になっていただきたい。参考までにハイライト映像のリンク先と該当時間も併記しています。

■1stステージ第9節

鹿島アントラーズvsヴァンフォーレ甲府
36:53~(スカパー!ハイライトの1:05~)
ハイライトのリンク先はこちら
http://soccer.skyperfectv.co.jp/movies/jleague/PGbNfSt_lpQ/

 鹿島がカウンターで攻める場面。甲府のMF(4番・山本)はボール保持者に対するマークを途中で止める。一方で、甲府MF(14番・堀米)は最終ラインにまで戻るという不可解な動きにより、ボール保持者を完全にフリーにし、シュートを打つために十分な時間を与えている。

 なお、この甲府の中盤については、第6節の鳥栖戦でも同様の場面があり、ここではダメ押しとなる3点目を献上しています。

■1stステージ第6節

ヴァンフォーレ甲府vsサガン鳥栖
67:21~(スカパー!ハイライトの2:16~)
ハイライトのリンク先はこちら
http://soccer.skyperfectv.co.jp/movies/jleague/tmPEZkzLgS4/

 鳥栖のFW(11番・豊田)がシュートを打つのは67分28秒。守備の態勢を整えるに十分な7秒もの時間がありながら、一体どうすればこのようにミッドフィールドをがら空きにできるのか。FW豊田のシュートが素晴らしかったのは事実ですが、中盤が“普通に”守備をしていれば極めて高い確率でそのシュートを阻止できたはず(この試合では鳥栖の1点目となるPKを与えた場面など、まさに目を疑うとしか言いようのない守備が散見されます)。(中略)

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