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アーティスト・日比野克彦が語るサッカーとアートの力。日本代表は「アジア代表」としての誇りを忘れてはいけない

現在配信中の『徹マガ』に掲載されている同メルマガ主宰・宇都宮徹壱氏によるアーティスト・日比野克彦氏のインタビュー。発売中の『フットボール批評』の表紙絵を描いている日比野氏がサッカーとアートについて語っている。今回、『徹マガ』の許可を得て特別にダイジェスト版を掲載する(構成=『フットボール批評』編集長・森哲也)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya , editorial staff

「世界、世界」ではなくアジア代表としての誇りを

日比野克彦
サッカーとアートをつなげて表現する活動に力を入れている日比野克彦氏【写真:宇都宮徹壱】

――昨年11月の日本代表のシンガポールとカンボジア遠征では、偶然にも行きも帰りも日比野さんと飛行機が一緒でした。それぞれマッチフラッグのワークショップを開催されていたわけですが、まずはその話題から入りたいと思います。そもそもマッチフラッグの活動は、いつからスタートしたんでしょうか?

日比野 2006年に『アジア代表日本』というプログラムを立ち上げたの。それは日本代表がアジアの代表としてワールドカップに行くことを応援するのが目的なんだけど、拠点が福岡なんですよ。2005年に福岡で九州国立博物館ができるんですけど、これは京都、奈良、東京に次いで日本で4つ目の国立博物館なんですね。

 九州の人たちにとって百年来の夢で、大陸の文化は九州を通って入ってくるのに、なぜその九州に国立博物館がないのかとずっと思っていたわけです。それで太宰府の敷地に九博ができたんだけど、天満宮の宮司さんが昔からの知り合いで、「日比野くんアジアをテーマとした市民参加型のワークショップやってくれないか」って声がかかったんです。

――アジアをテーマにしたワークショップがサッカーに結び付いたのは、やはりドイツに向けたワールドカップ予選を意識してのことでしょうか?

日比野 そうそう。宮司さんも僕もサッカーが好きだし、アジア最終予選もやっていたから「これならアジアというキーワードで行けるな」と。実はもうひとつ、僕が個人的に思っていたことがあって、ワールドカップ出場が決まると「アジア代表である」ことを忘れてしまうんだよね。

 これは日本に限った話ではないけれど、それまでのアジアでの苦しい戦いとか、アジアを代表する誇りみたいなものはきれいに忘れてしまって、メディアも含めて「世界、世界」という雰囲気になってしまう。それは仕方がない部分もあるかもしれないけど、ワールドカップに出場する日本を「アジア代表日本」として応援するっていうことをやろう、というのがスタートです。

――アジア代表日本の活動は今に続いているわけですね?

日比野 それからも4年ごとに日本がワールドカップに出場し続けて、アジア代表日本の活動は続けているね。ちなみにマッチフラッグを作るようになったのは、09年1月の熊本での代表戦からです(1月20日、対イエメン戦)。

 で、去年のシンガポールとカンボジアは、アジア代表として初めての海外遠征だったんです。それがなぜ可能になったかというと国際交流基金の文化プログラムになったから。アジアの中で日本がもっと文化面でリーダーシップをとっていくために、安倍政権が国際交流基金にアジアセンターというのを作ったんです。

 そこで、アジアで展開する文化プログラムに対して資金援助をすることになったんだけど、スポーツとアートという切り口のプログラムがなかった。それで僕のところに相談があって、それならアジア日本代表のアウエー版をやりましょう、という話になったんですね。

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