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「人間の生き方は、仕事に取り組む姿勢と同じにしかなり得ない」。闘将シメオネのフットボール観【後編】

シリーズ:闘将シメオネのフットボール観 text by 江間慎一郎 photo by Getty Images

「重要なことは、ボール保持ではなくスペースの使い方」

S 本当に素晴らしい選手であれば、チームには適応するのだと思う。高クラスの選手というのは、どんなシステムにも対応できるものなんだよ。我々が指揮を執り始めた頃のアトレティコでは、右サイドにジエゴ・リバス、2ボランチにマリオ・スアレス&チアゴ、左サイドにアルダがいて、ストライカーはアドリアン・ロペス&ファルカオ、サイドバックはフアンフラン&フィリペ・ルイスと、守備的な特徴はゼロだった。

 2年目にはコケが台頭してジエゴ・リバスが去ったが、コケはジエゴよりも戦術的な理解力に優れ、次にコスタが退団したファルカオに取って代わった。それとビジャは戦術面で天才的だったね。彼はヒエラルキーの上に位置する真に高クラスの選手だが、その才能をチームのために使えた。我々は徐々に素晴らしいチームとなっていたし、特に昨季は凄まじかったと思う。

 私が何を言いたいかのというと、本当に才能がある素晴らしい選手は、最終的にシステムにはまるものなんだ。監督は優れたプレーを見せる選手たちの起用を望むものだが、それはチームとしての必要性に合致しなければならない。

 もし選手の個性だけにプライオリティーを置いてスタメンを決定すれば、それこそ多くのチームが陥るような状況にはまってしまうだろう。「この選手は良いプレーを見せるし、この選手も良い。だがチームとしては何も良くない」といった具合にね。

 試合の中で、一選手のボール保持時間は何分だ? 長くても3分半~4分だろう。だからこそ、私からはこう言わせてもらう。フットボールにおいて最も重要なことは、ボール保持ではなくスペースの使い方だとね。

 ボールが足下にある時間はわずかであり、80~90分間はスペースを埋めることに費やし続ける。監督が決めるのはスペースの選択、もっと言えばチームがプレーするスペースを用意することなんだよ。そのような観点から考えれば、「前にボールを送れ!」などという指示には、どのような意味があるんだい?

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